財団法人 放送番組国際交流センター / Japan Media Communication Center

お問い合わせ

HOME > 第30回 JAMCOオンライン国際シンポジウム > コロナ禍での大学教育のデジタル改革
〜持続可能な教育への転換〜

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第30回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2022年2月~2022年3月

持続可能な世界を目指して~コロナ危機の中の挑戦~

コロナ禍での大学教育のデジタル改革
〜持続可能な教育への転換〜

西蔭浩子
大正大学・大学院 特任教授

はじめに

 2020年は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのため、大学教育のデジタル改革が急速に進み、教師も今まで積み重ねてきた教育方法を抜本的に改革する必要に迫られた。急な改革は現場に混乱をきたしたが、本稿では、教育現場でどのような問題が起こったかを指摘する。
 キャンパスの閉鎖により授業が対面教育からオンライン指導に変わったことは、教育方法に新しい可能性を与えた側面もある。コロナ前の教育と比較して、オンライン授業を導入した教育現場はどう変わったかを具体的事例をもって提示する。
 大学のデジタル改革は、大学教育を世界とつながる教育へと転換できるチャンスでもあり、そのために必要な持続可能なシステムについて提案する。

オンライン授業元年―混乱と模索

 第1回目の緊急事態宣言が急遽出されたため、大学に遠隔授業以外の選択はなく、手探り状態でオンライン授業に突入せざるをえなかった。学生も教員も不慣れな機械操作に戸惑いながらの緊張のオンライン授業が続いた。対面授業とは異なったオンラインならではの新しい教育方法の発見もあった1年だったが、オンライン授業ゆえの問題も浮き彫りになった。

  • 動画教材制作への挑戦

     2020年4月、すべての授業を「オンディマンド型」か「オンライン型」の学習に移行する方針が示された。筆者は大正大学で英語教育に関わり、教育システムの構築、教材作成、非常勤講師のコーディネートなどに従事してきた。今回も大学の方針を受けて、遠隔授業をどのように進めるかを早急に決定することになった。専門科目は担当教員に任されたが、全学共通科目の「英語」は非常勤講師を多く抱え、遠隔授業に不慣れな状況の中、どのような方法が教育の質保証を保てるのかが喫緊の課題となった。授業を構築するにあたり、専任教師間で議論されたのは、①担当教員による教育の格差が出ないこと、②学生が機器の使用を面倒なく受講できることであった。最終的には「オンディマンド」型授業を選択した。まず、専任教員が動画を制作し、学生は毎回配信される動画を観て課題に取り組み、授業の担当教員に提出し、担当教員が課題を採点し学生にコメントを送るという一連の流れを作った。
     1コマ(100分)の構成は、授業のポイントを3つに絞り、各ポイントについて専任教師が15分程度の講義を動画にした。学生は毎回15分の動画を3本観て、課題をこなし、提出し、非常勤講師は受け取った課題をチェックし、次の授業の前にコメントを送った。 動画のクオリティーに関しては急拵えの感は否めなかった。素人なりに工夫はしているものの、単調さ、紋切り型の講義、話し方、声のトーンなど、対面授業ではあまり気にならなかったことが、動画になると、粗が目立ち、満足できるレベルには達していないことを痛感させられた。遠隔授業の導入で最初に直面した問題は、教師自身のデジカル化への準備不足であった。学生との対話中心の対面授業は大変貴重な教育方法であると認識しながらも、自分には必要がないと悠長に構えていた教師は突如対応を迫られた。


  • デジタル・ディバイド(情報格差)の壁 ― 教師の場合

     オンライン授業への移行での大きな壁は、教師や学生の中でのICT(情報通信技術)を使える人と使えない人の格差であった。
     教師の格差は、年齢の違いで顕著であった。若い教員は日ごろからデジタル機器を自由に使いこなしているので、オンライン授業への移行は抵抗なく受け入れられた。教師の中には自分の授業を効果的にするに様々な機器を揃え、用意周到な準備を進めている者もいた。
     一方、年配教師となると状況は一変する。インターネットを使って、メールのやり取りをしたり、必要な情報を入手したりすることは日常的な作業であった。しかし、オンライン授業に不可欠なZoomやTeamsなどのビデオ会議システムの使用や、Google Classroomで授業となると全くの門外漢である。オンライン授業をスタートさせるための問題は、大きく2つあった。第1にオンライン授業の全体図がつかめない。対面授業をオンラインでどのように構築できるか、そのために何が必要で、自分がどんな準備をすべきかが見えない。第2に、デジタル用語がわからないため、操作方法を説明されても理解できない。準備段階での非常勤の先生たちからの電話やメールでの問い合わせには、この2つの問題に直面している深刻さがありありと見て取れた。「デジタル教育は若い先生お任せ」と我関せずにいたのに、自分が機器を操作できなければ授業は成り立たないことを現実として受け止めざるを得なくなった。大学では不慣れな教師のためのサポート体制を組んでいたが、問題がひとつ解決されても、すぐに新しい別の問題にぶつかり、ICTの使い方が大きな壁となった。教師にとってもう一つの大きな問題は、オンラインでの事前チェックができず、授業は常にぶっつけ本番で常に不安との隣りあわせであった。


  • デジタル・ディバイド(情報格差)の壁 ― 学生の場合

     モバイル機器を使いこなす若い学生たちならオンライン授業にスムーズに受け入れたかというと、必ずしもそうではなかった。学生間にも格差があった。新入生は入学とともにオンライン授業への準備をしなければならず、家族総出でその対応に追われていた。兄弟もオンライン授業、両親もリモートワークという家庭が多く、家族間でPC争奪戦が始まっていた。また、親御さんがPC操作の分からない子供を心配して、自分の姿が画面に入らないように配慮しながら、学生の機器操作をサポートしているケースも少なくなかった。
     2年生以上の学生たちも、実情は1年生と大差はなかった。PC操作に慣れていないために入室できない学生、Wi-Fiの環境が悪く授業中画面から消えていく学生など操作トラブルは続発した。オンライン授業の問題は、学生がきちんと授業を聴いているのか、講義内容を正確に理解しているのかがわからないことにある。出席確認のために授業の最初に顔を出してもらい、その後は画面をOFFにさせ、質問に答えたり発表したりするときにONに戻すように指示し、画面が重くならないような工夫をした。対面授業のように学生の様子を見ながら授業をすることはできず、課題を出し、チェックすることで、学生の理解度を確認した。その結果、学生の出席率100%、課題提出100%と、対面授業では考えられないような学生が授業へ積極的に取り組む姿が見られた。この傾向は大学のどの授業でも同じ方法がとられ、その結果学生は膨大な課題に追われる生活を送っていた。
     4年生が苦労したのは、オンラインでの就職活動である。合同説明会、集団面接、個別面接にはPCでの参加が必須である。対面で受ける就活面接と違って、自宅にいて改まって面接に臨むのは難しい。大学でもオンライン就活の指導時間を設けたが、対面での指導ができないために、学生は無防備な姿で面接を受け、内定を受けるまでの道のりは厳しかった。
     オンライン授業で学生がICTを使って実力を発揮した授業もあった。教育実習を控えた教職の模擬授業である。中学や高校の英語教師を目指す3年生は、4年生で教育実習を行う。その準備のために模擬授業を行うのが常である。しかし、2020年は大学が閉鎖されていて実施不可能なため、学生たちにはオンライン授業での模擬授業計画を課した。模擬授業は、3年生の教師役の学生がZoomを使って生徒役の学生たちに英語を教える。学生たちがうまくできるかどうか内心心配していたが、実際にオンライン授業がスタートするとどの学生もICT技術を駆使して、魅力ある授業展開を見せてくれた。イラストや音声教材をふんだんに入れ、パワーポイントを上手に使った資料の完成度は高く、想像していたレベルをはるかに超えていた。学生はモバイル機器を使いこなして、英語の教材も上手に作っていた。多彩な色を使って学習ポイントが目立つような工夫をしたり、英文も読みやすくポイント数を変えて理解を促したり、時には動画を作って楽しく勉強できるよう配慮していた。教師が作る資料よりずっと生き生きしており、教師の心配は杞憂に終わった。


  • 国際交流を継続させるオンライン海外文化・語学研修

     デジタル改革は海外研修に新たなスタイルを生み出した。必ずしも現地に行かずとも語学力を磨き、文化を学ぶことができ、現地の学生との国際交流を実現させることができた。
     大正大学では毎年ハワイ大学・ミュンヘン大学・韓国東西大学校への文化・語学研修を実施してきたが、世界的に外国人の受け入れが規制され、現地への学生派遣を中止せざるを得なくなった。代わって、それぞれの受け入れ校が主催するオンラインプログラムで3週間程度の文化・語学研修を実施した。各々の大学からライブ配信される双方向型の授業を通して、英語・ドイツ語・韓国語の理解及び習得を狙った。3大学とのコラボレーションにより、ハワイ大学のアメリカ人学生・ミュンヘン大学のドイツ人学生・東西大学校の韓国人学生とのオンラインでの交流を通じて、語学及び各文化に対する理解を深めるプログラムとなった。
     ハワイ大学を例にとると、参加学生は、自宅で週5日午前中2時間「英語の講座」を受け、ハワイ大学の学生との「インターチェンジ(意見交換)」を行った。英語講座は、英語の実践的な能力向上を目的とし、スピーキングやリスニングのトレーニングを受け、アメリカやハワイの文化について学んだ。インターチェンジは、現地学生1名に対し、日本人学生3名のグループを作り、英語講座で学んだ内容について意見交換をしたり、お互いの国の文化や生活について話したり、異文化交流を楽しんだ。このプログラムは大正大学の学生だけではなく、他国の学生も受講しているために、世界中の学生との交流が可能となった。
     受講後のアンケート調査結果では、参加学生の満足度が高かった。英語講座によりアメリカやハワイの文化を知ることができた点、インターチェンジでアメリカ人学生と英語で話すチャンスがあった点が満足度の高さにつながった。特に、英語の表現力が伸びたという実感を持った学生が多かった。オンライン留学の利点としては、①参加費の安さ②日本での生活と海外での経験の両立。特に研修を受講しながら就活ができたことは大きいというコメントがあった。オンライン研修の問題として指摘されたのは、①ネットワークのトラブル発生 ②現地へ留学するような実体験ができないことが挙げられていた。
     ミュンヘン大学と東西大学校への参加者の声もほぼ同じであり、期待以上の成果があったと捉える学生が多かったことを考えると、オンライン海外研修をより積極的に導入し、これからの持続可能な方法として考えていく意義がある。


  • オンライン試験の課題

     2021年1月には第2回緊急事態宣言が出された。学年最後の期末試験を控えていたが、対面での試験実施は難しくなった。少しずつオンライン授業にも慣れてきていたが、果たしてオンライン上で通常の試験を実施することは可能なのかが問題として浮上した。オンディマンド型の授業ならば、学生に課題を出してレポートを提出させることができる。しかし、科目によってはオンラインでリアルタイムに試験をしなければ評価ができないものがある。実施に当たっては、問題の配布方法から始まって、試験中画面をONのまま実施すべきか、画面に映らない場所で不正は起こらないか、提出方法はどうするかまでクリアすべき問題が次々と出てきた。最終的には、試験開始時間に問題を受験者に配信し、試験時間はずっと画面をONにさせ、試験終了とともに解答を送信という方法をとった。課題としては、評価に不平等がなかったか確認できないことである。公平な評価をするためには大学としてのオンライン試験の方法を構築する必要がある。


オンライン授業2年―新たな課題と可能性

 2021年の4月には第3回目の非常事態宣言が出され、大学は積み残し問題を抱えながらも、対面とオンラインを同時進行させるハイブリッド授業へと舵を切った。昨年対面授業を希望する学生が多かったことから、来校できない学生のために、すべての教室に授業風景を映すカメラを設置して、対面授業とオンライン授業の同時進行を可能にした。

  • オンライン授業を希望する学生

     大学は、60%の学生が対面授業の受講を希望すると読んでいた。しかし、実際に授業が始まると、オンライン参加者が60%で、対面授業希望者は40%と、大学の予想とは逆の結果が出た。オンライン授業を望む理由は、自宅で受講できるオンラインの便利さに慣れてきたことが大きい。昨年のような対面授業への強い希望はすでに薄らいでいた。4月には60%だったオンライン希望の学生は最終回では80%以上に達していた。出席率も昨年のように100%には至らず、レポートも未提出者が増えてきた。1年経って学生たちがオンライン操作にも慣れた証であり、オンライン授業を受講する余裕も垣間見え、少しずつではあるがコロナ前の日常への足掛かりを探り始めた時期でもある。
     オンライン受講のメリットについて、4年生は授業と就職活動の両立が可能になり、通学にかける時間をより多くの会社訪問に費やすことができたと指摘する。最終選考の対面面接まで、学生たちはたくさんのオンライン面接を体験していた。その効果もあるのか、卒業論文でオンライン指導していると、カメラに映し出される学生の姿にも変化がみられる。昨年は自宅の背景が映し出され、個人情報がわかってしまうような危なさを感じることも多かったが、今年は隅々にまで配慮が行き届き、よそいきの雰囲気を作り出している学生が増えている。1年前は、授業画面を見るために目線が落ちがちで暗い印象を与えていた学生も、目線をカメラに向けて応答する姿も印象的である。
     教師にとっては、オンラインの指導で効果を感じられたのは、ゼミのような小さなグループ指導である。お互いよく知っている間柄ということは大きなメリットになり、画面に笑顔があふれるだけでフレンドリーな雰囲気が醸し出される。緊張した面持ちで画面を凝視していた昨年とは異なる。発表方法にも変化がみられる。操作に慣れたこともあり、レジメを画面上で共有し、関連資料を自由自在に映し出すことができるため、今までのように人数分のコピーをする必要はなくなった。以前は、何ページにもわたる資料を全員に配布することはできなかったが、今年は画面上で広げながら議論することができ、紙の節約に貢献し、学生は、オンラインゼミは自然に優しい方法だと自負する。
     オンラインの利用のメリットとして、地域を超えた交流の推進を挙げることができる。環境さえ整えば、世界中のどの国にいる人とも交流ができる。中国に帰国したままの大学院生は、授業すべてをオンラインで受講し、他の日本人学生と同じく、なんの不都合もなく、受講し、修士論文の指導を受けながら執筆を進めている。もう一つの例は、現在海外に協定留学している学生にゼミに出席してもらい、海外での授業の様子や現地のコロナ感染状況などリアルタイムの情報を共有してもらうことができる。こうした試みは、オンライン授業は時空を超えるという力をもっており、今後より盛んにしていくべきである。

  • オンライン授業によるキャンパスの空洞化と教師への負担

     多くの学生がオンライン受講を選択した結果、大学のキャンパスは閑散としている。学生がのんびりと友達と話し込んだり、自由に歩き回ったり、キャンパスのあちこちで笑い声が聞こえたりという姿は見られない。
     コロナ前の教室は、学生のエネルギーで満ちていた。授業前には友達同士で話したり笑ったりする声、授業が始まれば、熱心に講義を聴く学生の目線、隣同士小声でおしゃべりする学生の様子、居眠りする姿など教室にはいろいろな姿があり、大教室でも各クラスの持つ雰囲気が異なり、それが各クラスの特徴として記憶に残った。
     コロナになって、クラスから学生の気配が消えた。対面受講しているマスク姿の学生は、一定の距離の間隔を保ちながら、持参したPCを打つ音が響く授業風景が日常化した。教師は、オンライン受講と対面受講の両方の学生に向けて話しかけるが、クラスにいる学生は教師の話を自分のPCの画面で確認する。教室で対面していても、学生と教師が目を合わせたり、声を掛け合ったりすることはほとんどない。
     ハイブリッド型のクラスは、教師にとって負担が大きい。対面の学生に指示を出しながら、オンラインの画面に常に注意を払わなければならない。60%のオンライン上の学生に気を取られて、対面でクラスにいる40%の学生への注意が散漫になる。オンラインで遅刻をしてきた学生に入室を許可したり、チャットに送られた質問や対面の学生からの質問に答えたり、オンラインだけで授業を行っていたときより煩雑で忙しい。オンライン授業は、教室の中だけの教育から外部での受講を可能にし、今後の授業運営には持続可能な方法のひとつであることは間違いない。


  • オンラインによる大学独自のSDGs活動の取り組み

     大正大学では2019年以来、地元である巣鴨を中心にして様々なSDGs活動への取り組みをしている。「大正大学すがもオールキャンパス構想」を掲げ、新潟県の太陽光発電所からの再生可能エネルギーを使って巣鴨商店街で再生エネルギー100%の店舗運営を進めている。こうした取り組みを通じて、学生は気候変動問題への取り組みや地方創生について具体的に学ぶことができる。  緊急事態宣言下では、活動も制限され、イベントはすべてオンラインで開催となった。
     2021年9月にはGlobal Goals Weekとして「SDGs×自分」SDGsリレー講座を対面とオンラインで展開した。国連スタッフや専門職の講演を聞き、SDGsを自分のこととして考え、行動するヒントを提案した。講演内容は「ポスト(ウイズ)コロナ時代の羅針盤」「持続可能な社会を築くための教育の役割」「日本におけるジェンダー問題の現状」など多岐にわたり、「トークセッション」として活発な意見交換が行われた。
     2021年11月の学園祭では、環境セミナー@大正大学鴨台祭SDGsの視点からの発信:自然再生の取り組みを行う。  オンラインというツールがなければ、こうした取り組みは中止するしかなかったが、「いつでも、どこからでも参加できる」オンラインの恩恵を受けて、むしろ参加者を増やす結果につながったことは、SGDs活動を活性化させる方向を示唆している。


持続可能な教育への提案

 大学教育のデジタル改革はまだスタートしたばかりである。ICT教育は小中学校で先行しており、大学の教育現場全体としては遅れていた。ICTを活用することは、場所の制約を受けずに教育を受けられるメリットがある。海外とつなぐ遠隔授業の可能性が高まったり、教育の形をより柔軟にしたりすることができる。PCを使った学生同士でのディスカッションを行う協働学習や、卒業指導のような一人ひとりのレベルに応じた個別指導に活用することで、受け身の授業から思考力を養う授業へと変化させることが期待される。
 今回のデジタル改革をチャンスと捉えて、これからの大学における持続可能な教育を推進するために3つの提案をする。

  • (1)NHK for Universityコンテンツを作る。

     NHKではNHK for Schoolという学校向けコンテンツをもっている。番組制作のプロの方々が作った作品は、よく考えられた企画を、時間をかけて丁寧に作り上げ、大人がみても学ぶことが多いクオリティーの高い教材になっている。昨年、英語科目のために動画教材を作成した体験から、素人同然の教員が学生を満足させられるようなコンテンツを作ることは不可能である。NHK for Schoolは曜日により教科別に編成され、学年別の教科のラインアップが豊かで、子供たちに知りたいという好奇心を芽生えさせるように工夫されている。
     例えば、大学生の知育のためには「映像の世紀プレミアム」のコンテンツを利用したい。以前、アメリカの人種問題の講義で、「映像の世紀~ベトナムの衝撃」DVD版を使用したことがある。どの学生も知っているキング牧師の有名なスピーチ”I have a dream”であるが、映像に現れたキングは情熱的に群衆に訴えかける。群衆はまるでジャズの掛け合いのようにキングの言葉に応じる。教科書だけでは学ぶことのできない感動が映像には存在する。学生はこの映像をきっかけに、ワシントン大行進や公民権運動、ブラックパワーなどアメリカ合衆国の歴史・政治・経済へと目を向けるようになった。
     これからの授業では「映像の世紀プレミアム」シリーズの「世界を変えた女たち」を活用して、ジェンダー問題を、また「難民 希望への旅路」で難民問題に関する情報活用能力を磨かせたいと考える。
     英語の授業では「NHK World Japan」や世界の放送局のニュースをダイレクトに伝える「ワールドニュース」を使って、教材用にアレンジされた英語ではなく、自然でリアルタイムに情報を収集できる能力は重要である。学生の情報活性能力の育成を高めることができる。コンテンツ使用にあたっては著作権の問題をクリアしておく必要がある。


  • (2)オンラインで世界とつながる教育を推進する。

     オンライン導入のメリットは、教育の場の広がりである。ICTで学習環境が整えば、対面のような場所の制限がなくなり、どの人ともどの国ともつながる可能性ができる。海外研修が中止になっても、オンライン研修で授業を受け、現地の学生との交流もできる。遠隔授業に距離は関係なくなり、アメリカでもドイツでもアフリカでも交流できる。
     海外の大学はオンラインキャンパスを開講し、世界中の学生が自国から受講できるようにカリキュラムを組み、学位を与える教育を行っている。例えば、オーストラリアはコロナ禍で国を封鎖したため、予定していた文化・語学研修をあきらめざるを得なかった。希望していた学生の失望は大きかったが、オーストラリアの南クイーンズランド大学からはオンラインシンポジウムへの招待が届いた。シンポジウムへの参加学生は世界中から集まっており、日本に居ながらにして環境問題や気候変動に関しての外国人学生と意見交換ができ、その後もメールやSNSを活用した交流を続けている。
     著者は10年以上前に、ニューヨーク大学のオンライン授業を受講した経験がある。今のようなビデオ会議システムはなく、ネットでつながったクラスにメールで参加する形式であった。毎週の授業の前に膨大なリーディング教材をダウンロードし、課題に対する意見をネットに打ち込んでいく方法がとられた。アクセスすると世界中の学生が意見を書き込んでおり、一方的に主張するだけでなく、議論しなければならない。めんどうだったり、準備が間に合わなかったりして参加しない時間が続くと、コーディネーターから個別メールが届く。しばらく書き込みがないがどうしたのか、〇〇についての意見をまとめられるか、XXさんの意見に対しての反論を書くようになど、丁寧でこまやかな指示が頻繁に送られてきた。ネット上だけの交流であったが、各受講者に気を配り、最後まで課題に取り組ませようという、あたたかい人柄と熱心な指導は掛け替えのない存在であった。ICT教育を効果的に持続させるためには、有能なコーディネーターの役割は大きい。


  • (3)FDとしての大学教師向けオンライン研修を行う。

     FDとはFaculty Developmentで、教育内容や教育方法など研究や研修を大学全体として組織的に行うことである。具体的には教員の能力(研究能力や教育能力)の開発や教育システムの開発を指す。
     勤務校でも定期的に教育の質保証のための教師間の意見交換や、シラバスの改良など行ってきた。オンライン授業での問題は教員間のデジタル・ディバイドで、この格差が教育の質の差となり、学生への教育の質保証の不公平さを生み出す原因のひとつとなった。FDでは研究能力や教育能力を高める内容が中心になっているが、ICT教育へ対応できるノウハウを共有することも含まれるべきである。
     非常勤として勤めていた大規模大学では、昨年の2月に「大学教師のためのオンライン講座」が設けられた。「Zoomにアクセスしてみよう!」「Zoom初心者が使えるようになる講座」などいくつもの講座を設け、気楽に入っていけるサイトを立ち上げてくれた。
     講座も複数設けられていて、自分の都合に合わせて受講することができ、授業が開始された後も授業の進度に合わせて起こる問題点をテーマにして講座を企画して、わからないことが出てくるとメールでの問い合わせに丁寧に対応してくれるというサポート体制もできていた。何よりも自分と同じICT使用に乗り遅れた教師との問題の共有、疑問点の可視化ができたことが、授業で学生を指導する大きな支えとなった。
     ICT教育を支えるためにテクニカルサポート体制を作ったり、チャットサポートで非対面での強化を進めたりすることが大学のICT教育の充実化につながっていく。



 大正大学は1925年に天台宗、浄土宗、真言宗豊山派、真言宗智山派からなる仏教の連合大学として設立された。現在は地域に根差した総合大学として6学部15学科を有し、2026年に創立100年を迎える。
 建学の理念「智慧と慈悲の実践」と教学ポリシー「4つの人となる(慈悲、自灯明、中道、共生)のもと、人間を総合的に理解し、社会に貢献できる人材を育成することを目標としている。

西蔭浩子

大正大学・大学院 特任教授

 獨協大学、コロンビア大学大学院修了。専門は、英語教育・異文化コミュニケーション。1997年4月大正大学助教授から教授を経て現在に至る。2010-2013年/2015-2019年は表現学部学部長を務める。
 NHKテレビの語学番組「3か月トピック英会話~TOKYOまちかどリスニング」、「英語が伝わる!100のツボ」などに講師として出演。また、NHKの語学番組のテキストや番組開発にも関わる。
 主著書には、NHK英語講座『ミニ英会話とっさのひとこと』、『3か月トピック英会話~こころを伝える英語』、『NHK出版サイバーテキスト』、『e-learning Gym』、『英語リスニングのお医者さん』(ジャパンタイムズ)など。

この講演に対するコメントやご質問をお寄せください

これまでのシンポジウム

Copyright Japan Media Communication Center All rights reserved. Unauthorized copy of these pages is prohibited.