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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第25回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2016年12月~2017年6月

主要国のテレビ国際展開の現状と課題

趣旨説明
~放送コンテンツの海外展開と「国家ブランド力」~

田中 孝宜
NHK放送文化研究所 上級研究員

 「クールジャパン戦略」と銘打って官民が一体となり、日本のコンテンツの海外展開が推進されている。コンテンツと一言でいってもマンガ・アニメ・ファッション・日本食など多様であるが、中でも放送番組コンテンツは一つの核と位置付けられる。日本の放送コンテンツの海外販売は着実に増加しており、その額は過去最高を更新中である。

 放送コンテンツの海外展開に力を入れているのは日本だけではない。2016年9月、ロンドンでメディア関係者が一堂に集まって開かれた放送の将来を考える会議に参加したが、BBCやSkyなどイギリスの放送局に加え、ダウントンアビーを世界的なヒットに導いたNBCユニバーサルやアメリカのOTT事業者Netflixなどの代表者が、どうしたらコンテンツを海外でヒットさせることができるのか熱く話し合っていた。

 なぜコンテンツの海外展開を目指すのだろうか。まず「ソフト・パワー」という言葉に象徴される政治的な理由が挙げられるだろう。国際社会の中で、自国のプレゼンスを高め、イメージを向上させ、自国についての理解を深めることは、軍事力に劣らず、国の力の源泉である。また経済的な理由も大きい。例えば、ドラマが世界的にヒットすれば直接の販売収入に加えて、関連商品が売れたり、またロケ地を訪問するインバウンドの観光客が増加したりする波及効果も期待される。

 かつてはアメリカなど先進国から途上国に一方向に流れていた放送番組コンテンツが、今では送り手も受け手も多様化している。また、完成番組の放送権の販売だけでなく、フォーマットや制作手法、ドラマのリメイク権など販売方法も多様化している。さらに、かつては売買の主体は放送局であったが、Netflixのようにインターネットを通してコンテンツがグローバルに国境を超えることも可能になった。情報通信技術の進展がメディア環境を大きく変え、コンテンツの海外展開を加速させている。

 こうした中で、今回のJAMCOのシンポジウムでは、イギリス、トルコ、中国、韓国、そして日本の実務者や研究者から、それぞれの国の放送コンテンツの海外展開をめぐって、歴史的経緯、サービスの実態、展開の主体・対象、方法、戦略・目的などを報告していただく。

 イギリスは放送の国際展開の面では先駆者といえるだろう。BBCはラジオ時代の1932年に大英帝国の旧植民地に向けて国際放送を開始して以来、多言語で国際放送を行っている。また湾岸戦争をきっかけに1991年、24時間ニュースチャンネルを開始した。さらに、BBCのコンテンツを海外に商業展開するために営利子会社「BBCワールドワイド」を設立した。今回のJAMCOのシンポジウムでは、BBCワールドワイドのアジア部門の担当者に報告を依頼した。

 西洋以外の国からの国際放送も増えている。その一つ、今回のシンポウジムではトルコを取り上げる。トルコで国際放送を担っているのは国営TRTである。1992年TRTはヨーロッパや中央アジアでトルコ語放送TRT-Int.を開始した。その後、段階的に放送エリアを広げるなどサービスを拡大し、2016年には英語での国際テレビ放送を始めた。シンポジウムでは、メディアに強い影響力を持つといわれるエルドアン大統領のもとで進められる国際放送強化策の目的や戦略についてトルコの大学の研究者に報告していただく。

 中国はどうだろうか。海外に出かけてホテルでテレビをつけると中国のチャンネルが必ずといっていいほど見られる。主要な国際放送はCCTVの24時間英語ニュースチャンネルである。中国政府が膨大な予算をつぎこむCCTVの国際放送は、外国における中国のイメージ向上というプロパガンダ機能が与えられている。シンポジウムでは、中国出身で、現在北海道大学で教えている研究者に報告をお願いした。

 韓国の国際放送としては、公共放送KBSによるKBSワールドと韓国政府が設立した財団が運営するアリランTVがある。しかし中国のように巨額の財源が投入されているわけではない。一方で、「韓流ドラマ」に代表される番組コンテンツについては、政府の全面的なバックアップを受け官民挙げて強力に海外に売り込みを図っている。韓国のコンテンツの海外展開の現場に精通している実務経験者に現状を報告していただく。

 日本では、2000年代前半から、主に政治主導で発信力強化の必要性が言われ始めた。現在進められている「クールジャパン戦略」は経済成長策の一つにも位置づけられている。日本の放送コンテンツの海外展開の現状と課題については、青山学院大学で教鞭を取る専門家に分析していただく。

 コンテンツの海外展開の成否を左右するカギの一つが「国家ブランド力」ではないだろうか。イギリスでは1990年代後半「クール・ブリタニア」をキャッチフレーズに国家ブランド戦略が推進された。日本の「クールジャパン」も日本ブランド構築の一環ととらえることができる。各国とも「国家ブランド」を高めることにしのぎを削っている。
コンテンツ展開の現状や課題は国によって異なるだろう。また、得意なコンテンツや売り込むための戦略も国によって異なるだろう。逆にいえば、コンテンツの海外展開から、その国の「国家ブランド」が見えてくるかもしれない。

 いずれにしても、メディアとりわけテレビを通じた海外発信の重要性は政治的にも経済的にも増しており、その実態と狙い、将来展望を探る意義は小さくない。今回のJAMCOシンポジウムで取り上げる国は、ある意味で日本とライバル関係にもなりうるが、よりよいコンテンツ制作のために、より豊かな放送文化のために少しでも役立つ情報提供ができればと期待している。

田中 孝宜

NHK放送文化研究所 上級研究員

上智大学外国語学部英語学科
英国リーズ大学 国際社会文化研究修士
名古屋大学大学院 国際開発学博士

1988年、日本放送協会入局。2011年より現職。
主な研究テーマは、災害報道、国際協力、公共放送の世界的潮流など。

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