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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第20回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2012年3月~8月

東日本大震災、テレビは海外にどう伝え、海外はどう受けとめたのか

閉会にあたって

村神 昭
(財)放送番組国際交流センター 専務理事

 日本のテレビ報道にとって、東日本大震災とは何であったのか。同時進行可能な速報・映像メディアとして、住民の避難、救援のため何ができたのか。復興に向け何ができているのか。津波被害とともに原子力発電所の事故では何が伝えられ、何が伝えられなかったのか。客観的で冷静な検証と分析が求められていると思います。放送事業者、メディア研究者、ジャーナリストによってさまざまな取り組みが行われています。その取り組みの幅を広げ、より深めるための一助になればと、我々のオンラインシンポジウムは今回、テレビメディアの国際発信というJAMCOの土俵で、東日本大震災が海外にどう伝えられ、どう受け止められたかをテーマにしました。

 テレビの災害報道の中でも「地震津波」は、地震発生以後の情報の発信伝達が極めて大きな意味を持っています。第一は最も重要な初動。緊急地震速報、地震情報、津波警報・注意報、津波情報を迅速に対象地域に伝えて避難を呼びかけるなど住民の人命が最優先となります。第二は被災地の現況報道。いち早く、被災地以外の人々に伝達し、救助活動はもとより医療、食糧、ライフラインの確保に役立てる情報となります。第三は復興支援に関わる報道。中長期的視野で進められます。海外に向けての震災の報道の視点は、これら国内に向けた報道の視点と重なりつつも、重点の置き方を変えないと海外では理解不足や誤解のもとになりかねません。NHKの国際放送が海外の視聴者には「なるべく大局的に伝えようと試みた」のは、適切な判断といえます。こうした海外向けのていねいな報道が、諸外国からの厚い支援に結びついたのだと思います。

 一方、東京特派員の報告では「アナウンサーの落ち着いた語り口が、視聴者に安定と安心感を与えた一方、こうした「冷静な報道」で報道内容の信頼性に疑問を感じることになった」という指摘がありました。「落ち着いた語り口」や「冷静な報道」が直ちに「報道内容の信頼性」に疑問を感じさせるものになるかどうかは、報道内容と客観的事実とを比較して検証するしかないと思います。ただ「落ち着き」や「冷静さ」が「信頼性への疑問」につながる印象を与えたとしたら、地震発生後初動の放送の大部分が東京のスタジオ発であったことが、災害現場や最も近い場所からの放送が持つ独特のリアリティに欠けるという「ステーションイメージ」の問題もあったのかもしれません。

   福島第一原発の事故を巡って、報告者は「いま振り返ってみると提供された情報は限られていた」「『いまのところ安全』とか『ただちに問題ない』というコメントがたびたび付け加えられる報道は、逆に少し不安な印象を受けてしまう」「メルトダウンがあったのかなかったのか、説明が何度も変わる」と述べています。これらの原発事故の詳細と影響についての情報が不足していたことは、多くの人々が感じていたことであると思います。

 この背景について「政府などの発表には、事故の状況を把握できているのか、或いはできているのに隠しているのかといった“信用の問題”があり、日本人の間に疑心暗鬼を呼んでいる。」という報告がありました。政府の情報公開について、2012年7月の国会事故調査委員会の報告書は、「最悪事態への進展を想定して、それに備えて住民の安全を守るという視点に立ったものとはいえなかった。また、安全を守るためにいち早く伝える、という姿勢にも欠けていた。」として厳しい評価をしています。

  国際放送を発信する側の生々しい報告と、海外メディアの東京特派員という情報発信者であるとともに日本国内のテレビ放送の特別な受け手でもある人々の報告とで構成された今回のWEBシンポジウムは、国際発信という土俵に立ちながら、日本国内のテーマである「3.11報道」の断面を浮かび上がらせ、今後の検証の課題の一端を示すことができたのではないかと思います。
 放送番組国際交流センターは、震災の教訓を発展途上国の防災に役立てるため、日本の震災関連番組の国際版を途上国の放送局に無償提供する活動を、さらに進めて参ります。

 シンポジウムの閉会にあたり、東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福と被災地の復興をお祈り申し上げますとともに、ご参加いただいた報告者、討議者、そして当サイトをご覧いただいた皆様に厚く感謝申し上げます。

村神 昭

(財)放送番組国際交流センター 専務理事

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