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University Social Responsibility(大学の社会的責任)を事例として

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第30回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2022年2月~2022年3月

持続可能な世界を目指して~コロナ危機の中の挑戦~

MOOCを活用した国際的教育連携の促進
University Social Responsibility(大学の社会的責任)を事例として

飯吉 透
京都大学 高等教育研究開発推進センター センター長・教授

はじめに

 過去10年余りに渡ってMOOC(大規模オープンオンライン講義)は、世界中の大学や教育機関によって精力的に推進され、高等教育に大きな影響を与えてきた。2020年末の時点で1万6000以上のMOOCsが提供されているが、既存の大学講義の範疇を超え、複数大学の連携によるあらたなグローバルな教育的取組も始まっている。本講演では、京都大学と香港理工大学が主導し5つの大学と協力して制作・提供されたMOOC「Introduction to University Social Responsibility(大学の社会的責任入門)」プロジェクトを実践事例として、新たなオンライン教育メディアを活用した国際的教育連携の可能性と社会における高等教育の新たな役割・貢献を探求する。

世界的に普及したオープンエデュケーションとMOOC

 高等教育におけるICT 活用と教育的イノベーションは、特に海外では、コロナ禍以前から大学・企業・団体等により積極的に展開されてきた。1990年代中盤から始まったインターネットの世界的な普及は、オンラインによる講義や教材の配信・共有を可能にし、高等教育の世界にeラーニングという新たな教育形態をもたらした。2001年にマサチューセッツ工科大学(MIT)が、自大学の講義ビデオや教材をインターネット上で無料公開するオープンコースウェア(OCW)を立ち上げたことは、大学界だけでなく社会的にもセンセーションを巻き起こし、オープンエデュケーション・ムーブメントは北米から一気に世界に広がった。
 この流れを受け、2010代初頭のスタンフォード大学における試みを皮切りに台頭したMOOC(大規模公開オンライン講義)の急激な拡大が、ここ数年でグローバルに進んでいる。米国Class Centralの調査報告(Class Central 2020)によれば、2020年末の時点で950 の大学から約1万6300の講義が提供されている。

MOOCやオンライン教育を活用した大学間国際連携の取り組み

 コロナ禍下において渡航を伴う海外留学の多くが延期・中止を余儀なくされる中で、コロナ禍以前からMOOCやオンライン教育を利用して行われているバーチャル留学の取組が、留学先の大学で授業を受けることの代替的役割を果たすものとして、あらためて注目されている。例えば、オランダのデルフト工科大学が世界の10以上の大学と連携して取り組んでいる「Virtual Exchange Program」では、連携校間で単位互換可能な十数の授業科目をMOOCで受講することが可能で、このような取組はMOOCを提供・利用している世界の大学間で広がっている。さらに、2006年にニューヨーク州立大学で国際的な大学間教育連携・協力を促進するために開始された Collaborative Online International Learning(COIL)は、それぞれの大学の異なった授業科目の一部をオンラインを通じて共有するという取組で、日本も含め世界の大学で進められてきた。現在、 ニューヨーク州立大学のCOIL Global Networkには、約90の大学が加盟している。COILは、大学間の単位互換協定を必要とせず、「リアルタイムの遠隔授業形式」と「LMS・MOOC等を利用したオンデマンド形式」のどちらでも実施できるため、コロナ禍下で世界中の大学においてオンライン授業が普及したことで弾みがついたこともあり、今後このような形による大学教育の国際化もさらに加速していくことが予想される。

MOOCを通じた新たな国際的大学間協力の推進

 筆者がセンター長を務めている京都大学高等教育研究開発推進センターでは、SGUのような全学プロジェクトと連携し、MOOCやオープンコースウエア等による教育の世界に向けた発信を推進してきた。京都大学のMOOCは、edXを通じて2014年に開始され、英語によるオンライン講義提供をおこなっている。edXで使われているOpen edXというMOOCプラットフォームは、オープンソース化され無料で自由に使えるようになっているが、京都大学ではこのシステムを自学のサーバー上でも運用し、SPOC(Small Private Online Course)を、学内外に向けた日本語によるオンライン講義を提供している。さらに、これらの講義の一部はJMOOC /Gaccoを通じて、主として国内向けに拡大配信されている。
 グローバルMOOC としては、KyotoUx(edXにおける京都大学のブランド)を通じて現在約14の講義が提供されており、数学・物理学・経営学・生化学・医療統計学・地球化学・霊長類学・倫理学など、幅広い研究分野がカバーされている。研究大学では、教育よりも研究に教員の興味・関心が向けられる傾向があるが、熱心な研究者である教員が、MOOC等を通じて国際的な教育発信・貢献に熱心に取り組む事例が増えることで、他の教員への良い刺激や模範となっている。


図1. 京都大学のグローバルMOOCサイト「KyotoUx」



 このような中で2020年2月より、京都大学と香港理工大学は、MOOC「Introduction to University Social Responsibility(大学の社会的責任入門)」の配信を開始した。University Social Responsibility (USR)とは、企業のCSRのように、大学が教育や研究を通じて、社会的に貢献し責任を果たしていくという概念・理念である。本MOOCは、USRに関する理解を世界の大学の実践例を通じて促進し、大学の教育・研究を通じた社会貢献の理解と認知を広めることを目的としたUSR Network (http://www.usrnetwork.org)の共同プロジェクトである。本MOOCの統括・制作は、京都大学高等教育研究開発推進センターが、国際戦略本部と香港理工大学に置かれたUSR Network事務局の協力を得ておこなった。
 USR Network(以下、USRN)は、「大学は世界の経済・社会・文化・環境等の様々な課題に対して共に取り組み、解決策を提示する義務がある」という理念のもと、「ユニバーシティ・ソーシャル・レスポンシビリティ(USR/大学の社会的責任)」を積極的に推進することを目的として、2015年に香港理工大学が中心となって発足した大学間連携ネットワークで、現在、香港・中国・日本・イギリス・ブラジル・アメリカ・オーストラリア・イスラエル・南アフリカ等の19大学がメンバーとなっている。主な活動としては、「学⽣を対象とした社会連携教育プログラムの提供」、「教員・スタッフを対象とした視察・研修プログラムの提供」、「災害対策に関する活動」、「USRに関する書籍の出版・電⼦会報の発⾏」、「USRサミットの開催」などを行っている。
 USRNは、高等教育における大学のより強い社会的関与を、ビジョンを共有しながら促進するグローバルな大学連合であり、USRN の加盟校は、「大学は伝統的な象牙の塔であることを越えて 、社会をより良い場所にするために最善を尽くさなければならない」と考え、世界をより公正で包括的、平和で持続可能にするために、実在する経済的・社会的・環境的問題に取り組むことを通じて、 大学による「社会還元」のより良い方法を協働で見出そうとしている。京都大学は、USRNの設立機関でもある香港理工大学と共にUSRNの主要メンバー校として、その発展と成長に貢献してきたが、その一環として本MOOCプロジェクトはUSRNに提案され、香港理工大学の協力により実現された。


図2. MOOC「大学の社会的責任入門」



MOOC「大学の社会的責任入門(Introduction to University Social Responsibility)」の目的と内容

 edXを通じて、KyotoUx(京都大学)とPolyUx(香港理工大学)から共同配信されてきた本MOOCは、各国の大学のリーダーやステークホルダー、教職員や学生が、USRについて、世界中の大学のグッドプラクティスの事例から学び、このようなグローバルなムーブメントへの参加を促すことを目的としている。内容としては、4週間のコースとCOVID-19(新型コロナ)への大学の対応に関する特別セッションから構成され、USRの一般的な概念や、社会のポジティブな変化を促進するためにUSRN加盟大学が実施している優れた取り組みやプロジェクトについて学ぶことができる。以下が、本MOOCで取り上げられている世界の7つの大学の実践例である。

  • カナダのSimon Fraser Universityは、大学の戦略ビジョンの中核としてコミュニティー・エンゲージメント(community engagement)を掲げており、大学を「公的な対話のための広場」にするため、毎年地元のコミュニティーのために1週間のコミュニティー・サミットを開催している。

  • 香港の香港理工大学では、在学する約1万6000人の学部学生全員に対し、国際貢献にも重きを置いたコミュニティー・サービスラーニング(community service learning)を学位取得のための必須科目としている。

  • 南アフリカのUniversity of Pretoriaは、コミュニティー関連機関・団体と共に長期に渡って構築されてきたネットワークの支援を得て大学の社会貢献プログラムを展開しており、企画と実施には、数十人の教員とNGO職員が関わっている。

  • 日本の京都大学防災研究所では、自然災害や人災に対する予測と救援に関する専門性を活かし、学生を交えた教育的活動を通じて、地元コミュニティーや国内外の防災に関する啓蒙や活動を展開している。

  • オーストラリアのUniversity of New South Walesでは、学生のボランティア活動の質と教育的成果を高めることを目的として、ボランティア活動に従事する学生の予備的な教育やそのための基準作りに関する先駆的な取り組みをおこなっている。

  • ブラジルのUniversity of São Paoloは社会貢献としての文化的活動支援を重視しており、大学が文化的施設・団体を直接運営したり、コミュニティーに対して広く参加が開かれたアートや文化に関するトレーニングの提供やイベントの開催をおこなっている。

  • 英国のUniversity of Manchesterは、社会貢献に対する大学としての組織的コミットメントを定常的に図るため、専任の准副学長やディレクターを置き、様々な観点から全学的なUSRの推進と支援に取り組んでいる。


図3. 各大学による事例



 また、本MOOCでは、大学における教育活動を通じた社会貢献プロジェクトを効果的に企画・実施するための実践的な方法についても学ぶことができる。さらに特別セッションでは、パンデミックによってもたらされた幾つもの課題に対し、各大学がとった多様な取り組みも紹介されている。

受講者属性・受講満足度に関する調査結果

 本MOOCの受講登録、講義終了後のアンケート調査、初期(2021年2〜3月)の受講者履歴データ(N=248)等の分析によると、受講者の性別比は、女性54.4%、男性45.6%であった。年齢分布については、25歳以下13%、26〜40歳35.2%、41歳以上51.9%であった。また、学歴分布については、高校修了者以下が9.2%、準学士・学士レベルが21.3%、修士レベルが38.9%、博士レベルが30.6%であった。一般的な大学・大学院レベルのMOOCに比べ、受講者の年齢層や学歴レベルが高いのは、本MOOCが大学のリーダーやステークホルダー、教職員等を主対象とした「USRに関するプロフェッショナル・デベロップメント」を目的としているためであり、ターゲット層からの受講者が中心となっていたことが分かる。国別では、受講者が多かった順に、日本、米国、メキシコ、香港、南アフリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、英国、インドネシアが上位10国であった。
 受講者の満足度については、75%が「とても満足」、12.5%が「満足」、この「本MOOCで学んだ内容を仕事に活かせる」と回答した人が70.8%、「本MOOCが、自分の大学でUSRを推進する際に制度・活動内容のデザインや実施に役に立つ」と回答した人が79.2%と、満足度・有用性の双方で高い評価が得られた。

今後の高等教育の国際化を通じた社会貢献の推進と拡充に向けた提言

 Chan, Hollister, Iiyoshi, & Lloyd (2020)は、本MOOCを通じて発信・共有されたような国境を越えたUSRやサービスラーニングに関する今後の取り組みについて、以下のような5つの提言をおこなっている。

  • 1. USRやサービスラーニングに関する学修成果のエビデンスを通じて、学生が何をどのように学んでいるのか明らかにする。


  • 2. USRの一部として大学と企業との連携強化のための制度づくりや実践(例えば、環境に配慮した建築設計や地域経済を活性化させる消費活動の推進等)を進める。


  • 3. 学生たち自身の地域性や文化を越えた国際的なサービスラーニングのプロジェクトを拡充する。


  • 4. 国際連合によるSDGsに重点的に焦点を当てたUSRやサービス・ラーニングを推進する。


  • 5. 国際的なコミュニケーションの活発化によって、USRによる社会貢献を高等教育のステークホルダーを超えるものにする。


 USRNは、本MOOCの取り組みと成果を踏まえて、既にUniversity of Manchesterを中心としてUSRN参加大学の協力のもと、次のUSR MOOC制作をおこなうことを決定している。今後は、MOOCによるグローバルな講義提供に留まらず、SNS等のプラットフォームやその他のICTツールの活用によって、USRやサービスラーニングの世界的な普及と実践コミュニティーの拡充が進み、国際理解と国際協力を通じ、産官やNGO・NPOとの連携を伴った大学発の持続的社会づくりへの貢献が高まることが望まれる。
 コロナ禍下で世界中の大学においてオンライン授業が普及したことで弾みがついたこともあり,今後MOOCやオンライン教育を活用した大学教育の国際化もさらに加速していくことが予想される。コロナ禍下における日本の大学の授業は、残念ながら感染拡大状況によって、対面とオンライン・ハイブリッドの間を右往左往させられているだけのように見受けられるが、ポスト・コロナ期の高等教育においては、様々な教育方法が目的やニーズに応じて最適に組み合わされ、大学が直面する課題は勿論のこと、世界が直面する課題を積極的・戦略的に解決していく 「飛び道具」として縦横無尽に活用されることを願って止まない。

参考文献・サイト

  1. 飯吉透 (2021), 「高等教育2050に向けた展望 ー日本の大学における教育的ICT活用の推進を巡る可能性と課題ー」, 高等教育研究 24, 11-31, 日本高等教育学会

  2. 飯吉透 (2018),「ブレンディッド化・多様化・個別化が進む未来のICT活用教育」, カレッジマネジメント, Vol.211 Jul.-Aug.2018, リクルート, 26-29

  3. Chan, S., Hollister, R., Iiyoshi, T. & Lloyd, A. (2020). University Social Responsibility movement gains traction, University World News, (March 28, 2020) (https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20200323131413245, 2021.11.13.) referred

  4. Class Central. (2020). “The Second Year of The MOOC: A Review of MOOC Stats and Trends in 2020.” (https://www.classcentral.com/report/the-second-year-of-the-mooc/, 2021.11.13.)

  5. Delft University of Technology Virtual Exchange Program (https://www.tudelft.nl/studenten/onderwijs/virtual-exchange, 2021.12. 15.)referred

  6. Palacio, F. & Sadehvandi, N. (2021) USR in Action: Lessons Learned from the MOOC “Introduction to University Social Responsibility”, USRN Webinar Series #1, October 20, 2021.

  7. SUNY COIL Center((https://coil.suny.edu, 2021. 11. 13.)referred

飯吉 透

京都大学 高等教育研究開発推進センター センター長・教授

 国際基督教大学・同大学院(教育工学)、フロリダ州立大学大学院博士課程修了。Ph.D(教授システム学)。カーネギー財団上級研究員・同知識メディア研究所所長、東京大学大学院情報学環客員教授、マサチューセッツ工科大学教育イノベーション・テクノロジー局シニアストラテジストなどを経て、20年近くの在米生活の後、2012年に帰国・京都大学に着任。京都大学教育担当理事補(2015-2020)。
 国内外でテクノロジーを利用した高等教育の進展・イノベーションに関するビジョン策定・研究開発・啓蒙活動に従事。世界経済フォーラムグローバル・アジェンダ評議会委員(「テクノロジーと教育」部門)、NHK日本賞審査委員などを歴任。文部科学省中央教育審議会大学分科会質保証システム部会委員、日本学術振興会卓越大学院プログラム委員会専門委員、文部科学省デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン事業委員会委員、日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)理事等も務める。
 アメリカ教育工学コミュニケーション学会より、最優秀開発実践賞ならびにロバート・ガニエ教育研究奨励賞受賞。主著に”Opening Up Education: The Collective Advancement of Education through Open Technology, Open Content, and Open Knowledge”(共編著, MIT Press, 2008)、「ウェブで学ぶ – オープンエデュケーションと知の革命」(共著, 筑摩書房, 2010)など、「マルチメディアデザイン論)」(共著, アスキー, 1996)。

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