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~2018年後半~2019年1月の議論から~

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第27回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2018年12月~

テレビの未来~日本とヨーロッパ

“放送の未来像”に関する議論とその論点
~2018年後半~2019年1月の議論から~

村上圭子
NHK放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹

 2018年後半から現在(2019年1月)にかけても、“放送の未来像”を巡る政策動向は大きく動いている。放送を巡る諸課題に関する検討会(以下、諸課題検)では、放送法改正が必要な常時同時配信の実施を含めたネットサービス、受信料のあり方の見直し、ガバナンス改革からなるNHKの“三位一体改革”が議論されてきたが、いよいよ常時同時配信実現に向けた放送法改正の動きが佳境を迎えている。また11月には諸課題検で放送事業の基盤強化に関する検討分科会(以下、基盤強化分科会)が立ち上がり、主に経営の観点から、ローカル民放の未来像に関する議論が開始された。そして12月には、自由民主党の「放送法の改正に関する小委員会(以下、自民小委)」が、ローカル民放の“積極的な再編”を盛り込んだ第二次提言を公表した。この提言は、今後、基盤強化分科会が受け皿となって議論が進んでいく予定である。
 中でも最も大きく動いたのはNHKに関する内容であった。表1は2018年後半から2019年1月までのNHKを巡る主な政策である。この表をもとに、主な動向を追記する。

表1


表1

NHK改革

1. 常時同時配信を巡る動向

 常時同時配信については、2018年12月の自民小委の第二次提言でも「次期通常国会での放送法改正案の提出を目指すこと」とされた。2019年1月にはNHKの上田良一会長も、会見で改めて法改正に向けた決意を述べた。NHKは2019年度中に常時同時配信の開始を目指している。
 ただ、この法改正にあたっては、諸課題検の第二次取りまとめで“条件”が、民放連からは8項目の“要望”が出されている。共通して示されたのは、徹底した情報公開、ガバナンス改革、業務全体の見直し、受信料のあり方の見直しである。そして民放連からはより具体的に、「区分経理の採用によるネット活用業務の見える化」 「ネット活用業務の受信料収入2.5%上限の維持」「NHK常時同時配信の地域制御」「ネット配信事業における民放事業者・NHKの連携」が示された。
 この中で最大の課題は常時同時配信開始後もネット活用業務の費用を受信料収入2.5%以内にとどめるという要望である。これについてNHKは11月の諸課題検で、常時同時配信は「NHKの業務の中でも、質的にも量的にも重要度が高い位置づけのものとなる」とした上で、「これまでの業務に加え、常時同時配信にかかる費用についても内容を精査し、適正な上限の中で、抑制的に管理する」と回答するにとどめた。しかし、民放連からは改めて2.5%の上限の維持が要請され、その後、2019年1月の民放連会長会見でも釘を刺されている。
 1月にNHKが総務省に示した2019年度のネット活用業務の予算は2.4%で、約169億円であるが、仮に常時同時配信が始まった場合、常時同時配信と一緒に行う予定の見逃し配信と合わせてNHKは「権利処理費を含まず、年間50億円前後と試算している」ため、2.5%の上限を維持することになると、現行実施しているネット活用サービスを大幅に縮小しなければならない。TVerやradikoに参加するための費用もかかる。放送法が改正されるとNHKは現在運用中の「インターネット実施基準」を変更し、パブリックコメントを経て総務大臣の認可を受け、常時同時配信を実施することになる。この上限2.5%を巡っては、法改正後に実施基準変更の際に改めて具体的なやりとりとなっていくだろう。

2. 受信料のあり方を巡る動向

 NHKは2018年11月、2018年度の受信料収入(見込み)の4.5%程度の値下げの方針を示した。「2017年12月の最高裁判所判決以降、受信契約が堅調に増えていることなどにより、計画を上回る収入を確保する見通し」となったこと等が理由であるとNHKは説明している。
 ただ受信料値下げについては、2015年9月に公表された自民小委の第一次提言で、総務省とNHKに対し、受信料の義務化による支払率向上と徴収経費削減で可能となる値下げのシミュレーションを行い、その上でNHKには値下げに関する計画を作成することが求められており、唐突に出てきたわけではない。
 同じ第一次提言では、総務省に対して我が国に最もふさわしい受信料制度の設計が要請されている。2017年7月には、NHK会長の常設諮問機関として設けられた「NHK受信料制度等検討委員会」が、NHKに対して、イギリスのBBCと同様、テレビ受信機を持たず、常時同時配信のみの利用者に関しても費用負担を求める「受信料型」を目指すことに一定の合理性があるとする答申をまとめたが、その後この議論は止まったままである。NHKの上田会長は2019年1月25日に行われた共同通信らのインタビューに対して「新たな受信料制度の創設は視聴者、国民の理解を得た上で、どう具体的にしていくかだと思う」と述べた。常時同時配信の放送法改正後、どのタイミングでどんな形でこの議論が立ち上がってくるのか。それは、NHKの受信料制度の議論にとどまるのか、それともNHKの問題にとどまらない、通信放送融合時代の“放送”の再定義につながる議論になっていくのか。まだ議論の方向性は見えていない。

ガバナンス改革を巡る動向

 ガバナンス改革については、重要項目の1つであった子会社のあり方を見直す抜本的な改革として、NHKは2018年12月に2つの合併を発表した。数々の不正が発覚したNHKアイテックも、NHKメディアテクノロジーと合併して新会社となる。新会社には、効率的で透明性の高い組織運営がより一層求められることになるだろう。

ローカル民放の経営基盤強化

 自民小委の第二次提言では、ローカル民放の未来像について方向性が示された。それについても触れておきたい。
 そこでは、122社が各放送エリア内で“切磋琢磨”してきた時代から、“統廃合”へと向かう時代が想定されている。この提言は本稿執筆時点(2019年1月半ば)で自民党のホームページには公開されていないので、記録の意味も含めて少し丁寧に内容を記す。
 提言では冒頭に問題意識をこう述べている。「民放テレビでは、1960年代から系列化=ネットワーク化が進み、1980年代に総務省(当時郵政省)が『全国4波化』政策をすすめ、その結果、今のようなテレビ局の『ネットワーク』が全国的に構築された。(中略)この仕組みは、東京から地方への情報発信の流れをつくりだし、全国的に『東京への憧れ』を生み、わが国の経済成長に寄与してきたと言える。しかしながら、現在、東京一極集中の弊害や地方創生が叫ばれ、人口減少・少子化が急速に進行し、更に、インターネット等の技術革新により経済社会構造や日常生活が大きく変革しつつある。旧来型の社会システムからの脱却は急務であり、地方自治体や地方銀行、大学と同様、民放テレビも大きな曲がり角に来ている」。この問題意識には筆者も納得するし、民放事業者にも余り異論はないであろう。
 その上で自民小委は、総務省および業界に対して早急に対応を要請するものとして8つ提言している。文言で目立つのは「再編」、それも「積極的な再編」という言葉が2度も使われていることである。ただ、2019年1月の諸課題検・基盤強化分科会を見る限り、当面はローカル民放の「コンテンツ制作能力の向上」のための支援策に議論は進んでいきそうである。
 総務省は今後、自民小委の「積極的な再編」の促進という要請をどこまで受け止め検討していくつもりなのだろうか。
 右肩上がりの経済状況の中で局数を増やす政策を決めることより、右肩下がりの経済状況の中でどういう未来像を描いていくのかを決めることの方が、難易度が高いことは想像に難くない。そのため、まずは“大きな曲がり角”に放送政策はどう向き合っていくべきか、今後の地域社会において地域メディアはどのような姿であることが望ましいのか、このような大局的かつ長期的な観点からの議論が必要だ。総務省にはせめてそうした議論の場を用意することについて臆病であって欲しくない。これは総務省に対してだけでなく、諸課題検の構成員に対する期待でもある。基盤強化分科会の議論は始まったばかりである。引き続き注視していきたい。

村上圭子

NHK放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹

1992年NHK入局。報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。

通信・放送融合時代のテレビ・放送の今後のありかた、災害情報から見る新たな情報環境と社会、政策意思決定プロセスや課題解決における新たな公共空間のあり方とメディアの役割について取材・研究。

主な著書・論文:
『これからのテレビを巡る動向を整理する~Vol.10』(「放送研究と調査」NHK放送文化研究所 2017年7月)
『これからの“放送”はどこに向かうのか~Vol.2』(「放送研究と調査」NHK放送文化研究所 2018年10月)
『公共政策形成と世論の新たなステージ~東日本大震災以後のエネルギー・環境政策を題材に~』(「放送メディア研究13 世論を巡る困難」 NHK放送文化研究所 2016)
『災害ビッグデータ活用の今後』(「都市計画306」 日本都市計画学会 2013)

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