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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第19回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2010年2月1日~2月28日

ドラマ映像の国際交流

地方局から見た「ドラマ」海外発信の意義

樋泉 実
北海道テレビ 専務取締役

 当社では1996年から毎年1本のドラマを自社制作にこだわって、作り続けています。キー局のように制作チャンスが数多くあるわけではありません。ドラマだけでなくドキュメンタリー・アニメ・観光番組とジャンルに関係なく、海外での放送機会の可能性を探り、海外フェスティバルには出品をし、人脈作り、パートナーづくりを続けています。
 しかしながら、何故北海道からの海外発信なのか。きっかけはこんな経験からです。

 90年代初め、香港の衛星TVに札幌で開催されていた音楽祭(PMF)の番組を販売したことがありました。当時はまさにアジアの衛星放送時代の黎明期、地上波だけだったアジア各国が多チャンネルに突入、アジア100チャンネルの時代でした。先方の衛星TV局とのやりとりから「アジアのコンパスが小さくなったこと」を実感。そのことから北海道の立ち位置も「日本の中の北海道」から「アジアの中の北海道」に変わる時代が来るとの予兆を感じました。北海道も中央集権・東京経由ではなく直接発信していく時代、情報発信の可能性を感じたわけです。
 95年頃からのデジタル衛星放送の登場がそれに拍車をかけ、アジア各国が100チャンネルの時代になっていきます。その後のインターネット・モバイルとデジタルメディアの登場はその垣根を更に低くしました。合わせて交通インフラ、24時間空港の整備、経済成長とアジア圏大交流時代が始まりました。
 以来20年近く、アジアのメディアの変化と付き合いながら、地域情報の海外発信を模索してきました。ドラマもそのひとつです。
 その数少ないドラマが近年、国際コンクールで受賞やら、最終ノミネート作品に選ばれることが多くなりました。最近の海外コンクールでの入賞実績を以下に紹介します。


スペシャルドラマ「そらぷち」
(英題 ”Sorapuchi” 2007年制作 46分・デジタルハイビジョン作品)


画像(スペシャルドラマ「そらぷち」)  難病と闘う子どもたちのために、医療設備があるキャンプ場を北海道滝川(たきかわ)市に作ろうという実在のプロジェクト「そらぷちキッズキャンプ」をモデルとした番組。さわやかな夏の北海道・滝川市を舞台に、小児がんを克服したという特別な境遇の少年のほのかな恋心~誰にでもある青春の1ページと、少年を優しく見守る大人や同じく難病と闘う仲間との心の交流を丁寧に織り交ぜながら、大人への一歩を踏み出す少年の成長を描く。

・2008年12月:第13回「アジア・テレビ賞」単発ドラマ/テレビ映画部門 優秀賞
・2008年5月:第48回「モンテカルロ・テレビ祭」テレビ映画部門 ノミネート


スペシャルドラマ「大麦畑でつかまえて」
(英題 “The Wind’s Song” 2006年9月制作、約46分・デジタルハイビジョン作品)


画像(スペシャルドラマ「大麦畑でつかまえて」) 北海道・上富良野町でホップ農家を営む矢木沢家。ビールの新商品のCM出演をきっかけに、若夫婦が離農を考えていたことが発覚。生き方の違いから口論になる父と息子、仲が良かったはずの嫁姑の葛藤も表面化するなど、平穏無事に暮らしていたはずの三世代一家にほころびが生まれる。家族は再びわかりあえるのか、伝統のビール農家がまた一つ消滅してしまうのか…。雄大な上富良野のロケーションを背景に、現代家族(農家)の抱える「後継問題」と「嫁姑問題」さらには「家族のつながり」をコミカルな芝居を通してハートフルに描く。

・2008年2月:2008年「ニューヨークフェスティバル」テレビ映画/ドラマスペシャル部門 ファイナリスト
・2009年10月~12月:香港「キャセイパシフィック航空」へ機内上映(インフライト上映)向けに販売中


スペシャルドラマ「歓喜の歌」
(英題 “Ode to Joy: A Chorus for Life” 2008年9月制作、約70分・デジタルハイビジョン作品)


画像(スペシャルドラマ「歓喜の歌」) 海と坂道の町・大樽(架空の町)。夕暮れ迫る南大樽会館の集会室から、「大樽レディースコーラス」のお母さんたちの歌声が響く。大樽市民会館で開かれる20周年の記念コンサートに向けて合唱の練習に余念がない。
 一方、その市民会館では、いいかげんな事務主任の手違いにより問題が発覚していた。市長による市政20周年記念報告会と、「大樽レディースコーラス」のコンサートが同じ日にダブルブッキングされていたのだ。今さら延期は出来ない市の行事と、もちろん延期などできないという頑強なお母さん軍団との間で板ばさみになる主任であったが、忙しい日常の中で、様々な事情を抱えながらも、コーラスに情熱を注ぐお母さんたちの姿に感化されていく。なんとかお母さんたちに歌わせたい…やがて主任は、とんでもない解決策を思いつく。

・2009年10月~12月:香港「キャセイパシフィック航空」へ機内上映(インフライト上映)向けに販売中


 ドラマだけでなく、ドキュメンタリーやアニメなども同様に出品、入賞などもしている。


 冒頭に述べたアジアと北海道の模索の中で下記のような取り組みもしてきました。

画像(「北海道アワー」) 1997年、住友商事が中核となってTBSなどと設立した「JET」(Japan Entertaimennt Television、現在本社は台北)に地方局として唯一参画しました。その目的は北海道の文化や自然、観光情報などを紹介する番組「北海道アワー」の放送でした。毎週1時間60分番組でした。JETの放送エリアは台湾を中心に香港・シンガポール・マレーシアなどです。10年以上経緯経過して、再放送など含めて約3000時間、シャワーのように、北海道の情報が伝えられました。北海道アワーのコンセプトは「アジアに雪を降らせる」でした。JETのタイムテーブルのほとんどはキー局のつくる「トレンディードラマ」「アニメ」「時代劇」です。ユニークな番組だったと思います。
 番組自体なかなか好評でした。99年東アジアメディアプロモーション北海道協議会(北海道や地元経済界で組織する産官団体)が実施した調査では、北海道アワーを台北市民の31%が知っていると答え、その内の69%は実際に番組を見ているとの回答でした。北海道アワーを見て北海道への関心は高まったかの質問には95%の人が高まったと回答しています。97年当時、台湾から北海道に来る観光客は年間5万人でした。放送を開始して2年で倍増、その後10年間で5倍強になりました。北海道の観光産業の規模も当時の1兆円が2兆円になりました。東アジアからの観光客に支えられた結果です。まさに情報発信・映像の力をまざまざと実感しました。この「北海道アワー」という番組は北海道の全ての市町村を紹介するのも目的のひとつでした。観光資源がある街ばかりではありません。商店街や公共の湯も紹介することになります。北海道の普段の生活風景や生活文化が紹介されることになりました。結果、台湾のリピーター観光客はそんな町に突然訪れて来ました。興味の持ち方は国によって違います。まさに文化の違いです。発信してみないとわからないことです。
 この経験に学んだことは「多様性」「地域性」「生活文化」へのニーズと「発信」することの重要性です。当社のドラマの海外発信もこの文脈の中です。

図表(台湾からの来道者数)

 衛星放送からインターネット・IPTV・モバイルと利用者の接触する媒体はこの10年間で大きく進化しました。日本と海外との距離も更に短くなりました。映像発信からみたグローバル化は「多様性」「地域性」のニーズの顕在化ではないかと思います。日本発の情報もその文脈のなかで議論・実践すべき時代だと思っています。我々の試みからもその変化は読み取れると実感しています。
 その意味でも「JAMCO」の存在意義・役割は今後ますます高まるのではないでしょうか。時代が追いついてきた感があります。我々地方局も「JAMCO」に強く期待しています。

樋泉 実

北海道テレビ 専務取締役

1949年、山梨県生まれ。慶応大学文学部中国文学科卒。 1972年北海道テレビ入社。2002年取締役、2008年より現職。 97年東アジアに向けて情報発信「北海道アワー」、98年地域データ放送などデジタル時代の地域メディアの先駆的な取り組みを続けている。

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