財団法人 放送番組国際交流センター / Japan Media Communication Center

お問い合わせ

HOME > 第18回 JAMCOオンライン国際シンポジウム > [報告(4)] フィリピンにおける公共放送の将来

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第18回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2009年1月16日~2月28日

アジア諸国の公共放送

[報告(4)] フィリピンにおける公共放送の将来

Amy Daquilanea-Tanoy
フィリピン大学ビサヤス校放送コミュニケーション 助教授

1. フィリピンにおける公共放送の現状

今日に至るまでフィリピンには公共放送が存在していない。商業ベースの放送に代わる放送チャンネルの確立に向けた動きは今のところ成功していないが、この理由としてRosario-Braidは以下のことを挙げている1。

  • 1-1 政府メディアをなくそうとする政治的意志が政府の側に欠けている。

  • 1-2 公共放送設立に向けたさまざまな動きがうまくコーディネートされていない。

  • 1-3 立法府が公共放送設立を重視していない。

  • 1-4 フィージビリティ・スタディが実施されていない。

公共放送サービスが存在しない中、フィリピンではPhilippine Broadcasting Service – Bureau of Broadcast Services (PBS-BBS) が全国規模のラジオ局を運営し、National Broadcasting(People’s Television Network, Inc. :PTNI)が全国規模のテレビ局を運営している。どちらも大統領府の直接の管轄下にある。これらの政府系放送局に対し、民間ではABS CBN Broadcasting CorporationとGlobal Media Arts Network, Inc. (GMA7) という二大商業放送ネットワークが放送業界を牛耳っている。どちらのネットワークも「公共のための」番組放送を謳っている。

さらにフィリピン固有の現象としてコミュニティラジオ放送サービスがあり、商業ベースのメディアや非商業ベースのメディアの代替として、住民の参加と権利の向上を主要な目的とした番組を流している。

2. 2007年フィリピン公共放送システム (PPBS) 法の草案

2-1 一般規定
上院法案 325号は「フィリピン公共放送システムの設立およびその他の目的の法律」( ACT ESTABLISHING THE PHILIPPINE PUBLIC BROADCASTING SYSTEM, AND FOR OTHER PURPOSES)というタイトルであり、「2007年フィリピン公共放送システム」(Philippine Public Broadcasting System:PPBS)法とも呼ばれている。この法案は2007年7月2日に作成され、Jinggoy Ejercito Estrada上院議員によってフィリピン共和国第14回通常議会に提出された。

この法案の目的は、フィリピンにおいて商業放送システムに代わる公共放送システムを確立することである2。 2007年8月7日の時点で、この法案は第一読会を経て、公的情報とマスメディア、政府企業と公社、方法と手段、財政の委員会に回されている3。

2-2 番組標準の提案
審議会(Consultative Body)は以下のテーマに関する標準コードの策定を委託されている。ニュースのプレゼンテーション、教育番組、農業と食生活に関する番組、女性と青少年の支援、子供番組、フィリピンの人材育成、公共の問題に関する番組、サービスと告知4。

2-3 既存の放送局を改革する提案
この法律が成立した場合、PPBSは、この法律の趣旨を実現するために、政府が所有しコントロールする既存の放送局を整理、再編することになる。People’s Television(PTV 4)およびBureau of Broadcast管轄下の各種ラジオ局の権限、資産、勘定、契約、設備はすべてPPBSに移管され、これらの組織はPPBSが運営を開始した時点で廃止される5。

3. フィリピンにおける放送メディアの現状

3-1 放送業界の概要
フィリピン国民の娯楽と情報の源となっているはまずラジオであり、これにテレビが続く。ラジオの普及率は全世帯の85%、テレビの普及率は74%である6。 AMラジオはフィリピン語に加え、セブアーノ(Cebuano)、ヒリゲイノン(Hiligaynon)、ワレイ(Waray)などの地域言語で放送されている。テレビはフィリピーノ語と英語での放送がほとんどである。今日の時点で、フィリピンには382のAMラジオ局、628のFMラジオ局、247のテレビ局、29のテレビ中継局、2つの有料テレビ、1,501のケーブルテレビ局が存在する7。

下記の表8は1998 年から2007年にかけてのラジオ放送(AMとFMの両方)とテレビ放送の増加を示している。

図1. フィリピンにおけるAM局、FM局、テレビ局の数(1998-2007)

大手の放送ネットワークとしてはABS-CBN Broadcasting Corporation、Associated Broadcasting Company、GMA Network Inc.などのテレビ放送ネットワークがある。政府所有の放送ネットワークはIntercontinental Broadcasting Corporation、National Broadcasting Network、Radio Philippines Networkである。このほか、ACQ-Kingdom Broadcasting Network、Progressive Broadcasting Corporation、Q(テレビ放送)、Radio Mindanao Network、Rajah Broadcasting Network、Southern Broadcasting Network、Studio 23、ZOE Broadcasting Networkなどの放送ネットワークが存在している。

3-2 競争の現状
米国の放送モデルと同様、広告、番組の人気、視聴者の人口構成が需要を決定する。個々の放送会社の利益は、広告収入、番組構成、経営効率にかかっている9。ローカルな放送市場はABS CBNやGMA7といった巨大メディアに支配されている。ABSの純収益は190億8910万ペソ(2007年)10、GMAの純収益は100億8300万ペソ11に達している。

3-3 放送メディアの分類
放送メディアは商業、非商業、政府、コミュニティのメディアに分類できる。

  • 商業-民間企業、私立学校、市民団体、独立の事業体などによるメディアであり、広告収入とビジネスを主目的とする。
  • 非商業-市民団体や宗教団体によるメディアであり、特定の視聴者をターゲットとした番組を放送する。
  • 政府-政府が所有し運営するメディアであり、フィリピン政府の公式番組を放送する。民間の放送局と視聴率を競い合う必要はない。
  • コミュニティ-フィリピンに固有のメディアであり、独立の事業者が低パワーの送信機を使って運営する。住民の権利の向上を目的とする情報番組や教育番組を主とする。


3-4 規制機関
フィリピンには「放送法」と呼ぶに値するような法律が存在しない。交通通信省(Department of Transportation and Communications)のもとには全国テレコミュニケーション委員会(National Telecommunications Commission :NTC)という政府機関があり、フィリピン全土のテレコミュニケーション・サービスの監督と管理を行っているが、その権限はラジオとテレビの周波数の割り当てにとどまり、番組内容の監督にまでは及んでいない12。

戒厳令下のもとに1972年に設立されたKapisanan ng mga Brodkaster ng Pilipinas (フィリピン放送事業者連合:KBP)は、情報を広範に放送することを通じて国民の間に政府の支持をとりつけることを目的としていた。

今日のKBPは放送業界の自主規制機関として放送の質の向上と維持を目指している。KBPはラジオ局とテレビ局のオーナーや事業者から構成されている。

4.Philippine Broadcasting Service-Bureau of Broadcast Services (PBS-BBS)

4-1 初期
フィリピンにおいて公共放送サービスを確立しようとする試みは1946年9月(フィリピンが米国から独立してから2カ月後)、米国が公営のKZFM(現在のDZFM)をフィリピン政府に移譲したときにまでさかのぼる。これによって誕生したのがフィリピン初の放送組織であるPhilippine Broadcasting Service(PBS)である。

DZFMは当初外務省によって運営され、続いてマニュエル・ロハス大統領が1947年9月3日に創設したRadio Broadcasting Board(RBB)に移管された。しかし、RBBは1952年1月に廃止され、フィリピン情報評議会(Philippine Information Council:PIC)がDZFM の運営をはじめとするRBBの機能を引き継いだ。1952年から1969年まで、PBSとDZFMはフィリピン大統領府の管轄下におかれた。

その後PBSはBureau of Broadcast (BB) へと名称を変えた。この結果、フィリピンの公共放送はBBとNMPCによって代表され、視聴者の教育と娯楽のニーズに応えて、フィリピン独自の内容を重視する番組が放送された。番組の軸となったのは公共サービスである13。 1978年にBBとNMPCはメディア局(Office of Media Affairs:OMA)の管轄下におかれた。

1986年、コラソン・アキノ大統領の任期中にメディア局、NMPC、BBは廃止された。これに取り代わるものとして構想されたのが単一の政府放送機関というビジョンである。この放送機関は(単一の個人の声はもちろん)政府の声をオウム返しに流すのではなく、正直でバランスのとれた役に立つ放送を通じて国民の利益につくすものとされた。このビジョンを土台として誕生したのがBureau of Broadcast Services(BBS)である14。

PBS-BBSの現状
BBSはラジオ放送網であり、1986年に14の放送局(各放送局の平均出力は1キロワット)をもって運営を開始した。現在、BBSはフィリピン全土に34のラジオ局を抱えるネットワークへと発展し、1局あたりの平均出力も10キロワットとなっている15。34のラジオ局のうち4つ(DZRB Radyo ng Bayan,、DWBR Business Radio、DZRM、DZFM Sports Radio)はマニラ首都圏に位置し、残りの30は地方に分散している。

PBS-BBS はニュース情報に加えて、フィリピン政府の開発イニシアティブや活動を紹介する番組を放送している。政府の活動とは、政府のプロジェクト、優先政策、大統領の発言やステートメント、決定事項、上院と下院の状況など、国民の生活に関係する政府の各種機関や政策のほとんどすべての動向を含む16。

視聴率に関しては、1986年には政府ラジオ局の聴取者は全人口の25%にすぎなかったが、現在は50%に達している17。 PBS-BBSの番組の中心はニュースと公共の問題に関する番組であり、文化と教育関係の番組がこれを補完してバランスをとっている。

5. People’s Television Network, Inc. (PTNI) からNational Broadcasting Network (NBN-4) へ

5-1 初期
1974年にはGTV-4は唯一の政府テレビ局であった。1980年にGTV-4はMaharlika Broadcasting System, Inc. (MBS) へと名称変更され、1986年にはさらにPeople’s Television 4 (PTV4) になった。コラソン・C・アキノ大統領は1992年3月26日に共和国法7306に署名し、PTV Networkを政府公社とした。このネットワークはPeople’s Television Network, Inc (PTNI) と呼ばれ、ニュース、公共の問題、教育、文化、スポーツの番組を視聴者に提供する役割を担った。

PTNIはフランス政府から7420万フラン(2800万ペソ)の援助を受け、送信機、スタジオ、ビデオ装置、オーディオ装置などの設備を改善することができた。

1992年6月、フィデル・ラモス大統領は一回限りの政府資金供与でPTNIを援助した。それ以降、PTNIは収益に基づいて運営を続けている。

5-2 NBN-PTNIの現状
1992年以降、PTNIはPALAPA C2衛星システムを使って フィリピン全土に番組を流しており、現在では全国の32の放送局を通じて人口の85 %をカバーする18。

National Broadcasting Network (NBN) という名称は、2001年7月16日にグロリア・マカレイグ・アロヨ大統領がPTNI を新しい経営下においたときに浮上してきた。People’s Television Network, Inc. (PTNI) という名称も残され、NBNは全国のテレビ局を運営する政府のTVネットワークを指すことになった。政府が運営するのはIntercontinental Broadcasting Corporation (IBC13)、Radio Philippines Network (RPN 9)、National Broadcasting Network (NBN-4) であった。 PTNIはHall of Fame最良放送局賞、1987年最良バランス番組構成賞、カソリック・マスメディア賞などを受賞している。また、Tele-aralan ng Kakayahan、Ating Alamin, Batibo、 For Art’s Sake、 Coast to Coast、Paco Park Presentsといった パイオニア的な教育、文化、公共サービス番組も制作している。

Continuing Education Via Television (CONSTEL) というタイトルの教育番組は、「教育文化スポーツ省(DECS)の地域分野別リーダー・スクールによる教師研修」や「高等教育委員会による高等教育機関教師研修」で教材として使用されている。この番組は小学校と中学校の理科と英語の教師のスキルを向上させることを目的としている(理科と英語の授業スキルの向上はDECSが推進している)。 PTNIはオリンピックをはじめとするメジャーな国際スポーツ競技もカバーしている。

2003年2月19日には、Television and Radio Broadcasting Service (TARBS) と共同で立ち上げたNBN Worldを通じて、海外在住のフィリピン人にもNBNの番組が放送されるようになった。オーストラリア、北米、アジア太平洋地域では、AGUILA 2を使った衛星放送によってNBNを見ることができる。

2001年7月16日、グロリア・マカレイグ・アロヨ大統領が任命した新しい経営陣のもと、PTNIはNational Broadcasting Network (NBN) という名称を採用し、「単一の国民、単一の国、単一のビジョン(One People. One Nation. One Vision)」という新しいスローガンを採択した。

PTNIの番組の11 %はニュース、13%は公共の問題、16%は教育関係、19%はスポーツ、36%は娯楽、5%は宗教関係となっている19。PTNIの公共問題関連の番組としてはTinig ng Bayan(国民の声)、Headline、Talakayan sa Makati (マカティのフォーラム)、Woman Watch、Dighay Buhay 、Congress Forumなどがある。公共サービスと教育関係の番組はDamayan、Infoline、Tele-Aralan 、 Ating Alaminなどである。

6. ABS-CBN Broadcasting Corporation

6-1 会社プロファイル20
ABS-CBN Broadcasting CorporationはAlto Broadcasting System-Chronicle Broadcasting Networkとも呼ばれるフィリピン最大の放送ネットワークであり、Channel 2、Studio 23、Channel 2を中心としてフィリピンの95%をカバーする。系列の放送局は30を数える(そのうち23はABS-CBNが所有し、経営している)。Studio 23はフィリピン国民のおよそ半数を視聴者とする。ABS-CBNはラジオ局も20抱えている。

ABS-CBNはロペス・グループを通じてロペス家によって所有されている。

ABS CBNはThe Filipino ChannelやTFCを通じてフィリピン、米国、中東、欧州、オーストラリア、その他の国にも電波を流している。マニラ首都圏以外の放送についてはそれぞれの地域のネットワークが担っている。

6-2 番組
ABS CBN Broadcasting Networkのテレビ局はニュースと時事、フィリピンのドラマ、コメディ、外国のショー、娯楽、ニュースとトークのショー、ゲーム・ショー、教育ショー、リアリティ・ショー、バラエティのほか、地域の祭り、コンサート、文化行事、スポーツなどの特別番組も放送している。

6-3 会社のスローガン
ABS CBNは放送をもって社会的責任をはたすことを誇りとしている。ABS CBNのスローガンは「フィリピンの国民につくす(In the Service of the Filipino)」であり、ABS-CBN Foundationの活動には Kapamilya (「家族の一員」という意味)というモットーがいつも随伴している。

7. GLOBAL MEDIA ARTS Network, Inc. (GMA 7)

7.1 会社プロファイル21
フィリピンのもう1つの大手の放送ネットワークは、Duavit、Jimenez、Gozon家が所有するGMA Network, Inc. (Channel 7) である。

マニラ首都圏では、GMA Networkは地上局のVHFチャンネルl 7 (DZBB-TV)、チャンネル11 (DZOE-TV、ZOE Broadcasting Networkからリースし、Qが運営)とUHFチャンネル27 (DWDB-TV) を使用している。

会社プロファイルによれば、GMA Networkはフィリピン全土に46のVHF(Very High Frequency) テレビ局を擁している。このなかには、マニラ首都圏の中核局に加え、セブ、イロイロ、ダバオ、ダグパンの発信局、3つのUltra High Frequency (UHF) 局、1つの系列局が含まれる。

GMA-7は24のラジオ局と1つのマイノリティ所有のラジオ局を運営している。中心となる局はAM バンドのDZBBとFMバンドのDWLSである。

GMAはGMA Pinoy TVという国際チャンネルを通じて海外在住のフィリピン人にも番組を流している。現在のところ、米国、カナダ、日本、シンガポール、グァム、サイパン、香港、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、英領ディエゴガルシア、中東の16カ国、北アフリカの11カ国、欧州の49カ国が対象となっている。

7-2 番組
GMAの番組は以下のように構成されている。ニュースと時事、ドキュメンタリー、ドラマ、吹き替えの海外連続ドラマ、娯楽関係のニュースとトークショー、ゲーム・ショー、バラエティ、ミュージカル、コメディ、子供番組、アニメ、ファンタジー、リアリティ・ショー。

7-3 会社のスローガン
GMAは「Kapuso (「心は一つ」)であることを誇りとする」をスローガンとしている。GMA-7は社会的責任も重視しており、GMA Kapuso FoundationとKapwa Ko, Mahal Ko Foundationが実施するコミュニティ・プロジェクトを通じて公共へのサービスに取り組んでいる。

8. GMAとABS CBNの競争関係

ABS-CBNが息を吹き返す前は、海外のショーの放映が主流だったフィリピンにおける放送界のリーダーはGMA 7だった。ニュースは英語で放送されていた。封切りの映画はなく、警察や犯罪のストーリーもほとんどなかった。公共の問題に関する番組は政治や社会問題を内容とするものではなかった。公共の問題に関する番組はニュース番組からの収入によってまかなわれていた。

1986年、ロペス家は放送ネットワークを再建し、できる限り広範囲の視聴者をターゲットとして、ニュースと公共問題の番組に新しいフォーマットを持ち込んだ。これは実際には米国の番組に手を加えたような内容で、ニュースストーリーを刺激的に伝えるタブロイド判のジャーナリズムを公共問題の番組にまで拡大したものだった。視聴率を上げて利益を増やすために、芸能界のスキャンダル、血だらけの殺人現場、犯罪者のサウンドバイト、むごたらしい死体などが放送された22。

GMA 7のKapuso 、ABS-CBNのKapamilyaという モットーは視聴者のロイヤルティを獲得するのに貢献した。KapusoであることはGMA 7を好むことと等しく、KapamilyaiであることはABS-CBNを好むことに等しい。ABS CBN 2とGMA 7の競争は激しさを増し、視聴率を巡る戦いとなった。

こうした競争の結果、同じような番組がつくられることも多く、「オリジナルのコンセプトはどの局のものか」や「どの局がどの局をコピーしたか」が問題となった。しかし、オリジナルであることはベストであることを意味しない。また「視聴率が重要であり、最も楽しめるショーが勝つ」ことは言うまでもない。

2つのネットワークが演じたラジオ局やテレビ局を巡るセンセーショナルな争いはマスコミで広く伝えられた。「誰それがどの局からどの局へ引き抜かれた」といったたぐいのニュースである。GMA 7が育てたタレントがABS CBNへ移ったり、あるいはABS CBNのタレントがGMA 7へ移ったりといったセンセーショナルなニュースがプライムタイムのニュースや娯楽の番組で大きくとりあげられた。誰がどの局へ移籍したかがプライムタイムの視聴率を押し上げ、新聞のヘッドラインとなった。

AGB Nielsen Media Research Philippinesが視聴率の数字を操作したとの訴えがABS CBNによって起こされたことも放送業界の大きな話題となり、ネットワーク間の戦いをエスカレートさせる一因となった。たとえば、ABS-CBNはボコロド市での放送事業に関してGMA Networkが賄賂を贈ったと訴えている(GMA Networkはこれを否定している)。

2008年1月7日、ケソン市の地方裁判所はGB Nielsen Media Research Philippinesに対するABS-CBNの訴訟を「時期尚早」ということで斥けた。2008年2月14日には、ABS-CBNによるGMAを中傷する報道を差し止める仮命令が出された。裁判所のこの決定にもかかわらず、戦いは終結からほど遠い23。

9. TAMBULIコミュニティ・メディア・プロジェクト

9-1 初期
TAMBULIコミュニティ・メディア・プロジェクトは、600以上のラジオ局24(ほとんどは商業ベースで、残りは政府と宗教組織の局)が存在するフィリピンではめずらしい試みである。これはユネスコからの25,000米国ドルの助成金を使ってLouie Tabingが始めたプロジェクトである。

TAMBULIプロジェクトによる最初の放送局はバスコに開設されたRadio Ivatanであった。バスコはフィリピン最北部の列島に位置するバターン州の第5級自治体である。

2番目の放送局はマニラからおよそ85キロメートル南にあるバタンガス州のラウレルに、3番目はフィリピン中部に位置するパナイ島にそれぞれ開設された。番組の制作や放送局の管理はボランティアによって行われている。これらの放送局は基本的に非商業、非政治、非宗教ベースの放送局として分類される。

9-2 TAMBULIの現状
フィリピン最南のホロやザイボアンガから南東の環境フロンティアであるパラワン、さらには北端のバタネスまで、TAMBULIの20の放送局はフィリピン各地の村に広がっている。TAMBULIプロジェクトは住民の権利向上を情報の提供を通じてサポートしている。メディアにバックされたディスカッションや討論を通じて、各地の住民は既存の開発がもたらす機会をより効果的に利用し、地域の発展を追求することができる25。こうした功績もあり、TAMBULIプロジェクトは世界各地の22のプロジェクトと競い合ってユネスコ農村地域コミュニケーション賞(UNESCO Rural Communication Prize)を受賞、20,000ドルの賞金を獲得した。

tambuli (バランガイの首長が人々を会議に招集するのに使う水牛の角または巻き貝を意味するフィリピン語)という名前の先駆的なプロジェクトは「恵まれない人々の発展に向けた小規模コミュニティの声」を代表している。

このプロジェクトは次の5つの目的を指針としている26。

(1) 地域からの情報へのアクセスを可能にする。

(2) 村落が自分たち意見や考えを表現できるようにする。

(3) コミュニティとしての相互の結合を図る。

(4) アイデンティティを強化する。

(5) 視聴者を単なる受信者から参加者、コミュニケーション・システムの管理者へと変身させる。

放送局の運営と番組制作は分野横断型の審議会であるコミュニティ・メディア・カウンセル(Community Media Council:CMC)によって行われている。カウンシルのメンバーの大半は放送関係者として健康、教育、青少年、農業、高齢者、環境、漁業従事者、女性、法律などの問題に取り組んでいる。プロジェクトの目的は、CMCが放送局の最終的なオーナーとなることである。

9-3 番組
番組編成は各放送局のニーズによって決まる。Dagronによれば、環境に関する番組はトゥバホンでは 「自然は宝(Ang Kinaiyahan Bahandi)」というタイトルだが、ロレトでは「私たちと環境(Kita Ug Ang Kinaiyahan )」、マラグサンでは「環境を大切に(Ang Pag-Amping Sa Kinaiyahan)」というタイトルになっている27。コミュニティをベースとするラジオ局で最も一般的なのは、村の集会、結婚、死亡、着信郵便、家畜の行方不明、迷い子、地方立法に関する情報、農産物、農業サービスなど、そのコミュニティの行事や出来事を伝える短い番組である。

10. 公共放送の課題

フィリピンでは商業ベースか非商業ベースかを問わずラジオ放送とテレビ放送が増加の一途にある。しかし、教育や文化のためのメディアの利用となるとまだまだ不十分である。国や地域の諸問題に関する報道では特に不十分さが目立つ。教育を最も必要とする貧困層のニーズに応えるような番組はほとんど制作されていない。既存のメディアは企業や株主の利益にがんじがらめにされており、番組の品質よりも視聴率で競争している。政府系のメディアの場合、番組は政府によってコントロールされており、ニュースや情報は政府寄りになっている。 メディアが生き残るには収入を得なければならない。しかし、収入を得ること自体に問題があるわけではないとしても、利益をあげることにとりつかれ、視聴率を重視しすぎるようでは、質の高い番組を見たいという人々のニーズを無視することになりかねない。責任あるメディアの役目は、センセーショナルなニュースを創り出すことではなく、自分たちの主張と利益を擁護するためにプライムタイムを利用することでもなく、人々に情報とニュースを伝えることにある。放送ネットワーク同士が中傷し合い、番組の中で互いを非難しているような現状は、メディアとしての義務と責任の放棄の現れといえる。

広告とビジネスだけに引っ張られたインフォテインメント番組(情報と娯楽を組み合わせた番組)の広がりに見られる競争の激化は、Kapisanan ng Mga Broadkaster ng Pilipinasのコードに真っ向から反し、「視聴者の価値とバランスをゆがめる」おそれがある。このコードは公共問題の番組を「国内と海外の重要な問題に関するディスカッションと解説を通じた市民精神の育成と啓発に向けた番組」として定義している28。

コミュニティラジオの経験は、情報、教育、文化の番組を通じた住民の権利向上の手段としてラジオを活用する可能性に道を開いた。45以上のコミュニティラジオ局29のつながりに加え、インターネットや携帯電話などの新しいメディアやテクノロジーが新しい方向を示している。フィリピンには多様性を特徴とする非集中型の公共マルチメディア・センター(Public Multimedia Center)も存在する30。

マイノリティや社会から排除された人々を考慮した番組というコンセプトのもとに公共放送サービスが人々のニーズに真の意味で応えるには、政府放送局から明確に区別された放送局でなければならない。この公共放送局は政府ではなく公共機関によって所有、管理され、資金調達され、コントロールされる31。こうした方針を確立し、実現するためにも、上院法案325号の十分な討議が必要である。

商業メディアが支配的なフィリピンでそれに代わる放送チャンネルを確立しようとしる運動は以前からあった。これを実現するうえで求められるのは、1) 政府放送をなくし、公共放送システムの確立に向けた立法化を推し進めようとする政府の側での政治的意志、2) 公共放送の土台となった過去の運動を継続するために分野を横断した諸グループの努力を調整すること、さらに3) 自分たちが欲していることと自分たちが必要としていることを区別しようとする動きの中で積極的な役割を担う国民の支持である。



1. “Philippines To Transform State Broadcasting System into Independent Public Broadcasting”という記事の中で引用されているFlorangel Braid-Rosarioのスピーチ。この記事はAsian Institute on Journalism and Communication のRamon R. Tuazon(ニューデリー) が2005年3月21日に発表したもの。
http://portal.unesco.org/ci/en/ev.phpURL_ID=18407&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html 
に掲載。

2. 第14回議会に提出された上院法案 No. 325「2007年フィリピン公共放送システム法」(注釈、パラグラフ4)。 2007年8月8日にhttp://www.senate.gov.ph/lis/bill_res.aspx?congress=14&q=SBN-325(上程法案)に掲載。

3. 第14回議会に提出された上院法案 No. 325「2007年フィリピン公共放送システム法」(注釈)。 2007年8月8日にhttp://www.senate.gov.ph/lis/bill_res.aspx?congress=14&q=SBN-325(上程法案)に掲載。

4. 第14回議会に提出された上院法案 No. 325「2007年フィリピン公共放送システム法」(第III章セクション12。 2007年8月8日にhttp://www.senate.gov.ph/lis/bill_res.aspx?congress=14&q=SBN-325(上程法案)に掲載。

5. 第14回議会に提出された上院法案 No. 325「2007年フィリピン公共放送システム法」(第VI章セクション25)。2007年8月8日にhttp://www.senate.gov.ph/lis/bill_res.aspx?congress=14&q=SBN-325(上程法案)に掲載。

6. Freedom of Expression and the Media in the Philippines, (part of a series of baseline studies on seven Southeast Asian countries, page 28), ARTICLE 19, London and CMFR Manila, ISBN 1 902598 80 6, 2005年12月28ページ。http://www.article19.org/pdfs/publications/philippinesbaseline-study.pdfに掲載。

7. National Telecommunications Commission、http://www.ntc.gov.ph , (‘n.d’) に掲載。

8. National Telecommunications Commission、http://www.ntc.gov.ph (‘n.d’) に掲載。

9. TV Cable, Pay & Broadcast Networks, http://www.hoovers.com/tv-cable,-pay-&-broadcast-networks/–ID__328-/free-ind-fr-profile-basic.xhtml Last Quarterly Update: 8/25/2008

10. ABS-CBN_Broadcasting_Corporation – ABS-CBN wikipedia, http: en.wikipedia.org/wiki/ This page was last modified on 16 October 2008, at 18:34.

11. GMANetwork, en.wikipedia.org/wiki/ This page was last modified on 16 October 2008, at 18:34.

12. Freedom of Expression and the Media in the Philippines, (part of a series of baseline studies on seven Southeast Asian countries, page 28), ARTICLE 19, London and CMFR Manila, ISBN 1 902598 80 6, 2005年12月28ページ。 http://www.article19.org/pdfs/publications/philippinesbaseline-study.pdfに掲載。

13. BBS-Agency Profile, http://www.ops.gov.ph/bbs/agency_profile.htm (‘n.d’)

14. BBS-Agency Profile, http://www.ops.gov.ph/bbs/agency_profile.htm (‘n.d’)

15. Office of the_Press_Secretary_(Philippines) http://www.news.ops.gov.ph , 2008年10月22日

16. About the Bureau of broadcast, http://www.ops.gov.ph/bbs/index.htm ) 2008年10月22日

17. OPS,Bureau of Broadcast, http://www.ops.gov.ph 2008年10月22日

18. About NBN, http://www.nbni.tv/about-nbn, 2008年10月22日

19. Office of the Press Secr3etary, http://www.news.ops.gov.ph , October 22, 2008

20. ABS CBNの会社プロファイルに関するデータの大半はhttp:www.benpres holdings.com/media/HDNWIzaMLopez_Link_20064.pdf(‘n.d’) をソースとする。

21. GMA Networkの会社プロファイルに関するデータの大半はhttp://www.gmanetwork.com/ (’n.d.’) をソースとする。

22. “The Empire Strikes Back”。Luz Rimban著のFrom Loren to Marimar: The Philippine Media in the 1990s. (1996年) という書籍から。

23. PEPEditoryal, War beyond Figures, http://blogs.pep.ph/pepeditoryal/?p=25 – 81k, Views, 2008年1月10日

24. RADIO FOR ISLAND COMMUNITIES, ‘Tambuli’in Philippines http://www.i4donline.net/aug04/tambuli.pdf, 2004年8月号

25. RADIO FOR ISLAND COMMUNITIES, ‘Tambuli’in Philippines, with credits from the article Communicating for Development by Colin Fraser and Sonia Restrepo-Estrada, I.B.Tauris Publishers, London, New York, 1998 (pp. 190-218). http://www.i4donline.net/aug04/tambuli, 2004年8月号

26. Making Waves: TAMBULI(Alfonso Dagronの論文www.comminit.com/en/node/1649/307 – 52k, 2001年発表)http://www.comminit.com/en

27. Making Waves: TAMBULI(Alfonso Dagronの論文www.comminit.com/en/node/1649/307 – 52k, 2001年発表)http://www.comminit.com/en.

28. Media ownership and control in the Philippines Sheila S. Coronel http://www.wacc.org.uk/index.php/wacc/publications/media_development/…4/media_ownership_and control in the_philippines (‘n.d’)

29. “Philippines To Transform State Broadcasting System into Independent Public Broadcasting”という記事の中で引用されているFlorangel Braid-Rosarioのスピーチ。この記事はAsian Institute on Journalism and Communication のRamon R. Tuazon(ニューデリー) が2005年3月21日に発表したもの。
http://portal.unesco.org/ci/en/ev.phpURL_ID=18407&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html
に掲載。

30. “Philippines To Transform State Broadcasting System into Independent Public Broadcasting”という記事の中で引用されているFlorangel Braid-Rosarioのスピーチ。この記事はAsian Institute on Journalism and Communication のRamon R. Tuazon(ニューデリー) が2005年3月21日に発表したもの。
http://portal.unesco.org/ci/en/ev.phpURL_ID=18407&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html
に掲載。

31. “Philippines To Transform State Broadcasting System into Independent Public Broadcasting”という記事の中で引用されているFlorangel Braid-Rosarioのスピーチ。この記事はAsian Institute on Journalism and Communication のRamon R. Tuazon(ニューデリー) が2005年3月21日に発表したもの。
http://portal.unesco.org/ci/en/ev.phpURL_ID=18407&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html
に掲載。

※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。

Amy Daquilanea-Tanoy

フィリピン大学ビサヤス校放送コミュニケーション 助教授

1983年 フィリピン大学ディリマン校コミュニケーション研究修士号 学士号 放送コミュニケーション・マスコミ専攻, フィリピン大学ディリマン校 ラジオ制作に関する特別研修(フィリピン、セブの放送プロダクション・トレーニング・センター) <関連分野での経験> 台本制作者、ドキュメンタリー番組のディレクター、資料スペシャリスト:情報、教育、コミュニケーションの資料、校内放送研究所の設立に尽力(フィリピン大学ビサヤス校)

これまでのシンポジウム

Copyright Japan Media Communication Center All rights reserved. Unauthorized copy of these pages is prohibited.