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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第26回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2017年12月~ 2018年6月

テレビのインターネットへの取組み―各国の事情と課題―

「インターネット時代に向き合う公共放送」~フランス~

新田哲郎
NHK放送文化研究所 特任研究員

1. 要点
 フランスの公共放送フランステレビジョン(France Télévisions、FTV)にとって、2010年代は、組織として分割されていた各チャンネルを1つの会社のもとに結集する内部的統合のプロセスと、外に向かってはデジタル化完了後のメディア環境のもとで、インターネットによるオンラインサービスを各プラットフォームにユニバーサルに展開するという放送・通信の融合のプロセスが、2人のリーダーのもと継続して行われた「統合と融合」の時期と言える。
 2010年8月にFTVの社長に就任したレミー・フリムラン(Rémy Pflimlin)氏は、France2、France3など5つのチャンネルに分かれ、事務管理も番組編成も別々だった組織を単一の会社「France Télévisions」に統合させた。2013年5月には労働組合との間で新しい労働協約を締結して組織の統合を実現させた。
 一方、当時出遅れていると言われたインターネットへの展開については、2011年にニュース専門のサイト「francetv info」を、翌年には番組の無料見逃し視聴サイト「francetv pluzz」を開設して飛躍的にアクセスを増加させた。
 2015年8月、フランス最大手の電気通信会社オレンジ (Orange、旧France T élécom)の副社長だったデルフィーヌ・エルノット氏(Delphine Ernotte、当時49歳)が、公共放送テレビ初の女性社長としてフリムラン氏の跡を継ぐことになった。通信出身のエルノット新社長は予想にたがわず、放送と通信の融合サービスを積極的に拡大する方針を打ち出した。2016年9月1日、FTVは地上デジタルの新チャンネルとインターネットの各プラットフォームの双方に同時配信する24時間ニュース専門サービスの「Franceinfo」を開設した。若い世代への接触を目指して、衛星、ケーブル、IPTV、スマートフォンなどへのユニバーサルサービスとなっている。
 エルノット社長はさらに、Netflixなどによってヨーロッパでも飛躍的に伸びているSVOD(ビデオの定額見放題サービス)を開設する計画で、同年2月23日に経営委員会の了承も得た。フランスオリジナルの映像作品を優先的に提供して、Netflixに対抗するというのが、エルノット社長の狙いで、近い将来のサービス開始を目指している。

2.フランス放送界の概況
 フランスの公共放送は、France Télévisions(FTV)、Radio France、France Médias Monde(国際放送)、ARTE(仏独共同放送)、INA(国立視聴覚研究所)の5機関で、テレビのチャンネル数は合わせて9、このうち公共放送France Télévisionsは6チャンネルを持っている。
 商業放送は大手3社のTF1、Canal+、M6を含め、無料18、有料5チャンネルの、合わせて23チャンネルが全国放送を行っている(2017年9月時点)。全国放送チャンネルは公共放送とあわせると32ある。
 ローカル放送は公共放送France TélévisionsのFrance3のもと、24の地方都市にローカル放送局があり、ネットワークを構成している。ローカル商業放送は合わせて41チャンネルあるが、首都パリの商業放送局と系列関係はなく、ネットワークもない。
 地上デジタル化は2011年11月末に完了している。2016年4月には、テレビの地上デジタルチャンネルすべてがHDへ切り替えられた。映像・音声伝送の信号圧縮方式MPEG2が、より高性能のMPEG4に転換され、地デジチャンネルすべてがHD化された。これに合わせて、約80%の世帯がセットトップボックスをアップグレードして対応し、残る20%は新しいテレビに買い替えた。
 首都パリで視聴可能なチャンネルは、地デジ、ケーブル、衛星、ADSLすべてを含め合わせて135チャンネルある。2016年の、テレビの1日の平均視聴時間は3時間43分で、2015年に比べ1分減った。

3.公共放送の成り立ち
 国家の声とも言われたフランスの放送は、長年国家に直接管理されてきた。保守のポンピドゥー大統領時代の1972年の放送法には「フランスのラジオ・テレビは国家の独占物である」と明記されている。
 肥大化した、France Télévisionsなどの前身のフランス放送協会、(ORTF、Office de radiodiffusion et télévision française)は1974年、保守のジスカールデスタン政権のもとで、中央統括機構を認めない完全分割が行われることになった。機能区分による再編成が行われ、ORTFはテレビ局3、ラジオ局1、番組制作会社1、番組送信会社1、それに国立視聴覚研究所の7つに分割された。
 左派のミッテラン政権時代の1982年、新しい放送法が「視聴覚コミュニケーションは自由である」と宣言して放送の国家独占を放棄し、放送事業への民間からの参入の道が開かれた。商業放送局が次々と誕生し、1987年には公共放送第一チャンネルが民営化され、現在の商業放送最大手のTF1に至っている。
 チャンネル間の競争が激しくなるなかで、公共放送再統合の動きが出てきた。2000年の放送法改正で、政府出資の持ち株会社France Télévisionsが設立され、公共放送各局がその子会社とされていった。各局の番組制作と編成、労働協約と人事・給与体系などは別個のままで存続したが、2009年の放送法改正でFrance2、France3、France4、France5、それにRFO(フランス海外ネットワーク、現在はFranceÔ)の5つのチャンネルがFTVのもと統合された。

4. France Télévisionsの現況
 統合されたFrance Télévisionsの各チャンネルの現在の任務とサービスは以下の通りである。
  • ・France2
    ニュースと娯楽の総合編成チャンネル。ドラマや文化番組などは外部の番組制作会社の制作である。グループ内他局も同様。
  • ・France3
    マルセイユやレンヌなど24の地方都市に主要な地域局を置き,ローカルニュースや地域制作の番組を放送している。
  • ・France4
    子供と若者向け挑戦のチャンネル
  • ・France5
    教育・教養チャンネル
  • ・FranceÔ
    本土に住む海外県・海外領土出身者向けに地上デジタル,衛星放送,ケーブルテレビを放送し海外事情を伝えている。
  • ・Franceinfo
    2016年9月に放送とインターネットの双方で同時配信を開始した24時間のニュース専門チャンネル。地上デジタル放送では第27番目のチャンネルを独立規制機関CSAによって付与された。

 France Télévisionsのほかの公共放送機関として、ARTE、Radio France、France Médias Monde、INAがあるが、この報告はFTVを主な対象としている。

5. 放送通信融合サービスの概況
5-1. インターネット・ブロードバンド
 総務省の世界情報通信事情によれば、フランスでは2015年6月末現在で、ブロードバンド加入者数は約2,626万。このうち83.6%がADSLで、超高速ブロードバンドが14.6%である。モバイル・ブロードバンドはスマートフォンの普及とともに利用が拡大しており、2014年末現在、利用者数は4,281万、普及率は64.7%である。

5-2. IPTV
 フランスでは2003年12月にインターネットプロバイダーFreeがADSLによるテレビサービスを開始し,今では世界でも有数のIPTV市場に成長している。急速な発展については,政府が20億ユーロ(約2,400億円)を投じて回線の光ファイバー化を進めたことや,IPTVのプロバイダーが比較的割安なトリプルプレー(電話,インターネット,テレビ)のパッケージサービスを提供したことなどが要因として挙げられている。
 Freeに続いて,France Télécom(現在はOrange)やBouygues Telecom それにNumericable-SFRなどの通信事業者がIPTVサービスを提供している。サービスの加入世帯は2015年3月時点で約1,730万に達している。

6. France Télévisionsのインターネットサービス
6-1. サービスの内容
 France Télévisionsは2005年11月にヨーロッパのほかの公共放送に先駆けて,番組の視聴(ストリーミング)と購入(ダウンロード)ができるVODサービス「francetvod」を開始した。
 2012年5月には,放送後7日以内の番組の見逃しサービスと放送の同時配信を提供する無料サービス「francetv pluzz」を開設。放送後8日目からの番組の多くはfrancetvodに代わって「francetv pluzz VAD」というVODサービスが有料で提供されている。
 また放送とインターネットが融合したコネクトテレビの欧州スタンダードであるHbbTV(Hybrid Broadcast Broadband TV)i)に対する配信サービスも2011年5月に開始した。
 2016年9月からは、24時間のニュース専門のサービスFranceinfoがインターネットと地上デジタルテレビの双方に同時配信を開始した。エルノット社長は、通信分野出身らしく放送と通信の融合サービスを積極的に展開しようとしている。

6-2. インターネットサービス最近の動向
 2017年5月9日France Télévisionsは、5つのチャンネルごとにあるVODのサイトを統一し、新サイト「France.tv」のサービスを開始した。この新サイトでは1日に放送される合わせて500本近いFTVの番組を、ニュース、スポーツ、文化、教育、青少年などのジャンル別に検索し、放送から7日目までの番組は無料のキャッチアップで、また8日目以降は原則有料のダウンロードで視聴できる。同じ役割を果たしてきた先行のfrancetv pluzzやfrancetv pluzz VADは、このfrance.tvにやがて吸収される予定だ。またこのサイトでは一部のニュース番組をライブで視聴できる。
 FTVは2016年9月、ウェブとテレビの双方に同時配信するニュースサイトFranceinfoを開設したが、近い将来にはドラマや映画が定額見放題のSVODサービスも開始する計画だ。france.tvを含めて、当面はこの3つのサイトがFTVのデジタル戦略の主力となるとみられる。

7. インターネットサ-ビスの法的根拠
 公共放送によるこうしたインターネットサービスの積極的な展開の根拠はどこに求められるのだろうか?もともとフランスでは、民間からの参入を認めた1982年の放送法以来、放送を視聴覚コミュニケーション(communication à l’audiovisuel)の1つと位置付け、「私信の性格を持たない、すべての種類の符号、信号、文言、映像、音響、またはメッセージをなんらかの電気通信の方法により、公衆に供与すること」と定義している。VODサービスなどは、この視聴覚コミュニケーションに含まれるというのがフランス国内での一般的な解釈である。
 インターネットを始め、通信へのサービス展開の法的根拠としても、放送法の条文がまずある。2007年3月に改正された放送法の第2条で、「テレビサービスとは、すべての公衆あるいはある種の公衆が同時に受信でき、その主たる番組が映像と音声で構成された電気通信による公共コミュニケーションのすべてを言う」と規定され、通信による番組配信もテレビサービスとすることが法的に明確に定義された。
 さらに2009年改正放送法第43条には、「France Télévisionsは、公共サービスの使命に応じて、ビデオオンデマンドなどを含む視聴覚コミュニケーションの様々なサービスを編集し放送する」「デジタルテクノロジーの発展を考慮し、その番組にすべての公衆がアクセスできるよう努める」とあって、デジタルへの取り組みが公共放送の本来的な使命の1つと規定された。
 このように法的な整備が進む一方で、2007年~2010年のCOM,目標手段契約 ii)では、「視聴覚分野のニューテクノロジーの発展に積極的にかかわるという政策の枠組みにおいてFrance Télévisionsは、以下のことについて牽引車としての役割を果たさなければならない」としており、「アナログ放送停止と地上デジタルの普及、HDTV(ハイビジョン)放送の導入、携帯テレビとVODの発展、無断コピーとの戦い」を掲げている。
 そして2016年12月にFTVと政府との間で調印された最新の2016年~2020年の目標手段契約では、FTVの融合サービスの展開をさらに加速させるため、政府が補助金の額を増額すると約束している。

8. 新財源としてのインターネット
8-1. 受信料の範囲内か新たな財源か
 インターネットへの展開は当初、子会社によって行われたが、2010年から本体で行うべき業務と位置付けられ、FTV本体に移された。受信料を含むFrance Télévisionsの予算の枠組のなかでインターネットサービスが行われている。一方、エルノット社長は将来的にはデジタル市場において新規収入を開拓していくとしており、テレビの広告収入に加えて、新たな財源として融合サービスにおける広告収入などにも期待をかけている。

8-2. デジタル機器への対応
 デジタル機器によるテレビ番組の視聴について、法的にはすでに、公共放送負担税を納税する義務は、従来型のテレビ受信機だけでなく、新しい媒体でテレビ番組を視聴している世帯にも拡大されている。2005年の「租税一般法典第1605条以下の規定」がその根拠で、それによると、「世帯の私的利用のために、テレビ受信機、またはテレビの受信が可能とみなされる装置を所有することを条件として、居住の用に供される家具を備えた場所に対して住居税の課税対象とされているすべての個人、および、テレビ受信機またはそれと同等とみなされる装置をフランス国内の場所で所有することを条件として、上記の個人以外のすべての個人、および法人」を対象に課税されることになっている。
 しかし実際にはこれまでのところ、テレビを持たずにほかのメディアで視聴している世帯から徴収されたことはない。現状据え置きとなっている。テレビを持たずに、そのほかの媒体でテレビ番組を視聴する家庭がどの程度あるのか実態を把握しにくいし、そもそも少ないとみられているからである。

9. 受信料制度今後の課題
 フランスの民間の調査会社Médiamétrieが2017年1月発表したところによると2016年、インターネットのオンラインサービスを通じて、パソコン、タブレットそれにスマートフォンによってテレビ番組を視聴したのは、2015年より5分増えて1日平均19分だった。また視聴世帯の16%が従来型のテレビを持たず、35歳以下の65%はネットでしかテレビ番組を視聴していなかった。
 この調査結果からは、従来型のテレビ受信機による視聴がじわじわと減りつつある一方で、若い世代では、ネットによるオンライン視聴が主流になりつつあるという実態が伺える。
 この流れを受けて、テレビを持たないもののスマートフォンなどで視聴している世帯から受信料(公共放送負担税、contribution à l’audiovisuel public)を徴収することが今後大きな課題となるだろう。
 これについて、同じように公共放送負担税に支えられているRadio Franceのマチュー・ガレ(Mathieu Gallet)社長は、2017年2月7日のル・モンド紙のインタビューで、「受信料制度ができた時、デジタル機器はなかった。いまや制度改革は不可欠だ。ドイツ方式の負担金制度(テレビ受信機の有無に関わらずすべての世帯、事業所に支払い義務がある)の導入などを早急に検討すべきだ」と述べている。これに対して、所管の経済・財務省は、公共放送負担税については、2018年度の予算編成では制度の見直しを行わず、2019年度以降に見送る方針だと8月31日付のル・モンド紙が伝えている。

10. 公共放送によるネット積極展開への批判
 フランスでは公共放送が積極的にニューメディアへの展開を図ることについて、日本で聞かれるような「民業圧迫」という批判の声はこれまではほとんどなかった。ただこれについてFTVの経営陣は、FTVのネットサービスが過去においてTF1など商業放送のそれに比べ、ニュース、スポーツ等の配信において遅れをとっていて、そのため商業放送側からの反発がほとんどなかったと認識している。
 2011年8月に就任したフリムラン会長は、デジタル開発を戦略の中心に位置付け、日刊紙、ル・モンドの電子版制作で功績のあったブルーノ・パチーノ iii)氏を招いてその司令塔とし、デジタル展開に注力した。ニューメディアのマーケットで、公共放送の存在感が大きく増した場合、「国による公共放送への過剰援助」といった批判が噴出してくる可能性もあったが、それほど大きな声にはならなかった。フランスではむしろ、政府の後押しを受けた公共放送機関が先頭に立って新規事業に取り組み、失敗のリスクも背負いながら、新しいサービスに挑戦するのは当たり前のことだという受け止め方が一般的なようだ。

11.今後の展望と3つの課題
11-1.放送と通信の融合
 フランス最大手の電気通信会社Orange(オレンジ、旧France Télécom)出身のエルノットFTV社長は放送と通信の融合サービスのさらなる展開に公共放送の将来を託しているようだ。そのミッションがあればこそ当時48歳という若さで、メディアに対する独立規制機関CSAが初の女性社長指名(2015年4月、就任は同年8月)をしたと推測される。
 エルノット社長の任期にほぼ重なるFTVの2016年から2020年の5年間の事業計画COM(目標手段契約)が2016年12月1日に国家との間で合意、調印され、国の後押しも受けて融合サービスの展開をさらに加速することになった。
 具体的には、24時間のニュース専門のサービスとして、インターネットと地上デジタルテレビの双方に2016年9月1日から同時配信を開始したFranceinfoについては、ローカルニュースを担うFrance3による地域情報の充実などによってさらに多様な内容を提供したいとしている。
 そして、アメリカの動画配信事業者NetFlixによって、最近ヨーロッパでも飛躍的に増えているSVOD(ビデオの定額見放題サービス)について、FTVも2017年中に同様のサービスを開始し(2018年秋の開始にその後延期された)、NetFlixなどアメリカの動画配信事業者に対抗して、フランスオリジナルの映像作品を積極的に提供するとしている。
 そのコンテンツの確保のため、フランス製の映画や連続ドラマなどのクリエーションに対して、FTVがこれまでの年間4,000万ユーロから200万ユーロ多い4,200万ユーロ(約50億円)を毎年出資するなどして貢献することを目標の1つとしている。
 こうした目標を実現させるため政府は、FTVに対するこれまでの補助金削減政策を改め、COM(目標手段契約2016~2020)によれば、2016年度には2,800万ユーロの補助金を2017年度には3,800万ユーロに、さらに2020年には政府補助金を6,300万ユーロ(約75億円)に増加させるとしている。

11-2.永続的で安定した財源
 補助金増額は国との間で交わした約束である。しかし、政権が交代すると、その約束が反故にされ、政府補助金が約束通りに各年度FTVに支給されるとは限らない。現にオランド社会党政権は、サルコジ政権時代に調印された2011年~2015年の中長期計画COMを見直し、2013年~2015年の修正COMを策定して、当初の予定より補助金を大幅に削減した。経済の停滞で財政難の政府が緊縮策をとり、公的セクターに対する援助をカットしたためだった。
 これと似たようなことが、マクロン政権のもとでもまた起きそうである。メディアを所管するフランソワーズ・ニセン文化大臣は2017年9月14日、France TélévisionsやRadio Franceなど公共放送機関の来年度予算を削減する方針を明らかにした。これは予算審議が国会で進み、マクロン政権が公的セクターの緊縮策をとろうとする中、ニセン大臣が明らかにしたもの。2018年度の公共放送5機関の予算は2017年度に比べ総枠で8,000万ユーロ(約104億円)減額するという。オランド前政権は、France Télévisionsの予算について、2016年から2020年の中長期計画にあたる目標手段計画で、デジタルサービス拡大などのため予算増額を約束していたが、マクロン政権に代わって早くも計画見直しを迫られることになったのである。
 フランスでは政権交代によって、放送政策も変更されることがたびたびある。だとすれば、政府補助金に頼らずにFTVの経営の自立、編集の独立を守るためには、やはりドイツ方式の導入などによる永続的で安定した受信料制度の確立を待つしかないのであろうか。

11-3.公共放送会社の再統合
 2015年9月、公共放送に関する議員報告書が、議会上院の文化委員会に提出された。財源問題についてはドイツ方式の導入を勧奨したうえで、公共放送機関の組織的な再統合を提案した。組織として別々に存在していた公共テレビの5チャンネルが2009年にFrance Télévisionsのもとに統合されたが(現在は6チャンネル)、今度は「France Média」という持ち株会社を新たに作って、そのもとに2020年までに、France Télévisions とRadio Franceを統合、さらにほかの公共放送機関についてはまず、オンラインサービス部門を統合するというものだ。
 こうした統合の試みはすでに助走の段階に入っているようだ。既述のように2016年9月1日、インターネットとテレビの双方に24時間ニュースを同時送信するFranceinfoが開始された。このプロジェクトの運営については、別組織として独立している公共放送会社のうち、France Télévisions とRadio France、国際放送のFrance Média Mondeそれにアーカイブを管轄するINAがコンテンツや要員、資金などの面で協力態勢をとっている。それはニュースの編集部門における公共放送機関の統合の先駆けであり先導となるものとの狙いがあるようだ。
 2010年代後半のフランスでは、放送と通信の融合サービスのさらなる発展、それを支える永続的で安定した財源制度の確立、そして単なる合理化ではない有機的に機能する公共放送機関の再統合が模索されているのである。



  • i. France Télévisions、TF1、Samsung、Philips、Sonyなどが共同参加
  • ii. contrat d’objectifs et de moyens、政府と公共放送が結ぶ中長期計画で、計画の立案に政府が関与する一方、契約期間中の財源を政府が保障するシステム
  • iii. Bruno Patino、France Télévisionsの元デジタル戦略推進局長

新田哲郎

NHK放送文化研究所 特任研究員

東京大学文学部仏文科

1979年、日本放送協会入局
カンボジア、イラン特派員
英語ニュースNHK WORLD編集責任者
2009年より現職
主な研究テーマは公共放送の制度と財源、独立性

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