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テレビの未来―インターネット社会での課題

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第27回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2018年12月~2019年3月

テレビの未来~日本とヨーロッパ

趣旨説明
テレビの未来―インターネット社会での課題

村神 昭
コーディネーター

 テレビの未来を、グローバルな視点から見ると、民間放送と公共放送の二元体制を原理とする日本の放送は、民間放送のシェアが圧倒的なアメリカよりも公共放送が存在感を持つヨーロッパに類似している。歴史的観点からみても、BBCをはじめとするヨーロッパの放送は、日本の針路の参考にされることが少なくない。放送の未来を考えるとき、日本とヨーロッパの双方を見ていくことは意味を持つと考える。

 2018年度の第27回JAMCOオンラインシンポジウム「テレビの未来~日本とヨーロッパ」の一つの柱は日本のテレビの未来であり、もう一つの柱は日本のテレビの未来にとって深くかかわるヨーロッパの公共放送の現在の状況である。
 今回のオンラインシンポジウムは、2017年度の第26回JAMCOオンラインシンポジウムのテーマである「テレビのインターネットへの取組み―各国の事情と課題―」の続編として行う側面を持つ。前回のオンラインシンポジウムもJAMCOのホームページで、ぜひご覧いただきたい。

 簡潔に振り返れば、前回の2017年度は、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカについて公共放送を中心にテレビ局のインターネットへの取り組みの歴史、現状、課題を紹介した。
 これらの国々では、インターネットを通じた動画視聴が拡大し、テレビ視聴は、視聴時間の減少やタイムシフト視聴への転換などの変化が出ている。この傾向は日本でも同様になっている。そして、ヨーロッパの主要国イギリス、ドイツ、フランスではテレビ局がインターネットを使った同時送信を展開するなどインターネットの活用が盛んで、放送通信の融合が進んでいる。

 イギリス、ドイツ、フランスでは、2000年代に入ると、放送・通信の融合に合わせて法制度の本格的な改正が進み、公共放送の財源制度も改革の対象になった。イギリスは2003年、放送と通信の融合法ともいわれる放送通信法を制定、受信許可料制度も2016年からは同時、見逃し視聴に関わらずBBC iPlayerの利用は受信許可料の対象になった。ドイツは2008年にインターネットを公共放送の本来業務に位置付ける法改正を行ったのにつづき、2013年には「放送負担金制度」を導入した。フランスでは2007年の法改正で、通信による番組配信もテレビ・サービスと定義され、2009年にはデジタルへの取り組みが公共放送の本来的な使命の一つとされた。

 日本ではヨーロッパから大幅に遅れて、2018年に、放送と通信の融合をめぐる論議が活発化した。2018年6月に政府の規制改革推進会議が「通信と放送の融合」を柱とする答申を提出。7月に総務省の有識者会議が、NHKが番組を放送と同時にインターネットに流す「常時同時配信」を巡り、受信料の見直しなどを条件に容認する報告書案をまとめた。

 こうした動きをふまえて、2018年度のJAMCOオンラインシンポジウムでは、初めにも述べたように、日本の放送の現状と課題・展望に様々な角度から光をあてる論考をいただき、日本の放送の未来を考えることを一つの柱とした構成とした。
 NHK放送文化研究所の村上圭子研究主幹には「“放送の未来像”に関する議論とその論点」と題して、まずは日本国内での2018年上半期以降の議論を中心に報告いただくことにしている。青山学院大学総合文化政策学部の内山隆教授には「テレビの未来 もう一度、原点に戻り媒体特性を」とのテーマでテレビ、新聞等とインターネットの各メディアの特性を分析しテレビの未来を論じていただくことにしている。日本大学危機管理学部の小向太郎教授には放送通信の融合を法制度の面から論じていただければと考えている。

 また、海外でもヨーロッパで、公共放送の受信料制度をめぐる大きな制度変更が議論され、放送の未来像に深く関わるこうした議論に焦点を当てた論考をもう一つの柱とした。
 NHK放送文化研究所の中村美子研究主幹には「ヨーロッパの公共放送~進む財源制度改革と不透明な未来~」と題する論文の中でデンマークとスウェーデンの公共放送の受信料制度の変化を取り上げヨーロッパの公共放送の未来を論じていただくことにしている。そして、イギリスからは、通信・放送の規制機関であるOfcomのJacquie Hughesさんにイギリスの公共放送BBCに対するOfcomの規制を中心に論文をいただければと考えている。

 インターネットの台頭によってテレビは大きな課題を抱える。いくつかの課題の山を越えた向こうに、テレビの未来がある。ビジネス・スキームの課題をどう解決するのか。ヨーロッパで変貌を続ける公共放送の財源制度の改革はどう進めるのか。希少性を根拠としないネット世界の公共性をどう語り、業務範囲をどう説明するのか。4K8Kの登場でテレビ受信機の大型化が進もうとする中で、手のひらサイズのスマートフォーン向けと同じコンテンツを配信してユーザーのニーズに応えられるのか。以上は主にテレビ局からの伝送路としてのインターネットの問題だが、別次元の影響もある。

 これは、テレビに限らず新聞などのメディア、特にマスメディアにも言えることである。インターネット社会は、現場・当事者から直接に情報発信できる社会である。アメリカのトランプ大統領はTwitterで重要な問題を発信し、メディアはそれをフォローする。火災や事件の一報は「SNSへの投稿をメディアがどう拾うかという時代だ」という主張もある。このインターネット社会でメディアが果たす役割は何か。ジャーナリストの手を経ない報道は経済的、効率的かもしれないが、作為、不作為を問わず一面的報道や誤報、フェイクニュースを生み、メディア不信を拡大することになりかねない。

 本シンポジウムの狙いからは少し広がりすぎるが、テレビの未来はインターネット社会のメディアの未来と深くかかわっている。

村神 昭

コーディネーター

1972年NHK入局 政治部 テレビニュース部 報道局 編成局
放送文化研究所で勤務 2006年退職
現在 ジャーナリスト 日本記者クラブ会員

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