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~Ofcomの初年を振り返る~

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第27回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2018年12月~2019年3月

テレビの未来~日本とヨーロッパ

BBC規制監督への新たなアプローチ
~Ofcomの初年を振り返る~

ジャッキー・ヒューズ
Ofcom コンテンツ政策局長

 2016年、イギリス政府はBBCの特許状更新に向けた最終見直しを行った。政府から委託された独立委員会によりBBCの企業統治(ガバナンス)と規制監督のあり方が見直され、2016年3月、政府は、BBCの規制監督はOfcom(Office of Communications:放送通信庁)に移管されるべきだという結論に達した。2016年5月、政府は「放送白書」(White Paper)を通して、BBCの規制監督はOfcomが行うべきであるという政府決定を公式発表した。
 2016年12月15日、イギリス政府は2017年から2027年を有効期間とする新特許状およびデジタル・文化・メディア・スポーツ省とBBCが交わした協定書を発表した。特許状と協定書はともに、新特許状有効期間中にBBCがどのように運営されるべきかを定めるものである。
 特許状と協定書の発表に基づき、Ofcomでは私たちに課された新しい責務―BBCのコンテンツの高い基準を維持する、BBCの使命と公共目的に関してBBCに説明責任を果たさせる、BBCが事業分野における公正で効果的な競争を阻害しないことを保障する―に関するコンサルテーションを行った。
 新特許状を付与し、基本法に沿った2027年までのBBCへの取り組みを更新する中で、政府は、BBCは躍進するイギリスの放送エコロジーとクリエイティブ・エコノミーの中核であり、多くの国民の生活に貴重な貢献をしていると認めている。しかし、BBCの使命と公共目的を見直すにあたり、政府は、BBCの独特な財源制度と特権的立場が正当化されるためには、BBCはいくつかの主要分野でいっそうの努力をしなければならない点を明示した。
 新特許状と協定書は、BBC設立以来最も大きなガバナンスと規制に関する改革である。初めて外部の独立機関に規制を委ねること自体に、編集基準、考え得る市場への影響、全体の業績、不偏不党性に関して、BBCにこれまで以上の説明責任を課したいという政府の意図が表れていた。また、Ofcomに新しい機能を付与したことは、Ofcomの規制機関としての実績、規模、信頼性、公共放送に係る主要分野でのこれまでの貢献さらには融合と連携が加速する中で放送通信業界全体を俯瞰してきたOfcomの価値―が認められたことを示している。

訳注:イギリスにおける公共放送(Public Service Broadcasters、PSBs)は、BBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5など5つの事業者を示す。伝統的に地上放送免許を持つ事業者であり、これら事業者が提供するサービスへの規制の度合いも強い。

 イギリス政府はOfcomに新しい責務を果たすための重要な権限を付与したが、Ofcomにとってきわめて重要なのは、ガバナンスと規制の違いを明確に示し、これを理解してもらうことである。
 Ofcom は「影の理事会」ではない。新特許状は、BBC理事会(BBC Board)とOfcom の役割を明確に区別している。理事会の最も重要な役割は、BBCが公共の利益のために行動し、さらに広範囲になった特許状が定める責務を全うするよう保障し、戦略、サービス提供、効率性、業績評価を監督することである。一方、Ofcomの役割は、BBCが視聴者のためにならないことをしている場合に行動を起こし、同業他社との関係において理にかなった行動をするよう保障することである。この任務を全うするため、Ofcomは、BBCに違反があった場合にBBCに説明責任を果たさせる強固な執行権限を有している。
 これは、これまでの統治体制との決別を示している。以前はBBCトラストがガバナンスと規制の両方の責任を担っていたが、Ofcomの新しい役割はまったく異なっており、Ofcomによる規制の枠組みも、外部の規制機関という立場と放送業界全体を規制してきた経験を反映した、真に新しいものになっている。
 Ofcomは新たに与えられた複雑な要求事項を理解するのに有識者の判断を参考にしたが、この柔軟性を備えていたことが、Ofcomが効果的に機能するのに重要な点であった。Ofcomは政府からも規制対象の組織からも完全に独立しているが、同様に重要なのはBBC自体の独立性である。規制機関が制作決定、編成決定、管理体制の細部に介入してはならず、BBC自体に創造に関するリスクを冒したり組織運営方法を自らが選択したりする余地を与えなければならない(ただし、根幹をなす責務を果たし続けるという条件で)。

<新特許状の優先事項>

 今回の特許状で初めて、「卓越したサービスとコンテンツの提供を保障すること」、「イギリス全土の多様なコミュニティーのすべてを反映し、代表し、奉仕すること」、「地域・地方の住民の特定ニーズに応えること」が、絶対的な責務としてBBCに課された。政府は「放送白書」とそれに続く新特許状を制定するために視聴者やステークホルダーたちの意見を公募した。上記のBBCの新たな責務には、こうした意見が反映されている。Ofcomもこの3点を強調することに合意し、BBCの業績評価というOfcomの新しい任務の初期作業を行うにあたってはこの3点に重心を置いた。

卓越性(distinctiveness)
 「卓越性」は新特許状と協定書の要であり、BBCの新しい使命と公共目的の項目として具体的に定められた。Ofcomは、この点―BBCが高品質な卓越したコンテンツをすべての視聴者に届けること―を考慮に入れて、新たに付与された規制権限を行使すると表明した。これには複雑で繊細な判断が必要となる。BBCが創造に関するリスクを冒す余地を狭めてはならないからだ。すべての視聴者に卓越したコンテンツを届けることがBBCにとってのインセンティブにならなくてはならない。また、Ofcomの役割は、BBCが何を提供しているのか、また、それが視聴者にどのような影響を与えているのかを注意深く観察することである。特定の達成基準を定めることもできるが、その際にはきわめて慎重な検討を要する。まさにこの点が、「卓越性」についての意味のある目標を定めるにあたっての課題である。

多様性(diversity)
 特許状と協定書の定めにより、イギリス全土の多様なコミュニティーのニーズを測りそれに応えること、取り上げられることの少ないコミュニティーに配慮すること、その際には今日のイギリスの生活を「しかるべく正確・正当に」描写をすることがBBCに求められるようになった。さらに、従業員の機会均等も促進しなければならない。
 Ofcomは、それらの責務を果たす方法についてはBBCに説明責任を担わせ、自らはBBCの業務の評価と調査を行い、定期的にBBCの主要目的に関する業績を報告し、Ofcomが発行する「運営免許」にコンテンツに関する具体的な要求事項を定めると表明した。さらに、BBCの業績に関する最初の「臨時」調査は、BBCテレビでの取り上げ方について複数の側面から見た量的かつ質的な幅広い調査になると発表した。

地域・地方(Nations and Regions)
 各地域の住民のニーズに合ったコンテンツとサービスを提供すること、およびそれぞれの地域のクリエイティブ・エコノミーに投資することで各地域の発展に貢献することは今やBBCの公共目的である。
 この点に関するOfcomの役割は明確である。それは、BBCが確実にスコットランド、ウェールズ、北アイルランド、イングランドの住民すべてにサービスを行きわたらせることができる条件を整えることである。これには、各地域のニーズを反映した番組制作の範囲、質、放送時間に関する目標基準を設定することや、各地域・地方の番組制作の比率を定めることが含まれる。

 Ofcomは、BBCの規制について全責任を負うにあたっての以下の基本姿勢に合意した。

  • BBCは放送の礎であることを認識する―BBCは特別なステータスを持っているが、特別待遇を受けるべきではない。
  • 新BBC理事会の初期責任を明示する―特許状が定める使命と目的を達成するための戦略を決めること、エディトリアルに関する苦情を受理し回答すること、イギリスの公共サービスの変更に関する「公共の利益審査(Public Interest Test)」を行うことは、OfcomではなくBBCの責務とする。こうして規制とガバナンスを分けることは、BBC内での正しい行いを引き出すインセンティブになるだろう。
  • Ofcomの豊かな知識と経験を十分に活用する―私たちにはBBC、その他の公共放送、さらに幅広い放送業界を規制してきた豊富な経験がある。そしてすでに編集基準、競争、業績という主要分野でBBCを規制監督する役割を担っている。
  • 必ずステークホルダーに助言を求める―市民、消費者、ステークホルダーの意見を参考にして判断がなされることを保障する。
  • BBCに何を期待しているのかを明示する―さらに、物事が誤った方向に進んでいる場合のOfcomの対処方法をはっきりと示す。

<OfcomのBBC規制に関する「運営枠組み」 >

 特許状と協定書は、Ofcom がBBCの規制監督方法を定める「運営枠組み」 (Operating Framework)を発行するよう定めた。私たちは、BBCのコンテンツとサービスのすべてが、新しい使命と目的を果たすために寄与していることに対して疑う余地がないような、明快で効率的で理解しやすい説明責任に関する枠組みを作ろうと誓った。
 Ofcomの役割は「編集基準」、「競争」、「業績」の主要3分野を規制監督することである。私たちが策定した「運営枠組み」には、BBCに説明責任を担わせるためにOfcomが用いる規制手段が設定された。それぞれの分野に関するOfcomの役割詳細については、個別に有識者の意見を求めた。「運営枠組み」の最終版は2017年3月に発表された。以下は、Ofcomが規制監督を行う分野の要約である。

編集基準
 Ofcom は、BBCを最初の窓口とする「放送局ファースト」を基準とした苦情対応システムを定め、これを公表した。BBCはエディトリアルに関するあらゆる苦情に対応するが、BBCの回答に納得がいかない場合やBBCの対応が遅い場合にはOfcomに直接苦情を申し立てることができるシステムである。BBCのコンテンツに対する苦情であればどんなものでも、正確さや公平性の判断を含め、Ofcom が審議を行うことができる。Ofcomは「一般事項」と「エディトリアル」についてそれぞれの制裁手続きを示し、「公正な取り扱いとプライバシーの侵害」(Fairness & Privacy)およびオンラインコンテンツに関する苦情受理の手続きをまとめた。また、政党放送(Party Political Broadcasts)や「アクセス・サービス」(Access Services:手話や音声解説などのサービス)に関する規則を制定・施行し、さらに、編集基準に関する問題について調査とテーマ別の見直しを行うことができる。

競争
 OfcomはBBCの業務分野における公正で効果的な競争を保障しなければならない。そのために多様な手段を用いている―すなわち、新サービスの導入を含めBBCの諸活動の変更が重要なものかどうかを評価するために放送業界における競争評価(BCA)を行うほか、メディア市場における競争評価(BCR)、商業活動の本体との会計分離、商取引の手続き、クロス・プロモーション、委託制作、BBCの国内公共サービスの放送・配信、等の枠組みについて評価を行っている。さらに、競争に関する苦情申し立て(Competition Complaints)のプロセスを通してBBCに説明責任を持たせる。特許状には、苦情対応についてはBBCを最初の窓口とする「BBCファースト」を原則とすることが明記されている。

業績
 BBCの業績に関する規制監督は、Ofcom にとって優先順位の高い新たな責任分野になった。私たちの役割はBBCにコンテンツとサービスに対する説明責任を果たさせること、Ofcomのアプローチの中核にあるのは視聴者がいることを明記すること、以下の手段を用いることである。

  • Ofcomは、新しい「運営免許」を通して、BBCがイギリスの公共サービスとしての目的をかなえるための法的強制力がある規制要件を定めることができる。これらの要件を満たせない場合、BBCには罰金などの制裁が科せられる。業績に関してBBCに罰金が科せられるのは史上初めてとなる。
  • これらの規制要件が守られているかどうかを評価することに加えて、Ofcomは新しい業績評価フレームワークを用いて幅広い業績調査を行うことを発表した。
  • Ofcomにはこれらの業績評価とBBCが規制要件を順守しているかどうかを毎年報告する義務がある。
  • Ofcomは少なくとも年に2回BBCの業績に関する詳細なレビューを行わなくてはならない。また、Ofcomは必要に応じて臨時調査を行うことができる。

 「運営免許」は、BBCが責務を全うすることを保障するのに適切だと思われる法的強制力のある規制要件を定めているが、BBCの番組やサービスに関する戦略や予算は定めていない。Ofcomの機能がこれらの分野には及ぶことはない。BBCが使命を全うし、その公共目的を推進するのを保障し、そのための戦略的方向性と創造的な業務範囲を定めるのはBBC の理事会の責務である。BBC は会計年度ごとに事前に年次計画を公表する必要があり、それには該当年度の創造的な業務範囲、業務計画、地域・地方に関する規定を含める必要がある。

 2017年3月から7月にかけて、Ofcomは以下について有識者や一般からの意見を募るコンサルテーションを行った。

a) BBCの「運営免許」の草案、制定手続きおよび今後の改正手続き。
b) BBCの業績評価に関するOfcomの提案、制定手続きおよび今後の改正手続き。

 OfcomはBBCの公共サービスすべてを網羅する単一の「運営免許」を設けるよう提案した。OfcomはBBCの個々のサービス、複数のサービス、あるいはサービス全体についてさまざまな規制要件を定めているため、「運営免許」がひとつであるほうが利用しやすく、一律で解りやすい。また、将来の「運営免許」の改変が可能になる。各地域局については、追加資料を作成し足りない部分を補い、該当する地域局に適用される規制要件をまとめた。
 Ofcomは、「運営免許」はBBCの公共目的を中心に組み立てるよう提案した。個々の公共目的につき、BBCがめざすべき目標と具体的な規制要件を定めた。私たちが客観的に評価でき、基準を満たせない場合には強制執行ができるよう、測定可能な達成基準を設定したのである。このアプローチは「運営免許」の最終版にも生かされているが、コンサルテーションの回答、Ofcomの調査、BBCの暫定年次計画を反映して、一部に変更を加え、規制要件を改善、強化した。
 2017年10月、Ofcomは「運営免許」の最終版、業績評価フレームワーク、制定手続きおよび今後の改定手続きを制定するとの声明を出した。補足として、コンサルテーションの回答と2017年7月3日に公表されたBBCの暫定年次計画がどの程度反映されているのかを示す詳細な資料を添付した。
 「運営免許」にはBBCが満たさなければならない幅広い規制要件が定められている。Ofcomは、新しい要件を高めに設定した。ほとんどの分野で、従来よりも厳しい要求がなされ、同時に主要業務分野の保全対策が盛りこまれていた。将来の業績の達成基準値も示された。「運営免許」の要件を以下にまとめる。

  • 報道と時事コンテンツに関する規則を厳しくする
  •  BBCができるだけ幅広い層の視聴者に報道と時事コンテンツを届けられるよう、OfcomはBBC Oneのニュース、BBC OneとBBC Twoの時事番組の放送時間を増やし、新しい規制要件を定めた。

  • 子ども番組に関する要件を増やす

  • すべてのサービスにおいて、より「卓越したBBC」にするための方法を定める
  •  BBCの主要人気チャンネルでは全放送時間の少なくとも4分の3を、イギリスの視聴者のためにBBCが委託したイギリス制作のオリジナルコンテンツにしなければならない。Radio1とRadio2は同種の商業放送局よりもより幅広いジャンルの音楽を届け、新進のイギリス人アーチストをもっと取り上げなければならない。

  • BBCラジオで社会貢献活動を支援する

  • 芸術、音楽、宗教番組など、あまり人気がないジャンルを保護する

  • 人気が高いジャンルを幅広く支援する

  • 地方および地域の視聴者ならびにイギリス全体のクリエイティブ・エコノミーを支援する

  • イギリスの人口の多様性のすべてを反映できるようにする


 2018年1月、新しい 「運営免許」 が施行され、2018年10月、Ofcomは初めてのBBC年次報告(2017年4月~2018年3月)を公表した。
 Ofcomが下した結論は、メディアを取り巻く環境は急速に変化しているが、BBCがテレビ、ラジオ、オンラインのプラットフォームで中心的な役割を果たしていることに変わりはないというものであった。BBC全体のリーチはいぜん高く、成人の10人中9人以上が毎週BBCのコンテンツに触れている。私たちの試算では、視聴者が毎日BBCを利用する時間は平均でおよそ2時間45分であった。BBC One のドラマに代表されるテレビ番組とBBC Radio 2のBreakfast Show に代表されるラジオ番組を通じて、BBCはいぜんとして多くの視聴者を惹きつけていた。
 私たちは、BBCはそのコンテンツの幅広さと質の良さで、視聴者に対する任務をおおむね果たしていると報告した。主流をなすサービスと専門的なサービスの両方を通じて、相当量のニュースと時事番組、幅広い学習・教育コンテンツ、高品質で創造性豊かな卓越したコンテンツを視聴者にあまねく届けている。視聴者の満足度もいぜんとして高く、BBCラジオとBBCオンラインについては視聴者の4分の3が、テレビについては視聴者の3分の2が満足していると答えた。

 Ofcomは、BBCにさらなる努力を求める主要分野として以下の4つを挙げた。

業務慣行に透明性を根付かせる。
 Ofcomは以下の点を報告した。BBCの透明性は十分ではなく、これは特に競争の分野において顕著である。BBCが公共サービス活動の変更を予定している場合、競争にどの程度の影響が出るかを測るために、影響を受ける可能性のある関係者に変更の内容を定期的に詳しく説明する必要があるが、それを怠っていた。BBCの理事会は率先してこの点を改善すべきである。BBCのガバナンスはBBCの公共サービスと商業活動の分離を保障するものでなければならない。Ofcomは、BBCはこの分野における透明性を高める意思があることを示したと報告した。

イギリス制作のオリジナル番組への献身を続ける。
 BBCは、イギリスにおける人々の生活と経験を反映するオリジナル番組で差別化を図っていた。私たちは、BBCはこの点に焦点を置き続け、より革新的に、よりリスクを恐れない姿勢で取り組むべきであるとコメントした。

若者を惹きつけるよう十分な措置を講じる。
 BBC自体が認識している通り、BBCの将来のカギを握る若い人たちにリーチするための十分な努力を行っておらず、そのスピードも遅い。私たちは、この問題に対処するため、十分な措置を講じ、若者の視聴実態に適った方法で彼らを惹きつけるコンテンツを提供するよう提言した。

イギリス社会全体を映し出せるよう改善・努力を続ける。
 BBCテレビで取り上げられる量や描写に関して調査をしたところ、BBC(およびその他テレビも概して)は以前に比べると、より幅広い人々の生活を映し出していることが分かった。しかし、BBCは、さまざまな視聴者の生活を忠実に映し出すよう、さらなる努力を行わなければならない。

 Ofcomは上記の調査結果をBBCに文書で伝えた。2019年には、上記分野での改善が進んでいるか議論を続けることになる。
 次の年次報告書では、OfcomがBBCの規制監督機関となってから初めて、通年データを掲載することになる。それには新しい「運営免許」が定めるすべての条件と要求事項に関するスケジュールおよび財務実績が含まれる。また、BBCに新たに課せられた、コンテンツおよびそれ以外の分野における多様性の尊重と、それに関する視聴者の満足度に関する報告も行う。
 BBCの規制は、密閉された空間で行うものではない。Ofcomは2018年の早い時期に、イギリスの放送業界と公共放送につきつけられた総合的な課題に関するOfcomの初期の見解を公表した。私たちはイギリスおよび全世界が直面している目まぐるしい変化を踏まえて、イギリスのアイデンティティと社会をつなぎ止め、支える上での公共放送の重要性を指摘した。新しい人材を育成し、調査に投資し、クリエイティブ・エコノミーを支える上での公共放送の役割についても同様である。
 公共放送のこうした総合的な強さはOfcomが行った消費者調査にも反映されている。視聴者はコンテンツの質の高さ、提供されるジャンルの幅広さ、信頼できるニュースを高く評価していることがわかった。
 しかし、長く続いてきたこのシステムには多くの課題がある。それらは以下の2点に集約できる。

セグメント化
 毎日、何百ものテレビチャンネルが、タブレット、スマートフォン、腕時計、ゲーム機を通して人々の気を引こうと競争を繰り広げている。ここまで選択肢が広がった時代はかつてなかった。昔はスクリーンタイム(放映時間)といえば、通常はテレビスクリーンのことを意味していたが、瞬く間にテレビは数多くの競合するスクリーンのひとつとして視聴者にアピールしなければならなくなった。

  • 幅広い選択肢は視聴者にとっては喜ばしいことだが、さまざまなプラットフォーム上で分断された視聴が行われることでOTTが台頭し、公共放送に「コンテンツの入手しやすさ」「見つかりやすさ」という問題を提起している。
  • Netflix、Amazon Prime Video などが提供するイノベーションと選択肢は、伝統的なテレビチャンネルの利用時間が減っている一定層の存在を示している。

グローバル化
 今やコンテンツ市場はグローバルプレーヤーが活躍する世界市場となっている。

  • Netflixなどのグローバルプレーヤーや、オリジナルコンテンツの「制作委託者」としてのFacebook をはじめとするプラットフォームの進出により企業統合が進んでいる。
  • DisneyのFox 買収の動きや、Comcast のSky買収入札がこのことをよく表している。Netflixは昨年コンテンツに60億ポンド以上(イギリスのすべての公共放送の番組予算を合計した額の2倍以上)を費やしたが、公共放送は財政的にどう立ち向かってゆけばいいのかが問題になっている。

 Ofcomは、公共放送はお互いに協力することで立ち向かえると提案してきた。力を合わせて、より大きなスケールを得るのである―公共放送同士や商業放送局と提携し、双方にとって有益な協力関係を結び、変化し続けるメディア状況を乗り越える共通の土台を見つけることが肝要だ。市場における公共放送同士または公共放送と商業放送局間の「秩序を保つ」というOfcomの役割、すなわち、一定の活動に制約を加え、同業他社の事業を促進し、BBCにその成果物とサービスが市場に与える影響を考慮するよう求める役割を考えると、協力を促す提案は奇妙に映るかもしれない。しかし、2003年通信法(Communications Act) が定めるよう、公共放送はある種の同盟であるため、コンテンツとサービスの提供という公共的貢献は「集合的」に捉えられるべきである。
 最近の例からも、この協力と言う概念が根付いてきたことが伺える―BBC、ITV、Channel 4は、無料放送のテレビ番組を移動中や見逃しサービスで視聴しやすくするため協力して投資を行うという声明を出した。
 Ofcomは業界全体の展開を俯瞰するというユニークな立場にあり、証拠に基づく業務の実施、広範囲の研究調査、長期に渡る追跡調査に専心している。すなわちOfcomの見解は、事実と事実に基づく洞察から導きだされているのである。私たちは業界の動きを見守り、産業界、学界、市民のステークホルダーたちから証言を得る。私たちは断固たる決意で透明性を追求し、争いの対象となりやすい問題を照らし出す。

公共放送に引き続き注力を期待する分野

 第一に、信用できるニュースの提供という重要な役割を強化すること。私たち規制者がニュースの消費パターンの変化を把握するには、人々が何を見て何を聴いているかをしっかり理解しておかなければならない。Ofcomは徹底した全国調査を通してこうした変化を捉え、人々の情報源、ニュースの消費行動、ニュースに対する意識に興味深い変化が現れていることを目の当たりにしてきた。
 オンラインやオンデマンドでのニュース視聴がますます増えている。ニュースはどんどんパーソナライズ化され特化されてきている。老舗の「ニュース・ブランド」ではないソーシャルメディア経由でニュースを得るケースが増えている。こうしたニュース消費パターンの変化は若い世代で顕著であるが、これは驚くに値しないだろう。

  • 16歳から24歳までの若者の5人に1人がインターネットだけでニュースに接している。55歳以上ではわずか2%である。
  • テレビでニュースを見ている人の割合は、55歳以上では10人中9人近くだが、16歳から24歳までのグループではわずか半数である。
  • 若者の5人に1人近くが、Facebookが最も重要な情報源であると答えた。55歳以上ではわずか1%である。

 デジタル時代においても公共放送局とイギリスの大手放送局は信頼できる情報源であり続けている。また、フェイクニュースが蔓延する中、イギリスの視聴者は今でも、事件の背景の理解を深めたいときには放送に頼っている。10人中9人が公共放送のニュースを信用できるのは大切なことであると答えた。BBCはこの点において特に重要視されており、ニュースを中心にBBCを評価している視聴者が多い。過去の研究によれば、ほとんどの人が、ニュースに関して重要視している点―偏りがないこと、先入観がないこと、速報性があること、重要な事実を提供していること、専門家の意見が聴けることなど―についてはテレビが一番信頼できると答えている。
 公共放送局とイギリスの大手放送局は、グローバルストリーミングやオンデマンドサービス、またオンラインで得られるあまたの情報から、自らを差別化する決定的なチャンスに直面している。それには、公正で、正確で、視聴者にとって身近であり、深い洞察に基づいた、地域やコミュニティーにとって意味のあるニュースを提供し続けることが必要だ。視聴者の間では、放送ニュースはしっかりと規制されており、高い基準が保たれているとの認識が強い。長期的に見てもこの点を維持することが肝要である。ニュースは公共放送をはじめとする放送局の強さの源であり続けなければならない。
 第二に、若年層を惹きつけ、この世代とつながるための新しい手法に投資すること。10年前に比べると、子どもたちのテレビ視聴が3分の1まで落ち込んでいる。イギリスのティーンエイジャーの90%がYouTubeでコンテンツを観ており、彼らにとってはBBCよりもYouTubeの方が馴染みのある名前となっている。公共放送が長期的な持続可能性を確かなものとするためには、革新的なコンテンツと若い視聴者に接触する新しい手法に投資しなくてはならない。放送局が彼らに接触できる地点や方法を把握できるよう、私たちは引き続き若者の消費行動を注意深く観察する所存である。
 第三はイギリス全土の視聴者を惹きつける、公共放送ならではの質の高い番組を作り続けることである。私たちの調査からひとつの明確なメッセージが浮かび上がった―視聴者は、イギリスの視聴者のために作られた番組は彼らにとって大切なものであり、公共放送はイギリス国内に存在する多様な文化を映し出すべきであると感じているのである。これは、イギリスの放送局が視聴者を惹きつけるための最も重要な手段となる。いくつかの人気番組の例外はあるが、グローバルプレーヤーたちはイギリスを描き出すコンテンツにお金を注いでいない―今でもこれは公共放送の肩にかかっている。今日でも、イギリス制作のテレビ番組のほとんどが公共放送によって提供されている。これはクリエイティブ・エコノミーにとって大きな意味をもつ。
 BBCをはじめとする公共放送は、公共放送が継承してきた遺産、任務、地域との結びつき、報道や芸術のジャンルでの経験を兼ね備えており、イギリスの視聴者が求めるイギリスのコンテンツを制作し続ける役割にこれ以上にふさわしい存在はない。公共放送がお互いに協力して課題を乗り越えられるよう支援すること―これがOfcomの役割である。

ジャッキー・ヒューズ

Ofcom コンテンツ政策局長

BBCを中心とした公共放送を担当。2016年、前回特許状におけるBBCの規制監督責任者としてOfcomに入る。BBCの業績監督および新「運営免許」の制定に携わる。Ofcom入る以前は、貴族院通信委員会専任特別顧問、メディア政策局長を歴任。メディア業界や政治シンクタンク向けに、BBCの将来、公共的価値、公共の利益、メディアの融合、規制、規格に関する多数の記事・報告書を執筆。

それ以前は調査報道番組やドキュメンタリーの制作に20年間携わる。テレビ番組制作、制作統括、BBCのコミッショニング・エディター、ITVネットワークのシニア・マネージャーを歴任。主な専門分野は公共放送、BBC、報道時事番組、規制、メディア・コンプライアンスなど。

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