デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略
ご挨拶
今年度の第33回JAMCO国際シンポジウムは「デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略」をテーマに、研究者や専門家の皆様と討論をオンライン上で展開し、ご意見を頂きたいと存じます。
当センターは、主な活動として日本で放送されたテレビ番組の中から途上国での放送に適した番組を選んで、英語、スペイン語、フランス語などに翻訳した国際版を制作しており、そのライブラリーは、こども向け番組、教育番組、ドキュメンタリー、そしてドラマを含む幅広いジャンルにわたっています。
番組の提供先はアジア太平洋、中南米、アフリカ、ヨーロッパなどの101か国に広がり、提供本数はのべ14900本を超え、増え続けています。これらのテレビ番組は、現地の放送局で放送されるだけでなく、大学などで教材としても活用されています。
今回のシンポジウムでは、日本にとって重要な放送コンテンツの輸出先でもあるASEAN・東南アジア諸国連合の国々に注目しました。テレビへの広告費の減少で地上デジタル放送の経営環境が厳しさを増すタイ、一方、2023年に地上デジタル放送に移行し、新しい放送局が次々と誕生しているカンボジアの動向について3人の専門家の方々に論じていただくことにしました。
特に、タイではデジタルメディアとも連携し「総合エンターテインメント企業」を目指す民間放送局の動きに、またカンボジアでは、外国企業や異業種企業との協業により独自性のあるコンテンツを打ち出す動きが活発になっている現状に注目しました。
今回の国際シンポジウムの成果は、当センターの番組制作・提供事業のみならず、放送コンテンツの海外展開を模索する各メディアの皆様にとっても大いに参考にしていただけるのではないかと期待しております。
趣旨説明
デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略
デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略
今年で33回目を迎えるJAMCO国際シンポジウムでは変貌著しい東南アジアのメディア状況を取り上げたいと思います。
主要な東南アジア諸国で構成されるASEANは,近年,高い経済成長を見せており,世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されています。
そのASEAN諸国の中でも2位のGDPを誇るタイ、そのメディア産業の最新情報を基にタイのテレビ局が放送やインターネットを駆使してどのようなコンテンツ戦略を展開しているのか探ります。タイでは2013年に地上テレビの電波オークションが実施され、2014年にデジタル放送が開始しました。その後放送局間の競争に加えインターネットによる動画配信が急速に伸び競争が激化、9つのチャンネルが放送を停止しています。そして今やタイのテレビ局は番組のコンテンツの質を高めながら如何に生き残るかが焦点になっています。
一方でASEANの中ではGDP8位に位置するカンボジア、長く続いた内戦の混乱を克服し、近年は経済成長がめざましくなっています。そのカンボジアでは2023年にテレビのデジタル化がスタート。今やさまざまな特徴を持った民間放送局が新たに誕生しています。特に特に目立つのが教育、ニュース、若者向け番組で、香港やシンガポールなどから調達したドラマも人気番組です。さらに国民のほとんどがインターネットサービスを利用し動画視聴を行っています。とりわけ所謂Z世代と呼ばれる若年層の多くはあらゆるコンテンツを多様なオンラインプラットフォームで視聴しています。
このような状況の中、今回のシンポジウムではタイとカンボジアという経済状況が異なる隣り合った国の放送局が、デジタル化が進み放送とインターネットの競合が進む中、それぞれが生き残りをかけてどのような模索を行っているか報告をいただき、日本にとって参考になる点や影響はあるのか。研究者や識者の方に論じて頂きたいと思います。
タイ放送行政の改革と地上デジタル放送
はじめに
1985年プラザ合意以降、日本の直接投資の増大などを背景に、タイは1990年代半ばまで、高い経済成長を実現した。しかし、この間、1991年にはクーデタが発生し、1992年には五月暴虐事件(Prutsapha Tamin: Black May)が起き、政治的な混乱が生じた。それを受けて、軍の政治的影響力を排除し、政治改革を進めるため、折しもアジア通貨経済危機が深刻化する最中の1997年、民主版憲法ともいわれる新たな1997 年憲法が制定された。この憲法のもとで、2000年代に入り、政治やビジネスから中立性をもつ放送通信行政組織のあり方が議論され、2007年憲法のもとで、2011年、NBTC(National Broadcasting and Telecommunication Commission:国家放送通信委員会)が設立された[宮田敏之2013:92]。その後、このNBTCは、地上デジタル放送事業権に関わるオークションを実施し、2014年には、地上アナログ放送に代わり、新たに地上デジタル放送が開始された。
本研究では、まず、(1)タイの放送法制・放送行政の概要を整理し、NBTC(タイ国家放送通信委員会)の設立とその組織的特徴を示す。さらに、(2)1955年から2024年3月までのタイ地上アナログ放送の概要を検証し、(3)2014年4月以降のタイ地上デジタル放送の開始とその変容を検討し、タイにおける放送行政と放送産業の変化を明らかにしたい。
(1)タイの放送法制・放送行政とNBTC(タイ国家放送通信委員会)の設立
1-1タイの放送法制・放送行政の概要
2011年以降、タイのラジオ・テレビ放送事業はNBTCという独立機関が、政府の各省庁からも、民間企業からも独立する形で管轄している。タイでは1955年にラジオ・テレビ放送法が制定された[ウボンラット1999:148]。その後、1997年憲法に基づき、2000 年電波法が制定され、この法律には、放送事業を管轄するNBC(国家放送委員会)、通信事業を管轄するNTC(国家通信委員会)の設立が規定されていた。しかし、2004年にNTCは設立されたものの、放送事業を監督するNBCは、委員選出について行政機関と業界の調整ができず、結局、設立されなかった。暫定的にNTCが放送事業を管轄した。しかし、その後、2007年憲法が制定されると、そのもとで2010年電波法が制定された。同法にはあらたにNBTCの設立が規定されており、その規定に基づき、2011年9月NBTCが発足した[宮田2012:54-55]。
1-2 NBTC(国家放送通信委員会)の組織と設立背景
2010年12月、情報通信事業と放送事業を監督する独立機関NBTCの設置を規定する2010年電波法が発布された。正式名称は「2010年周波数配分およびラジオ、テレビ、通信事業監督機関に関する法」という。この2010年電波法は、2007年憲法第47条の規定に基づいて制定された。この第47条には「ラジオ、テレビおよび通信に使用する周波数は公益のために国家の通信資源とする」とあり、さらに「周波数を割り当て、ラジオ、テレビおよび通信事業を監督する、国の独立機関を1つ設置する」とあり、この条文に基づき2010年電波法が制定された[宮田2012:54]。
この2010 年電波法制定後、NBTC委員11人の選定作業が進められた。まず、ラジオ、テレビ、通信事業、法学、経済学、消費者保護、国民の権利・自由、社会開発の各分野から44人の委員候補者が選ばれ、さらに、上院議員による無記名投票で11人の委員が選出された。これら11名をインラック首相がプミポン国王に上奏し、任命され、2011年9月、NBTCが正式に発足した[宮田2012:54]。
NBTC委員11 人の分野別内訳は、ラジオ分野1人、テレビ分野1人、通信事業分野2人、法学分野2人、経済学分野2人、消費者保護分野1人、国民の権利・自由分野1人、社会開発分野1人で、任期は6年と定められた。11人のうち、ラジオ、テレビ、通信事業、社会開発分野で選出された合計5人は軍出身、法学分野の委員は警察出身であった。また、ラジオ、テレビ、通信、消費者保護、国民の権利・自由の5分野の委員選定投票で、次点となった5人で監査委員会が設けられた。この監査委員会は、11人のNBTC委員の活動を評価する役割を担った[宮田2012:54]。
(2)タイ地上アナログ放送の概要:1955年~2014年3月
地上アナログ放送テレビ局は、2014年の地上デジタル放送開始直前の時点で、①国営放送局NBT、②チャンネル9、③チャンネル5というタイ政府の諸機関が所有・運営する放送があり、④チャンネル3と⑤チャンネル7という商業テレビ民間放送局があった。さらに、公共放送の⑥Thai PBSがあった[宮田2014:54]。
①NBT(National Broadcasting Service of Thailandタイ国営放送局:チャンネル11:タイ語略称So.Tho.Tho.)は、1930年設立された国営ラジオ局を母体とし、1985年に首相府広報局の所管するテレビ放送局となった。1988 年より全国放送を開始した。ニュース、国家行事、宗教行事などが番組の中心であった。②チャンネル9(Modernine TV)は、1955 年にタイで初めての放送局として、タイテレビ放送という名称で設立された。このタイテレビ放送は、1977 年にMCOT(Mass Communication Organization of Thailand、国営タイマスコミ公団)が設立されたことに伴い、MCOTの放送局となった。2004 年にMCOTは民営化され、公開会社となったが、引き続き、財務省が株式の66%、政府貯蓄銀行が株式の12%を所有している。③チャンネル5(Royal Thai Army Television)は、1958 年に陸軍テレビ放送のチャンネル7 として出発し、1977年、チャンネル5 となった。陸軍が所有・運営している。情報番組、ワイドショーおよびゲームショーの番組の比率が高かった。④チャンネル3(Bangkok Entertainment Co. Ltd.)は、1967 年、マーリーノン一族の当主ウィチャイ・マーリーノン氏らを中心に設立されたBangkok Entertainment Co. Ltd.が経営する民間放送局である。1970年、タイテレビ放送から放送事業権を取得し、チャンネル3 として放送を開始した。1977年のMCOT設立に伴いMCOTから放送事業権を取得し、引き続き、チャンネル3 として放送してきた。2004 年、MCOTの民営化後も、引き続き放送事業権を取得して放送してきた。ドラマや情報番組、ワイドショーの比率が高かった。⑤チャンネル7(Bangkok Broadcasting & TV Co. Ltd.)は、1967 年、当時陸軍司令官と密接な関係を持ちアユタヤ銀行の大株主でもあったラッタナラック家のチュアン・ラッタナラック氏がガンナスート家と共同で設立した民間放送局である。陸軍のカラーテレビ放送であるチャンネル7 の放送事業権を陸軍から取得し、放送してきた。ドラマやスポーツの放送の比率が高く、また高い視聴率を上げていた[宮田2014:54]。
⑥Thai PBS(Thai Public Broadcasting Service)は、2008 年1 月に施行された「公共放送機構法」に伴い設立された、タイで唯一の公共放送である。この放送局は、政府の統制を排除し、商業放送とも異なり広告を放送せず、ニュース、ドキュメンタリー、教育番組などを扱う。事業費は、酒税とタバコ税による税収総額の1.5%で、20 億バーツ(2025年レートで約90億円)を超えない額と定められている。このThai PBSは、2008年1月に首相府管轄のTITV(Thailand Independent Television) が閉鎖され、新たに設置された。TITVとは、2007 年3 月に放送事業権が停止されたiTVが、首相府に接収されて設立された放送局である[宮田2010:52-53]。
なお、iTVという放送局は、1992年5月に発生した五月暴虐事件(Prutsapha Tamin: Black May)による政治混乱を経て、政府の政治的干渉から独立した放送局として1995 年に設立された民間放送局であった。ただし、首相府と年間3億バーツ(当時のレートで約11億7千万円)に及ぶ高額の放送事業契約(10年以内に年10億バーツに引上げ予定)を結んでいた。その際、番組の7割はニュース報道にすることが定められた。しかし、ニュース報道は一般に広告収入が集まりにくいとされており、1997年のアジア通貨経済危機の影響もあって、2000年には経営の立て直しが必要となった。そこで、当時は、一政治家で、タイ愛国党の党首でしかなかったタクシンが所有する通信会社シン・コーポレーションが2000年資本参加することになった[宮田2010:52-53]。
ところが、iTVの経営は好転せず、iTVは、2001年に成立したタクシン政権に対して、2002年に放送事業契約の変更を首相府に要求し、2004年の調停で、放送事業権料の減額とiTVの放送に占めるニュース報道番組と娯楽番組の割合を7:3から5:5に変更することが決められた。しかし、首相府はこの調停を不服として、中央行政裁判所に提訴した。その後、2006年5月中央行政裁判所は2004年の決定が無効であると判断を下した。iTVは、この判決の見直しを、最高行政裁判所に求めたが、2006年12月最高行政裁判所は中央行政裁判所の決定を支持し、iTVに対して、減額された放送事業権の差額22億バーツ(約86億円)と違約金980億バーツ(約3,830億円)を2007年3月6日までに支払うよう決定した。結局、iTVは期限までに支払いができず、放送事業権が取り消された。これを受けて、首相府はiTVを接収し、TITVという放送局に組織を変更した[宮田2010:52-53]。
(3)タイ地上デジタル放送の開始とその変容:2014年4月以降
3-1 デジタル放送開始
NBTC(国家放送通信委員会)は、2012年、地上デジタル放送の方式をヨーロッパ方式(DVB-T2)に決定し、2013年に商業部門の地上デジタル放送事業権に関わるオークションを実施した。NBTCは、2013年12月26日、バラエティー用HD(高度規格)7チャンネルと、バラエティー用SD(標準規格)7チャンネルのオークションを実施し、12月27日にニュース用7チャンネルと、子ども用3チャンネルの合計24チャンネルのオークションを実施した。これに対し全体で16の事業者が落札し、落札額は総額508.6億バーツ(事業期間15年)であった。バラエティー用HDチャンネルについてのオークションでは、9事業者が入札し、うち7事業者が落札し、落札額は合計237億バーツとなった。バラエティー用SDチャンネルのオークションでは、16事業者が入札し、うち7事業者が落札し、落札額は合計159億5千万バーツとなった。2013年12月27日ニュース用チャンネルのオークションには、10事業者が入札し、7事業者が落札し、落札額は合計92億3,800万バーツとなった。子ども用チャンネルのオークションには、6事業者が入札し、3事業者が落札、落札額は合計19億7,400万バーツとなった。2014年1月24日には、NBTCはオークション落札事業者に免許を交付した。チャンネル番号は落札額が最も高い金額の事業者から順に選択し、1月27日にNBTCから発表された[宮田2015:52-53]。
公共部門の地上デジタル放送4チャンネルと、このオークションで放送事業権を獲得した商業部門24のチャンネル、合計28チャンネルが、2014年4月から、地上デジタル放送を開始した。その後、地上アナログ放送から、地上デジタル放送への切り替えが進み、既存のアナログ放送6チャンネル中5チャンネルは2018年半ばまでにアナログ放送を終了し、チャンネル3だけが2020年3月までアナログ放送を行った。なお、NBTCは、地上デジタル放送の視聴拡大を目的に、地上デジタル放送の受信に必要なセットトップボックスの購入補助クーポン1枚690バーツを、2014年10月から全国の約2,200万世帯を対象に配布した[宮田2016:52]。
3-2 地上デジタル放送事業者数社の放送停止
2014年4月以降、地上デジタル放送が開始されたが、2014年5月クーデタの影響やスマートフォンの普及などにより、テレビへの広告費が減少し、地上デジタル放送の広告収入が想定を大幅に下回った。そのため、経営環境の悪化に苦しむ放送局があらわれた。地上デジタル放送の子ども用チャンネルLOCAとニュース用チャンネルThai TV(THV)を経営するThai TV社は、業績悪化を理由に、2015年5月、NBTCに対して、地上デジタル放送免許事業権料の2回目の支払い分2億6、800万バーツ(2015年のレートで約9億7千万円)の納付を拒否し、6月に、地上デジタル放送移行の遅れの責任を問うためNBTCを中央行政裁判所に訴えた。中央行政裁判所は7月、NBTCとThai TV社に調停案を示し、同年10月末までに、Thai TV社が新たに番組コンテンツ制作業者MVTV社と提携して新たな出資企業を探すことで合意した。しかし、結局、Thai TV社は地上デジタル放送免許事業権料の第2回目支払い分を納付できなかった。このため、NBTCは、2015年12月1日、Thai TV社の2つのチャンネルの放送を中止させた[宮田2016:52-53][宮田2017:52]。
その後も、広告収入の減少などによって、地上デジタル放送を取り巻く経営環境は好転せず、他の地上デジタル放送事業者も放送事業権料の支払い猶予を、NBTCを通じて、政府に要請した。これに対して、2018年5月、プラユット首相は、2014年5月クーデタ後の2014年7月に制定された暫定憲法の第44条に規定されている非常大権を行使すると決定した。2014年暫定憲法第44条には、クーデタを陸軍総司令官として主導したプラユット首相自身が、事実上、治安上必要と判断した場合に、立法、行政、司法上のいかなる命令をも出す力をもつことができると規定されていた。2017年憲法が制定された後も、この2014年暫定憲法第44条は効力を残すとなっており、この非常大権をもとに、2018年5月、プラユット首相は、地上デジタル放送事業権料支払いを3年間猶予し、デジタルネットワーク使用料を2年間50%引き下げると決定した[宮田2019:49]。
さらに、2019年4月11日、プラユット首相は、この2014年暫定憲法第44条の非常大権を利用して、地上デジタル放送免許の返納を認めた。これを受けて、5月10日には、商業部門の子ども用、ニュース用、バラエティー用の合計7つのチャンネルがNBTCに対して、放送免許の返納を申請した。NBTCは7月11日7つのチャンネルの返納申請を承認した。順次、これらのチャンネルは放送を停止した。8月15日にはSpring News(Ch19:チャンネル番号19を意味する)、Bright TV(Ch20)、Spring(Ch26)、8月31日にはVoice TV(Ch21)、9月15日にMCOT Family(Ch14)、9月30日にはChannel 3 Family(Ch13)とChannel 3 SD(Ch28)が放送を停止した。なお、バラエティー用HDのChannel 3 HD(Ch33)というチャンネルが、親会社が同じであったため、放送を停止したChannel 3 Family(Ch13)とChannel 3 SD(Ch28)の放送を統合し、一本化することになった。また、放送免許返納に伴い、NBTCは7つのチャンネルに対して、地上デジタル放送事業権料として支払い済みの金額の一部、7社総額27億6,100万バーツ(約94億円)を払い戻した[宮田2020:49]。2025年1月時点のタイ地上デジタル放送チャンネルは(表1)に示したとおりである。
(図表1)放送事業者に関する義務規定(概要)
(出所)宮田[2015:53]、宮田[2017:53]、宮田[2019:50]、宮田[2020:50]をもとに宮田作成。
(注1)2021年チャンネル番号はCh1からCh5へ変更。(注2)2019年放送停止。(注3)2019年放送停止。(注4)2015年放送停止。TV Pool Magazineは事業運営企業を所有する企業。(注5)2015年放送停止。TV Pool Magazineは事業運営企業を所有する企業。(注6)旧所有会社はDaily News。(注7)2019年放送停止。(注8)2019年放送停止。(注9)2019年放送停止。(注10)2019年放送停止。(注11)2019年放送停止。(注12)Jasmine Internationalは事業運営企業を所有する企業。(注13)Thai Rathは事業運営企業を所有する企業。(注14)Channel 3 Family(Ch13)とChannel 3 SD(Ch28)を2019年に統合。(注15)Bangkok Airwaysは事業運営企業を所有する企業。
上記のように、2015年に地上デジタル放送事業者2チャンネルが放送を停止し、その後、2019年には地上デジタル放送事業者7チャンネルが放送を停止した。その背景には、2014年以降、多数の放送事業者が地上デジタル放送に参入し、競争が激化したことに加え、ケーブル・衛星放送が拡大したことが影響している。しかし、それ以上に、スマートフォンの普及、インターネット動画配信の増大により、インターネット広告の割合が高まり、テレビへの広告費が減少したことがあげられる。広告費減少により、視聴率の芳しくない地上デジタル放送事業者は経営を圧迫された。その結果、2015年から2019年の間に、9チャンネルもの地上デジタル放送事業者が放送を停止したのである。テレビに対する広告費の減少傾向は、2019年以降も続いている。(表2)には2021年から2024年(予想)の媒体別広告費の推移を示している。この(表2)によれば、2021年から2024年(予想)の広告費自体は、全体として増大しており、2021年の約1,018億バーツから2024年(予想)には約1,145億バーツとなっており、その伸びは12.5%に達している。しかし、媒体別にみると、テレビへの広告費は、この4年間で、5.8%も減少している[Media Agency Association of Thailand 2024]。広告費全体に占めるテレビへの広告費割合でみても、(表2)に示しているように、2021年の55.5%から、2024年(予想)には46.5%に減少している。こうしたテレビ広告費の減少は、地上デジタル放送の経営環境を一段と厳しいものにしていることは明らかである。
(表2)タイにおける広告費の媒体別推移:2021年~2024年(予想)
(出所)Media Agency Association of Thailand[2024]にもとづき宮田作成。
おわりに
インターネットへの広告費が上昇する中、テレビへの広告費は減少傾向にある。その影響を受けて、地上デジタル放送事業者を取り巻く経営環境は、引き続き、厳しさを増すことが予想される。NBTCには、こうした厳しい環境を踏まえ、放送事業権料を弾力的に変更するなどして、地上テジタル放送事業者の負担を軽減し、地上デジタル放送事業者が、番組コンテンツの質を高めるために資金と経営資源を積極的に投入できるような施策と環境整備が求められているといえよう。
参考文献
[タイ語]
- อบลรัตน์ ศิริยุวศักดิ์, ระบบวิทยุและโทรทัศน์ไทย : โครงสร้างทางเศรษฐกิจการเมืองและผลกระทบต่อสิทธิเสรีภาพ, สำนักพิมพ์จุฬาลงกรณ์มหาวิทยาลัย, 1999.(ウボンラット・シリユワサック『タイ放送制度:政治経済構造と自由権への影響』チュラーロンコーン大学出版、1999年)
[英語]
- Supatrasit Suansook, "Digital Terrestrial Television in Thailand: Technical Aspects," Technical Review, October-December 2015, pp.30-32. [最終閲覧日2024年12月25日]<https://broadcast.nbtc.go.th/data/academic/file/591200000001.pdf>
[日本語]
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- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2012』NHK出版、2012年、53-57頁。
- 宮田敏之「アジア新興国の情報通信・放送行政改革:タイ国家放送通信委員会(NBTC)の設立と情報通信・放送産業の行方」『電気通信普及財団 研究調査報告書』No.28、2013年、91-98頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2014』NHK出版、2014年、52-56頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2015』NHK出版、2015年、52-55頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2016』NHK出版、2016年、52-55頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2017』NHK出版、2017年、52-55頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2019』NHK出版、2019年、49-52頁。
- 宮田敏之「タイ」NHK放送文化研究所編『NHKデータブック 世界の放送2020』NHK出版、2020年、49-52頁。
- Media Agency Association of Thailand, "Media Industry Spending 2024," Media Industry Update Emerging of OOH Commerce, Wednesday 21st, February 2024. [最終閲覧日2024年12月25日]https://mediaagencythai.com/wp-content/uploads/2024/02/2024-Spending-and-Inflation_20240221.pdf
デジタル時代のタイのテレビ局のメディア戦略
はじめに
このシンポジウムへの前回の寄稿で、著者はタイのテレビ局で進行している運営上の課題について検討した (Bilmanoch, 2014)。ここでは、過去 10 年間のタイのマスメディアの加速的な変化―政府規制の進化、産業環境の変化、完全なデジタル化移行に伴う技術の進歩に関連する変化ーについてまとめる。テレビ局が役割を果たし、存続のために採用した適応戦略について議論し、近い将来の業界の見通しについて概説する。
上述の広く認識されている変化や、COVID-19パンデミックによる稀有なプレッシャーにもかかわらず(Bilmanoch, 2022)テレビはタイのあらゆる年齢の人々にとって主要な情報源であり続けている(Common, 2018; Tortermvasana, 2023)。現在の総人口は約7,200万人(Worldometer, 2024)で、以前の調査では、タイの世帯の98%以上がテレビを所有しており(Common, 2018)、そのうち、地上デジタルテレビ(DTT)の導入率は人口の95%に到達していると報告された(Sportcal, 2019)。2018年には、テレビ視聴者の88.6%が地上波テレビを視聴し、11.4%がケーブルテレビと衛星放送を視聴していた(Sportcal, 2019)。タイで視聴可能なテレビの種類の概要については、図1を参照のこと。
特定の組織の現状や先行きについて説明する前に、背景を理解頂くため、過去 10 年間の一般的な影響、主な出来事、変化について概要を以下に述べる。
2010年から2014年にかけて、タイの国家放送通信委員会(NBTC)は、デジタルシステムへの移行とアナログテレビ信号の段階的廃止に関する計画とスケジュールを策定し、ガイドラインを発表した。全体的なプロセスは4つのフェーズで構成された。すなわち、1.地上デジタルテレビ放送(DTTB)ポリシーの策定、2.ライセンスポリシーと規制、3.オークションと入札の組織化、4.デジタル移行(DSO)の通信と監視(ITU, 2015)である。中でもDSOプロセスは、業界全体の再編を伴う破壊的なもの(Common, 2018)と言われた。デジタルシステムの主な利点は、モバイルブロードバンドプロバイダーが、カバレッジ(可能範囲サービスエリア)を拡大できることである(GSMA, 2017)。これは、主要都市部以外でのインターネットアクセスが限られているタイでは重要な考慮すべき点である(Bilmanoch, 2014)。
2014年以前は、6つの主要な地上波テレビ局が存在した(詳細はBilmanoch, 2014を参照)。法律と規制の変更に伴い(Lin and Oranop, 2016, NBTC, 2020)、2014年1月に24のデジタルテレビライセンスの落札者が発表された。このうち3つの局は子供向け、7つの局はニュースに重点を置き、残りはバラエティ番組をSD(標準規格)とHD(高度規格)で放送した(Common, 2018)。これらの新しい局のいくつかは、2014年4月に開局した。ケーブル、衛星、IPTVに加えて、3つの公共放送チャンネルとあわせて、合計27のチャンネルが利用可能になった。現在のチャンネル数や企業数、プロバイダー数はさまざまだが(変動があるが)、約100のチャンネルが放送されており、複雑で競争の激しい状況で多くの企業が直接または間接的に関わっていることは明らかである。
競争の激しい国内市場で地上波チャンネルが劇的に増加し、テレビ広告収入や個人消費の減少も伴い、さらに視聴者の変化とモバイルデバイスの使用増加も影響して、やがて7つの放送局が閉鎖されることになった(Tortermvasana, 2019, S&P Global, 2020)。残った放送局は、新しい収入源を生み出し、分散する視聴者に対応するために様々な方法を採用してきた。
第一にテレビ局は収入源を多様化し、新たな収入源に投資した。例えば、人気ドラマシリーズの制作・販売をしたり、パートナーと協力して世界市場向け映画を新作したり、さらには主なスポーツイベントの放映権取得などである(Sportcal, 2019)。
第二に、視聴者の多様化、分散化に対しては、若年層に焦点を絞った番組を導入し、様々なオンライン視聴用プラットフォームへのアクセスを改善した。第三に、既存の視聴者を維持し、新しい視聴者を引き付けるために、人気番組のプレゼンテーションの改善に投資し、番組の定期的な再評価に多くのリソースを割り当てて、番組の継続的な品質、魅力、(社会的)適合性を確保してきた(Nation Thailand, 2024)。表1を参照。
COVID-19パンデミックは、テレビ放送局にも新たなプレッシャーを与えた。感染や伝染を減らすことを優先し、直接の対面交流ではなく、視聴覚コミュニケーションの利用が促進され、自宅で情報や娯楽にアクセスできるソースへの必要性が高まった。
この分析では、タイのテレビマスメディアセクターの主要プレーヤーの例として、大手商業テレビ局(チャンネル3)とタイ公共放送サービス(タイPBS)に焦点を当てる。本論文の主な目的は以下の通りである。
(a) 現在のチャンネル3経営者の主要な優先事項と、近い将来に特定の市場(identified market)を拡大するための戦略について議論する。
(b) 公共放送局(タイPBS)が教育コンテンツへの需要の高まりと視聴者の多様化にどのように対応してきたかを検討する。
(c) タイにおける放送の現状と将来の展望を評価する。
チャンネル3(商業放送) – 戦略と課題
商業放送は、主に広告に支えられた、時事問題へのアクセス可能な情報サービスであり、視聴については任意である。重点は多くの消費者にとっての魅力と適合性に置かれる。このチャンネルは最初に開設されたアナログテレビチャンネルの1つであり(1970年設立)、以前は全国の地上デジタルテレビ視聴率の約33%を占めていた(UTI, 2015)。2023年後半の経営陣の議論では、タイの主要なビジネスコンテンツ放送局になるための取り組みが明らかになったが、そこにはいくつかの優先事項と関連する戦略と課題があった。これらは図2にまとめており、以下で簡単に説明する。
チャンネル3は、デジタルテレビ事業開始から3年間は赤字に陥っていた。これはチャンネル数の増加、技術の混乱、視聴者行動の変化など、いくつかの要因によるものであった。生き残るためにチャンネル3は「コンテンツ制作の巨人」になることで成長し、100億バーツの収入と50億バーツの利益を上げることを目標とした。事業計画には、ローカルコンテンツを海外市場に販売することが含まれていた。このため、チャンネル3はアジアテレビフォーラム&マーケット(AFT)にドラマコンテンツを出し、売買するパートナーにテレビドラマを紹介することを計画した(Rinwong, 2022)。
これらの決定以来、チャンネル 3 の幹部は戦略を再考、拡大し、チャンネルが再び利益を上げるように努めた。チャンネル 3 HD は現在、主要な事業目標を再定義し、中核となるテレビ事業に加えて収益を生み出す関連事業に投資する総合エンターテイメント企業になることを目指している。関連事業の 5 つのカテゴリーについては、以下に述べる (MGR Online, 2022)。
- スタジオと制作施設: チャンネル 3 は主な活動の 1 つを「ドラマ」コンテンツの制作としており、さまざまなターゲットにアピールするストーリー (ドラマ) を年間約 30 本制作するために 20 億バーツの予算を設定した。BEC スタジオが主な撮影場所として使用されているが、チャンネル 3 はすべてのシーンを屋内で撮影できる「バーチャルスタジオ」を新たに建設した。これにより、悪天候による撮影の遅れが減り、海外での撮影の必要性も減ることになる。またチャンネル 3 HD は4 億バーツを超える予算を投入してサウンドステージスタジオも設立し、国内外のオンラインプラットフォームで放送する高品質のテレビドラマシリーズを制作している。
- アーティストの管理: 前述の新しいドラマのターゲットにより、チャンネル3 HD は常に新しい作品に出演する新しい俳優を選定しており、管理する俳優の数は増えている。これらのアーティストが外部コンテンツを制作する組織と協力することを許可することで、チャンネル 3 は俳優、女優といった資産をより有効に活用することができる。一例として、Yaya (Urassaya Sperbund) がシリーズ「Tham Luang: Mission of Hope」(タイの洞窟救出) に出演したことが挙げられる。これにより大幅な追加収益が得られた。
- 音楽とサウンドトラックの制作: チャンネル 3 の子会社である Chandelier Music は、制作したドラマのサウンドトラックを作成している。これらのサウンドトラックはチャンネル 3 の著作物であり、それ自体で収益を生み出すことができる。さらに収益増加のために、チャンネル 3 は歌やダンスの才能のある俳優を選び、彼らを総合的なエンターテイナーとして育成することを決定した。すでに Taew (Nathaphon Tameeruks) と Bow (Melda Susri) を歌手としてプロモートしており、今後も他の俳優を宣伝する計画がある。
- 4. 映画制作および映画館:チャンネル3は2022年から映画事業に参入し、Mピクチャーズ エンターテインメントと協力して「Big Movies Big Project 2022」で映画を共同制作している。Anne Thongprasomとチャンネル3の主演俳優Kanawut Traipipattanapongが主演する「Buaphan Fun Yab」から始まり、その後、映画制作を行い、複数の映画館を所有するMスタジオ社との協力へと続いた。2023年には、Nadech Kugimiya主演の映画「ティーヨッド(Tee Yod)死の囁き」が制作され、国内外の映画館で公開された。この映画は成功をおさめ約5億バーツの収益を上げた。2024年には、チャンネル3とMスタジオが共同で「ティーヨッド2(Tee Yod 2)」と「マナマン(Manaman)」を制作した。さらに5本の映画が計画されており、世界の映画市場への進出も計画されている(CH3Plus、2024)。
- CH3アプリケーションと(視聴者)参加:CH3 Plusは、2020年にリリースされたCH3アプリケーションの改良版である。CH3 Plusは、ニュース、ドラマ、映画など、様々な1,000以上のコンテンツがあり、ニーズに応じて視聴することができる。「3 Plus、Any where Any time Any Device(どこでも、いつでも、どのデバイスでも)」のコンセプトの下、視聴者は「無料視聴」または月額79バーツからの「サブスクリプション」サービスを選択できる。加入者には様々な特典がある。例えば、放送日の深夜からのシリーズ再放送の視聴と、タイ語吹き替えの海外シリーズ番組の視聴、俳優の個人クリップへのアクセス、ファンミーティング情報へのアクセス、月間スター投票への参加などである(Marketing Oops!, 2022)。このアプリケーションは、視聴者のエンゲージメントを促し、長期的にチャンネル3に収益をもたらす参加型商品である。
これらの投資により、チャンネル3は2026年の収益を80億バーツ以上と見込み、うち50%はテレビメディアから、残りの50%は新規関連事業からもたらされると予想している。これにより、チャンネル3はデジタルテレビ事業におけるリーダーへと前進するだろう。
上記の、広範で長期的な企業グループ戦略に加えて、チャンネル 3 の活動に重点を置いた 3 つの優先事項がある。次にこれらについて説明する。
ニュース番組の強化
この優先事項は次の理由から認識され、実施された。(a) ほとんどのタイの視聴者は、他のどの種類の番組よりも、国内(local)および世界のニュースを日常的に視聴していることが確認されたため (ニールセン, 2022, スタティスタ, 2024)、(b) COVID-19 の影響でタイ人の視聴行動が変化したためである。視聴者の期待に応え有用なニュースを迅速に提供するために、ニュース番組を改善、強化することは、視聴率を最大化する理にかなった選択である。
チャンネル 3 HD は、番組の制作とプレゼンテーション方法を改善し、番組スケジュールを調整した。プレゼンテーションについては、視聴者に人気のプレゼンター(Sorayuth Suthassanachinda、Kanchai、Kitti Singhapatなど)をニュース番組の司会者として起用し、視聴者の関心をひいて視聴を促進した。その結果ニュース番組は全て高い視聴率を維持し、広告収入が大幅に増加した。
番組編成も拡大された。ニュース番組は朝から深夜まで様々な時間枠で放送されている。朝は「Ruang Lao Chao Nee」、昼は「Hone Krasae」、夕方は「Ruang Den Yen Nee」、深夜には「Khao 3 Mitti」などの番組がある。特に人気があるのは、「Ruang Lao Chao Nee」(月曜~金曜、6:00~8:20 a.m.)と「Ruang Lao Sao-Athit」(土曜~日曜、10:30~12:15 p.m.)である。この2つの番組は、広告時間を40~50%増しで販売することができる。この広告収入の増加により、チャンネル3はニュース番組の放送時間を延長した。例えば、早朝ニュースは1日あたり25~30分延長され(広告料金は1分あたり12万バーツ)、土曜・日曜の番組は1日あたり15分延長された(広告料金は1分あたり29万バーツ)。
チャンネル3は、正午のニュース番組(月曜~金曜の11:20~12:35)など、人気のあるニュース番組も追加した。この番組は昼間の視聴率を維持し、さらに広告収入をもたらしている。COVID-19の発生以来、チャンネル3のニュース番組は継続的に人気を博している(Orawan Marketeer, 2022)。
Netflixでのドラマ配信 ― 国際戦略
チャンネル3 HDは、タイのコンテンツリーダーを目指して、エンターテインメント事業に「シングルコンテンツ - マルチプラットフォーム」戦略を採用している。Netflixにドラマを販売することから始まり、3年以上にわたり、チャンネル3は(Netflixと連携して)東南アジアのすべての国で新作ドラマを同日放送してきた。
Netflixとの取り決めに加え、チャンネル3は様々な海外市場とも協力し、放送済みから放送予定のものまで、ドラマを海外のストリーミングプラットフォームで継続的に配信している。2023年には、チャンネル 3とBECスタジオは、ドラマコンテンツライセンスの配信業者契約をI.E. エンターテインメント社と締結した。
I.E. エンターテインメントは当初、4つのドラマを海外市場に輸出した。「Love Destiny」(台湾でPTSプラットフォーム経由で放映)、「Krong Kam」、「Trab Fah Mee Tawan」、および「Rati Luang」で、これらはアフリカの20か国以上でStar Timesビデオストリーミングプラットフォームを通じて放映された。この成功の後、I.E.エンターテインメントは新たに制作したドラマの権利を販売した。「Prom Likhit」、「Matarada」、「Sib Lab Mor Rabad」、「(Game Rak Torayot」などが含まれ、これによりアジア市場にさらに拡大した。
グローバルコンテンツのライセンスには3つのカテゴリーがある。同時放送のライセンス、ストリーミングプラットフォームのライセンス(チャンネル3の放送後2時間以内に再放送を視聴可)、そして、終了したドラマのライセンス(シリーズをより長い期間にわたって再放送できる)である。チャンネル3は現在、タイのドラマのライセンスを世界に向けて拡大している。例えば、メガドラマ「Mor Luang」は10か国以上に販売されている。世界各地で質の高いエンターテインメントが求められていることは明白であり、チャンネル3は、制作するほとんどのドラマを海外販売する計画である。この市場は長期的に成長が見込めると判断しているからだ(Brand Buffet, 2023)。
2023年9月までに、チャンネル3のドラマ、6,200時間以上が販売され、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの様々なプラットフォームで放送された。この業績とタイドラマの海外での人気の高まりから、チャンネル3はさらに収益を得るために視聴者基盤を海外に拡大する計画である(TV Digital Watch, 2023)。
将来の放送とインターネットのための事業スキームと戦略の構築
チャンネル3は、今後5年間の事業運営に関する戦略計画を立てている。総収益の当初の目標は、テレビ広告が70%、デジタルメディアと海外市場へのコンテンツ販売が25%、その他のソースが5%である。この計画により、コンテンツ制作の外注(hiring content production)、共同制作、イベントの企画、製品販売など、ビジネスの他の側面が拡大した。さらにビジネスパートナーや他のプラットフォームと契約を結び、多くの海外市場に進出している(Nicharee, 2023)。
チャンネル 3 は今後のテレビ事業で「総合エンターテインメント企業」として、コンテンツ制作のリーダーになることを計画している。そのため「単一コンテンツ複数プラットフォーム」というアイデアを活用しているが、この戦略では、コンテンツ制作に単一の投資を行い、複数のプラットフォームやチャンネル、その他のソースから収益を生み出すことができる。
ドラマ制作では、「統合マーケティング コミュニケーション (IMC) モデル」に基づいてコンテンツが企画されている。これはマーケティングコミュニケーション戦略であり、プロダクトオーナーら(product owners)を招いてドラマの全エピソードを通じて製品広告を計画することにより、プロジェクトの開始時から収益を生むことができる。
例えば、「Doctor Foster(ドクター・フォスター)」は多くの国で人気があり高い視聴率を誇っている。多くのメーカーがこの番組を利用して自社製品を宣伝したいと考えている。そこで、チャンネル 3 は、「ブランドコンテンツ」をデザインに取り入れ、さまざまな製品をエピソードのふさわしいシーンに登場させている。車、家庭用品、衣類、食品、飲料、様々な場所など、シリーズの登場人物の生活に簡単に結び付けることができる。
このマーケティング戦略は、チャンネル3ドラマ制作の新たな方向性である。さらに、このモデルは、音楽ビジネス、アーティストマネジメント、レーベル所属アーティストの製品プレゼンターの採用など、他の分野での収益拡大にも役立つ(Onjira, 2023)。新たな収益については、スポーツに関連したものもある。タイのテレビ局によるインターネットの活用は10年以上続いているが(Bilmanoch, 2014)、この数年でスポーツイベントの放映権を取得することで商業的利益が十分に認識されるようになった(Sportcal, 2019)。
タイ公共放送サービス – 戦略と課題
公共放送について長い歴史を持つところもあるが、タイでは2008年にようやくオフィシャルな公共放送が始まった(Mendel, 2010)。タイ公共放送サービス(タイPBS)は、「公共放送サービス法」(2008年)に基づいて設立された。タイ初の非営利公共メディア組織として、タイPBSは公共の利益となる正確で包括的なニュースと、教育サービスを提供する責任をもつ。PBSはラジオ局を運営し、地上デジタルテレビ視聴者の約4%を占めている(ITU, 2015)。タイの公共放送の進歩は、他のアジア諸国と比較して良いとされている点は強調すべきだろう。それらの国々では政治的支援の欠如や既存メディアの利害関係者の反対により公共放送サービスの実施や成長が妨げられている(Mendel, 2010)。タイPBSの発展と変化への対応については、図3を参照のこと。
公共放送の基本的な役割は、メンデル(2010)が挙げているように、社会問題の解決に向けた議論の提供、国民への重要な実用情報の配信、娯楽の提供などがある。商業放送局とは異なる役割であり、PBS が直面している優先事項や課題が反映される(下記参照)。ただし、これらの役割は、社会状況の変化、視聴者の期待、その他の要因によっても変わることがある。
例えば、最近タイで発生した深刻な洪水(Bangkok Post, 2024, CNA Live News, 2024)では、浸水地域、個人の安全、道路封鎖、食料、燃料、電力供給、緊急・避難サービスなどの日常的な実用情報の提供が重要だった。しかし数か月後には、地域情報の重点は取水制限、大気汚染、山火事などに移るかもしれない。
教育コンテンツとユニバーサルサービスの需要拡大
教育用素材やサービスへの需要が増大することが予想される。コミュニティーの教育レベルは向上し、教育方法や生涯学習の重要性に対する考え方も変化し、子供のための教育インフォテインメント(情報娯楽番組)に親は期待し、スキル向上へのコミュニティーのニーズ、技術的タスクを遂行するためのリテラシーの向上などが求められているからだ。
近年の通信技術の急速な進歩があらゆる人間の活動に影響を及ぼす中、学習プロセスや教育方法、さらに様々な環境で目に見える成果を達成するためのマネジメントについても、抜本的な見直しが行われている (Hansopha et al., 2020)。テレビのようなメディアが教育や情報を伝える中心的な役割をはたしていることは、数年前から認識されている (Bandura, 2002)。すべてのタイの子どもたちのため、NBTC は各世帯を公共通信ネットワークに接続し、タイの公共テレビチャンネルを通じて教育番組に普遍的にアクセス可能にする政策を実施している (NBTC, 2010)。
現状では、プレゼンテーションを改善したより新しい番組、特定の年齢層にフォーカスした番組を多く制作する必要がある。公共放送にとって視聴者のポジティブな反応が重要である。社会のあらゆる層(年齢、社会的地位)のために有用な情報源として、総合的、教育的役割を果たしていることを示す必要がある。
ALTVの展望
COVID-19の危機はタイの教育システムのすべての分野に影響を与え、学校や教育機関が閉鎖され、若者の教育に多くの悪影響を及ぼした。NBTCはパンデミック中の学生の学習を支援するという責任を認識し、2020年にPBSに新しい特別教育テレビチャンネル(ALTV)の立ち上げを許可した(NBTC Office, 2020, Public Media Alliance, 2022)。
これは地上デジタルテレビチャンネルで、タイPBSの補助的なテレビ局とみなされチャンネル4で放送されている。ALTVは学習を促進し、家庭と学校の間での教育と学習を統合することを目指している。この目標のために、ALTVは、チュラロンコン大学の教育学部やコミュニケーションアート学部、保護者ネットワーク、子供番組制作者ネットワークなど、様々な教育ネットワークと協力して、青少年教育のための質の高いコンテンツを共同で制作している。ALTVは、科目グループと子供の能力開発を組み合わせたコンテンツと番組スケジュールを設計することで、教育テレビチャンネルグループを強化している。コンテンツは、対象グループごとに決められ、子供と若者(43%)、教師(34%)、保護者(23%)に分かれている。プログラムの種類は、知識コンテンツ、教育強化(40%)、教師のデモンストレーション(36%)、家族向けコンテンツ、時事問題、その他(24%)に分かれている。毎日のプログラムは、対象グループの年齢に応じて編成されている。午前中は幼児から小学生、高校生、ティーンエイジャーまでを対象とし、夕方には放送終了前に保護者向けの番組を放送する。午後(月曜~金曜)は教師のための時間が割り当てられ、授業のデモンストレーションや経験をシェアする番組が放送される(タイ公共放送PBS, 2022)。
多様な学習形式の需要やあらゆる状況に対応するために次の6つのタイプのプログラムが作成された。
- アクティブラーニングニュース - 学習や日常生活に応用できるコンテンツ、ニュースを紹介。
- ホームルームホームラン - 生活や教育の指導(ガイダンス)を紹介し、教育ガイドラインの提案、それぞれの生活を振り返る。
- スマートクラスルーム - 新しい、専門的なスキルの促進、スキルを素早く理解して習得できるように、インタラクティブなコミュニケーションを重視する。
- ナレッジファーム – 多様な場での活動を通じて学習コンテンツを提供し、視聴者が異なる状況から学んだ知識を家庭、学校、地域社会で効果的にいかせるようにする。
- チューター ハブ - すべてのグループが、興味ある科目を教えたり、学んだりできるように、コンテンツとイノベーションを提供する。
- ナレッジ プール – 様々な分野の知識リポジトリ(保管場所/データベース)としてコンテンツを紹介する。視聴者はそこでお互いの知識をやり取りし共有することで人生経験(life experiences)を得る。
つまり、ALTV は、子ども、教師、保護者、コミュニティーが協力して学ぶことに重点を置くテレビ チャンネルである。これは、新しい学習方法を広範囲の新しい場で進める公共システムの重要な部分であり、現在と、これから予測されるニーズにも見合うため、継続的に重要なことは明らかである。
視聴者の多様化への対応
テレビ視聴者の行動に影響を与える多くの要因と、それらと文化との関係は、何十年にもわたって記録されてきた (Morley, 2003)。タイでは特に、興味やニーズ、視聴者反響の多様性が重要になってきており、近年では視聴者の大幅な多様化が記録されている (Common, 2018)。特に若年層の間でテレビ視聴者の分散が著しい。彼らはテレビから離れつつあり、Z 世代を例にとると、あらゆるコンテンツを多様なオンラインプラットフォームで視聴している。
チャンネル3や他のテレビ局と同様に、タイPBSはオンラインプラットフォームで視聴者を維持し、新たな視聴者を引き付けるための戦略を立てた。このプロモーション策には、利用しやすい視聴サービス機能の開発が含まれる。タイPBSのウェブサイトは、「Thai PBS NOW, Click Every Day, Catch Up with Every Event(毎日クリックして、すべてのイベントをキャッチアップ)」というタイトルのもとで再構築され、あらゆる視聴者グループに便利なテクノロジーと機能を備えている。このウェブサイトは、タイPBSネットワークの10のウエブサイトからのコンテンツを一つの場所にリンクし統合することで、ポートフォリオ全体のひとつのゲートウェイとして機能するように設計されている(タイPBS, 2023)。
さらにタイPBS は、ビデオストリーミングプラットフォームVIPA を通じたビデオオンデマンド (VOD) でオンラインサービスも提供している。VIPAでは過去 11 年間に タイPBS TV で放送されたアーカイブ番組やVIPA用に制作された新しい番組を放送している。VIPA はUSER GENERATED(ユーザー生成型)カテゴリーの番組を提供するプラットフォームとしても機能している。これは新世代の番組制作者のためのパブリックスペースであり、参加者は タイPBS TV の番組制作チームからアドバイスや支援を受けることができる (VIPA.me, 2024)。
タイPBSTVは、オンラインプラットフォームで過去や現在の番組にアクセスすることを常に改善し視聴者にアピールしている。彼らは携帯電話やタブレットなどの様々な通信デバイスを通じてコンテンツを快適に視聴している。これにより様々な興味やニーズを持つ若い視聴者の関心を引き、将来の視聴者拡大への投資となる。専門的な参加型番組などの他では対応していない需要にもこたえ、あらゆる年齢層、特定の興味を持つ層の長期の視聴を促進している。
公共放送の役割・重要性の再評価
タイPBSの公共放送としての社会的、教育的、コミュニティーの福祉に向けての目的は変わらない(Mendel, 2010, Linkedin Thailand, 2021)。しかし、公共放送局が視聴者とどのように関わるか、そのストラテジーと技術の一部は前述のように変化している。公共放送は、教育と技術的知識の必要性が高い発展途上国ではより重要である(UNESCO, 2005)。タイでは、一度に比較的少数の視聴者にサービスを提供しているが、公共放送の必要性は高まっており、その主な理由は以下である。
(a)人口増加と技術・情報ベースの経済への移行に伴い、専門的な教育教材の必要性が高まっている。
(b) 公共放送は革新的な教育技術開発のロジカルな中心となり、新しい技術や既存のアクセス可能な技術をうまく組み合わせることで、様々な場で学びを促進することができる。
(c) 公共放送局は、政治的干渉や商業的偏見のない正確な情報を発信し、商業メディアでは得られない社会的コメントや文化的サービスを提供する。
要約すると、積極的、革新的なPBSに対して適切に継続して財政やリソース支援をすることは、タイの将来の発展にとって不可欠な投資である。
まとめ
今日のタイにおける放送
複雑で競争が激しく、ダイナミックなメディア環境において、ソーシャルメディアやストリーミングプラットフォームによる変革(disruption)にもかかわらず、デジタルテレビが依然としてその地位を維持していることは注目すべきである (CISION, 2024)。これは、都市部と非都市部の間に認められた違いによるところが大きく、非都市部では多くの人が依然としてテレビを主な情報源、娯楽源として毎日視聴している (Tortermvasana, 2023)。したがって、将来の存続には、積極的で適切なマネジメントが不可欠であり、主要な役割の再評価と、提供される番組(products)やサービスの質の向上が必要である。
現在、テレビ放送業界は基本的な営利的プレッシャーが続くなか、いくつかの一般的な課題にも向き合っている。ニュースや時事番組の改善、教育素材のアウトプット(生産)の増加、質の高い国際番組への継続的なアクセス、視聴者の多様化/分散化およびインターネットアクセスの普及に対する戦略の精査、そして管理上の問題を支援する AI の活用などの課題だ。
タイの人口の88%(約6,200万人)がインターネットユーザーとの報告がある(BBCニュース, 2023) この文脈では、視聴者の分散についてさらにコメントすることは関連性がある。このプロセスは、消費者が異なるメディアチャネルに分散することによるものであり、コメンテーターたちは、ソーシャルメディアが視聴者の行動に大きな影響を与えていると一致して認め、異なるプラットフォームが、異なる活動を強調していると述べている。(例:YouTubeは収入を生み出すため、TikTokはショッピングとニュースの更新のため)。インフルエンサー市場は「ファンダムマーケティング」の概念が依然として人気があるため拡大を続けている(CISION, 2024年)。
将来の展望
複雑なタイのメディアセクターでは、創造的、芸術的、文化的価値を維持しながら営利的現実に向き合うなど、いくつかの課題が常にある (Common, 2018)。しかし効率的な経営を前提として、過去 10 年間の技術の多様化、デジタル化への転換、目まぐるしい社会経済的変化にまつわる多くの破壊的影響にもかかわらず、近い将来のタイの放送の見通しは明るい。楽観的な見方をするのは次の理由からだ。信頼あるニュースとローカル(国内)時事問題の質の高い分析が常に求められるため。質の高い海外コンテンツとのローカル(国内)ドラマシリーズが常に求められるため。公共放送の社会的役割への認識が高まってきたため。教育コンテンツへの需要が増加しているため。そして都市部以外の、地方における家族/コミュニティーのインフォテインメント(情報エンターテイメント)として、テレビが中心的な役割を担い続けているためである。
しかし、特にAIや視聴者の分散に関する問題については、継続的な計画の重要性を強調しすぎることはない。また、既存のデジタルテレビライセンスはすべて2029年に終了となるため、将来のライセンスについては行政上(administrative)の不確定要素と言える(Tortermvasana, 2023)。
デジタル時代を迎えたカンボジア放送業界の現状
1966年、カンボジア初のテレビ局であるカンボジア国営テレビ(TVK)が誕生。しかしポル・ポト時代に全ての機能が破壊されてしまう。1979年、ヘン・サムリン政権の誕生とともにTVKは再開するも、当時は1日4時間しか番組を放送できなかった。
1996年になると、日本の全面的な支援を受けてTVKが再建される。放送施設や機材・設備を日本が供与し、1998年に正式に番組放送が再開した。放送環境の向上により、1日の放送時間は4時間から14時間に延長され、衛星放送により126カ国のテレビ番組も見られるようになった。一方、1986年頃までカンボジアにはTVKのほかにベトナムの生番組を放送するテレビ局やフランスのテレビ局、地方のテレビ局など含めて合計15のテレビ局が存在していた。
長引いた内戦が終息すると、カンボジアの電気通信分野は次第に成長を見せ始めた。特に2012年頃からテレビ業界の競争が激しくなり、新たに民営のテレビ局が開設され、各局はこの競争の波に乗るべく新しい番組制作に力を注ぐようになっていく。政府は2023年までにアナログ放送からデジタル放送に移行することを決定し、カンボジアナショナルデジタルTVプラットフォームを管理する官民パートナーシップ(PPP)会社「Cambodia TV Alliance Co Ltd」を設立する契約が、大手テレビ会社3社(Bayon Media High System Group, Hang Meas Group, Cambodian Broadcasting Service Co Ltd (CBS))の間で2021年の8月に締結した。以来、カンボジアのテレビ業界はデジタル放送の競争が激化している。
▼デジタル化の中核を担う主な放送局
CBS(Cambodian Broadcasting Service)
カンボジア放送サービスCBS社は2003年の創設以来、カンボジアのテレビ業界において、いろいろな革新の取り組みをしてきた。ニュースとエンターテインメント、教育関係のコンテンツ制作に力を入れており、視聴者に感動を与えるというモットーを掲げている国内一流の民間テレビ放送である。報道によりカンボジア人の視聴者の生活を向上する目的で、CTNやMyTV、CNC、CBSスポーツ、CBSデジタルなどのテレビ放送及びデジタルのプラットフォームを利用し、現在は約1,500万人の視聴者数がおり、国民的に最も人気のあるテレビ会社である。
CBSは、ONE TV (デジタルTV)、EZECOM (ISP)、CELLCARD (携帯電話事業者) の親会社でもある The Royal Group によって運営されている。CBSのモットーは、娯楽、教育、インスピレーションを与えるトップクラスのテレビを提供することで、すべてのカンボジア人の生活を豊かにすることを目指している。
〇CTNのコンテンツ調達戦略
CBSは、2003 年に最初のチャンネルであるCambodian Television Network(CTN) を立ち上げた。カンボジアで最も人気のあるテレビ局で、視聴者の30%をカバーしている。特に若いカンボジア人(15~20歳)に人気がある。プノンペンから放送される無料の地上波テレビチャンネルで、有料サブスクリプションで衛星放送も視聴できる。
CTNは、カンボジアのRoyal Groupとスウェーデンに拠点を置くヨーロッパのデジタルエンターテイメント企業MTGとの合弁事業として最初に設立された。2004年には、CTN International として米国、オーストラリア、カナダで配信を開始。CTN の目標は、カンボジアの視聴者の70%にリーチすることであり、そのためにスウェーデン、米国、英国のさまざまなエンターテイメントおよび教育プログラム形式を導入したほか、国内制作のドキュメンタリーや、ドラマ、スポーツ、コンサートなどの人気番組も放送している。番組は娯楽に重点を置いているが、朝と夕方の時間帯は毎日カンボジアと国際ニュースに充てられている。
視聴者シェア 30%
カバー地域 全国
コンテンツタイプ 無料放送 (VHF)
親会社 Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.
〇若者向けコンテンツを多くそろえたMyTV 2008年1月、CTNの最初の姉妹会社としてカンボジア初の若者向けチャンネルであるMyTVが開局。地上波の無料テレビチャンネルで、有料のサブスクリプションで衛星放送も視聴できる。「携帯電話世代」(25 歳未満) をターゲットにしており、カンボジアの若者の間で最も人気のあるテレビチャンネルの1つである。Universal、Sony、EMI、その他の主要な地域の音楽レーベルとの戦略的パートナーシップを通じて、この国で初めて正規のミュージックビデオを導入した。2017年、MyTVの市場シェアは全国第2位となった。2021年以降は、人気司会者が出演するトークショー、バラエティ番組、スポーツ関連番組を導入しているほか、国内外のドラマなど、トップクラスのエンターテイメントを提供し続けている。最も人気のある番組は「like it or not」で、候補者のパフォーマンスがカンボジアのアーティストの審査員によって審査される。MyTVのファン層は、若者(13〜29歳)が60%、中年層(30〜45歳)が40%である。
視聴者シェア 16%
カバー地域 全国
コンテンツタイプ 無料放送 (VHF)
親会社 Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.
〇ニュース番組に注力したCNC
2012年、CBSはカンボジア国内外で起きている最新のニュースをクメールの家庭に届けることに特化した、カンボジア初の24時間年中無休の全国ニュースチャンネルCNCを立ち上げた。地上波の無料テレビ チャンネルで、有料のサブスクリプションで衛星放送も視聴できる。最も人気のある番組は夕方のゴールデンタイムのニュース。カンボジアのほとんどの州をカバーしている。
視聴者シェア 1%
カバー地域 全国
コンテンツタイプ 無料放送 (VHF)
親会社 Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.
2023年を目途にCBS社は放送や制作、マーケティング、配信能力を完全に変革するという目標を掲げてデジタル変革に着手し始めた。このような報道近代化の取り組みは、クラウド・サービスや最先端のAIツール、革新的なオンライン戦略を組み合わせたものであり、運用効率化及び革新的な開発、視聴者とのエンゲージメントを大幅に向上させた。その結果、2024年5月30日にシンガポールで開催された2024 Asia-Pacific Broadcasting + Awardsでデジタルのトランスフォーメーション賞を受賞。CBS社は、従来の放送から主要なコンテンツのプロデューサー、デジタルのプラットフォームへと移行したことで、わずか9か月で200~300万人の潜在視聴者数が1,500万人以上に拡大した。
Bayon TV
1998年に開局したBayon TVは、他のローカルネットワークと比較して、制作価値の高いオリジナル番組を多数制作している。現オーナーであるフン・セン元首相の長女フン・マナが母親から局を引き継いでから、資金を投入して近代化を図り、国内外のニュースや教育番組、コンサート、クメールボクシングなど番組の種類を拡大している。最も人気のある番組はコンサートとボクシングショーである。現在は、多くの若者層の支持を得ようとエンタメ番組の制作に注力している。現在、デジタル化放送の波に乗っ取ってスマホで見られるようにオンラインのコンテンツ制作に精力を注いでいる。BTV、ETVというテレビ局も同局を運営するBayon Media Hight System Co., Ltd.に属している。
Bayon TVのFacebookページのフォロワー数:2.6M
視聴者シェア 4%
カバー地域 全国
コンテンツタイプ 無料放送 (VHF)
親会社 Bayon Media Hight System Co., Ltd.
Hang Meas HDTV
Hang Meas Video Company Co., Ltd.は、1994 年にビデオおよびオーディオ制作会社として設立された。香港とシンガポールからドラマ独占配信権を取得し、さらに国内制作のドラマやカラオケビデオ、娯楽ビデオを配信。2009年5月には、親会社が独占的に制作した曲を特集するHang Meas FM(104.5MHz)ラジオ局を開設。その後、Reasmey Hang Meas FM (95.7MHz)が開設された。2012 年には、主にエンターテイメントに重点を置いたHang Meas HDTVを開設。その後、同社は拡大し、Hang Meas HDTVと同様のコンテンツを提供するReasmey Hang Meas HDTV を設立。娯楽番組に強いテレビ局として国内で最も注目され、高い評価を得ている。さらに、コンサートのイベントも開催し、エンタメ企業としてカンボジアのリーディングカンパニーとなっている。現在は携帯での視聴を確保するためにFacebookにより制作したコンテンツ配信の取り組みをしている。テレビ局とラジオ局に加えて、同社はニュースウェブサイト(hangmeasdaily.com)も開設した。ここでは最新のニュースが定期的に更新され、テレビとラジオの両方の番組を視聴できる。
同社は全体として、以下の会社を運営している
- Hang Meas HDTV および Reasmey Hang Meas HDTV
- Hang Meas FM および Reasmey Hang Meas FM
- Reasmey Hang Meas 映画制作
- Phleng Records
- WE Production (2015年に開始)
Hang Meas HDTVのFacebookページのフォロワー数:3.5M
Rasmey Hang Meas HDTVのFacebookページのフォロワー数:673K
Hang Meas HDTV
視聴者シェア 23%
カバー地域 全国
コンテンツタイプ 無料放送 (VHF)
親会社 Hang Meas Video Company Co., LTD
PNN
PNN の正式名称は「People National Network」。ホスピタリティ、農業、不動産、インフラ、エンターテインメント、メディア (2015 年開始) など、多くの分野に大規模な投資を行っているリー・ヨン・パットグループ(L.Y.P Group Co.,Ltd)による約4,000万ドルの投資で、10ヘクタールというカンボジアで最大の敷地を持つテレビ局として知られている。PNNは2015年7月に放送を開始し、ニュース番組や大衆娯楽番組、子ども向けの番組、特にドラマ制作に多額の投資を行っている。また香港やタイのドラマを放送するテレビ局としても注目されている。現在は、PNN PLUS APPの導入などスマートフォンで視聴者数の拡大の努力をしている。
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▼国営TVKの戦略~教育コンテンツ充実を図る動きなど
民間の放送局が活発な事業展開をする中、国営のテレビ局もその存在意義を示すためにさまざまな模索をしている。
フン・マネット内閣が掲げたカンボジア政府のデジタル化政策・2022~2035年と、国家戦略開発計画・2024年~2028年の実施をサポートするために、情報省は情報と視聴覚分野の発展を目的に戦略計画2024-2028を発表したが、デジタル化の導入・進めるに当たっては民間部門からの協力とパートナーが不可欠だという。
1966年に開設されたカンボジア初のテレビ局であるカンボジア国営テレビ(TVK)は、内戦時に全面的に破壊を受けたが1990年代より日本の全面的な支援を受けて再建された。国営テレビ(情報省管轄)という立ち位置から、国家戦略に基づいて番組作りをしている。新型コロナウイルス感染症が世界中に広まる中、カンボジアでも全国的に学校の閉鎖が相次ぎ、就学児童の学力低下が危惧された。2020年4月に教育・青少年・スポーツ省と情報省の協力により、TVKがいち早くeラーニングに特化した新テレビ局「TVK2(別名TVK Education)」を発足した。幼稚園から高校まで、すべてのレベルの生徒を対象に、主要科目の遠隔学習プログラムを24時間提供。TVK2のほかにも、学生は衛星DTV(チャンネル22)、情報省のアプリ、すべての州および市のケーブルテレビを通じて遠隔学習プログラムにアクセスできることとなった。
▼海外の放送番組に対するカンボジアの人の関心
カンボジア国民が海外の文化やコンテンツを受ける媒体は、YouTubeやSNSが一般的だ。テレビ放送ではタイや香港、中国などのドラマが昔から放送されているが、日本の最近のアニメなどの情報はテレビではなく上記媒体が主な情報入手手段である。日本のコンテンツでいえば、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」が10年ほど前に地上波で放送されたことで人気が高まったが、それ以来、若者を中心に日本アニメの人気は広がっている。2022年1月22日にはプノンペン都内のフレンズインターナショナルというストリートチルドレン救済のために創設された地元NGOのプロジェクトの一環として、プノンペン初のアニメフェスティバルが行われた。10代の若者の間で日本のアニメの人気が高まっていることを受け開催されたこのフェスティバルには、漫画やアニメ好きの若者、アニメグッズ販売店、創作漫画の作家などが参加した。
▼放送とインターネット活用の現状
2013年に入るとカンボジアではインターネットの利用者が急増し、その傾向はテレビ業界にも影響を及ぼしていく。2010年のインターネットユーザー数は32万人強だったが、2013年になると約270万人に膨れ上がった。2020年は1,600万人以上のカンボジア人がインターネットを使用し、そのうち約1,090万人がFacebookユーザーだという。他方、カンボジア政府のデジタル政策2022年~2035年(Digital Government Policy 2022-2035)の報告書によると、2021年には、カンボジアでのインターネットの利用者数は約 1,765 万人だった。携帯電話利用の登録者数が2,053万人おり、総人口の122.84%となったのに対し、携帯電話でインターネットを接続する利用者数は 1,735 万人おり、総人口の105.60%だった。そして、若者の約37%がデジタル化したメディアにアクセスして使用できる状態にある。また、通信部門からの国益に関しては、2020年度で約 1,100ミリオン米ドルで、国内の総生産の約4.2%を占めており、発展途上国の中で高かったと見られている。
カンボジアの通信会社のWiFiサービス料金が1週間15GBプランで1.5米ドルということもあり、国民のほとんどがスマートフォンでWiFiにアクセスし、特にFacebookを中心としたSNSのアカウントを持ち、様々な情報を得られるようになっている。このため、テレビ番組は主にボクシングやコンサート、サッカー中継などを見るためのもの、日々のニュースや最新情報はSNSで得る、といった傾向が強くなっている。
閉会にあたり
放送番組国際センター(JAMCO)としましても、2023年度にはタイに幼児教育番組を300本提供したり、カンボジアについては、教育番組やドキュメンタリー番組を提供するとともに、現地語化(クメール語)への助成も行ってきました。その国々がデジタル時代を迎え、大きな変貌を遂げようとしていることが今回のシンポジウムでよく分かりました。
放送局がコンテンツを制作し、それを電波を通して見てもらうという時代は終わり、東南アジアでも、視聴者は自分たちが見たいものを利便性の高いデバイスを見る時代に移行していることが、今回の報告から伝わってきました。
一方で、放送番組は、質が高く幼児から大人まで、誰もが安心して見られるコンテンツを供給しているという事実もあります。
JAMCOとしましては、これからも現地の情勢調査を行い、的確なニーズを把握しながら、開発途上国に無償で番組提供を行うという業務を進めて行きたいと考えております。
現地の情勢に詳しい研究者や識者の方々の論文を一人でも多くの方々に読んで頂き、開発途上国にどのような放送番組を提供していくのが良いのか、ご意見を頂ければと思います。
JAMCOとしましては、今回の知見を活かしがら、事業を進めて参りますので、今後ともご協力頂きますようお願い申し上げます。