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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第18回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2009年1月16日~2月28日

アジア諸国の公共放送

[報告(1)] 日本の公共放送

村瀬 眞文
立教大学社会学部メディア社会学科 教授

1. はじめに

日本のラジオ放送は、1925年、東京、大阪、名古屋で始まった。放送は、営利ではなく、公益性が強い社団法人が運営し、財源は聴取者が支払う聴取料があてられた。
放送開始当時、新聞や出版は、政府の検閲下に置かれていた。放送の事業運営も逓信省の統制下に置かれた。放送は、その後、戦争遂行に深く関わった。1
太平洋戦争敗戦の翌年1946年11月に定められた「日本国憲法」は、「言論、出版その他一切の表現の自由」を保障し、「検閲は、これをしてはならない」と定めた(第21条)。
放送も、この憲法精神の下、「放送法」の制定に向けた作業がはじまり、同法は、1950年6月に施行された。
「放送法」は、その後、多くの改正がなされたが、1950年に定められた基本精神は、いまも受け継がれている。
「放送法」の特徴は、特殊法人の公共放送として日本放送協会(NHK)を設置したこと、公共放送と商業放送(民間放送)の二元体制の基礎を築いたこと、そして何よりも重要な点として、放送を民主主義理念の下に位置づけたことにある。

2.公共放送の制度

公共放送NHK
「放送法」は、従来の社団法人・日本放送協会に代わり、特殊法人・日本放送協会(NHK)を設置した。
NHKの目的は、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送」を行うことである(第7条)。
NHKは、放送法に基づく特殊法人であり、民法や商法に基づく法人や会社ではない2。また、国などが出資する公団や公社の形態でもなく、それまでの社団法人・日本放送協会が視聴者から収納した受信料の蓄積で成る純資産を引き継ぐ形で、国民の信託を受けて業務を行うべき立場と位置づけられた3。
公共放送を採用した理由は、「放送事業を民間だけに委ねたら、収益の多い都市地に集中し山村僻地が顧みられなくなるおそれがある。都会地は報道、教育、娯楽に恵まれ、農山漁村は健全な文化機関に乏しい。したがって放送が国民に最大限普及し、国民の要望を満たし、文化水準の向上に寄与するには、全国あまねく受信できるよう放送する公共的事業体を設ける必要がある」と説明されている4。

二元体制と受信料財源
「放送法」は、NHKと民間放送(商業放送)が並存する二元体制の道を開いた。政府は、法案提出にあたって、「国民的な公共的な放送企業と、個人の創意とくふうとにより自由闊達に放送文化を建設高揚する自由な事業としての文化放送企業体、いわゆる一般放送局または民間放送局の二本建てとし、おのおのその長所を発揮するとともに、互いに他を啓発し、おのおのその欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受できるようにはかっている」と説明した5。
民放のラジオ放送は1951年に始まった。53年にはNHKと民放によりテレビ放送が始まった。NHKは、84年から放送衛星による試験放送を始め、89年6月、2チャンネルによる本放送に移行した。
NHKは全国基盤とし、民放は、(衛星事業者を除き)、地域基盤である。民放は、株式会社の形態をとり、無線による放送のための無線局の免許は必要だが、事業免許はない。地上放送は、現在も、放送事業者自身が無線局の免許を持たなければならない(いわゆる「ハード・ソフト一致」)。
「放送法」は、NHKと民放を財源面で区別している。NHKについては、「協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とし、「契約した者から徴収する受信料」を財源とし(第32条)、「他人の営業に関する広告」を禁止している(第46条)。
民放は、有料放送を財源とする衛星放送事業者を除き、広告収入を主たる財源としている。「税金でもなく、広告収入でもなく、受信料で支えられた」ことが公共放送を特色づけている6。

放送法の基本理念と番組準則
「放送法」は、その目的として、NHKか民放かを問わず、放送が「公共の福祉」(公共の利益)に適合し、健全な発展を図ることをあげている。
この目的の実現のための基本原則(番組準則)として、次の3点が明記されている―①放送が国民に最大限に普及され、その効用をもたらすこと(普遍性)。②放送の不偏不党、真実及び自律の保障によって、放送による表現の自由を確保すること(独立・自律による表現の自由への奉仕)。③放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義社会の発達に資するようにすること(民主主義社会に対する責任)である(第1条)。
また、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」(放送番組編集の自由)と定めている(第3条)。
国内放送番組の編集には、次の原則がある―①公安及び善良な風俗を害しない、②政治的に公平である(公平性)、③報道は事実をまげない(事実報道)、④意見が対立する問題は、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする(多角的解明)、⑤テレビ放送は、特別な事業計画によるものを除き、教育・教養・報道・娯楽の各種目間の調和を保つ(調和編成・総合性)。(第3条の二)、⑥暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送を行う(自然災害から生命・財産を守ることに寄与)(第6条の二)。
とくにNHKに関しては、放送法は、「放送番組の編集に関する特例」として、上記の準則に加えて、「豊かで、かつ、良い放送番組によって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払う」、「全国向けの放送番組のほか、地方向けの放送番組を有するようにする」、「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること」(第44条)を求めている。
上記の原則を社会・受け手の観点からみるならば、NHKか民放かを問わず、放送は、政府・政党や特定の企業からの独立、放送区域内ではどこでも受信できる、ニュースその他の番組は真実・事実であること、多様な意見の反映、編成は特定のジャンルに偏らない(民放は地上テレビのみ)、災害情報を知る手段となることが期待されている。
NHKには、さらに、多様な番組、質的水準の追求、文化的役割を義務付けられている。
放送は、NHKであるか民放かを問わず、これらの機能を主体的に果たすことが期待されており、このことを前提として、受け手は、社会を知り・判断し、表現の自由を行使することが可能になる。この結果、健全な民主主義社会の発展や生活や文化の向上が期待できるという考え方である。
番組準則は、表現の自由に関係することから、放送事業者が自主的に守るべき指針、倫理規範的なものであり、無線局の免許の取り消しを含め、法的拘束力を伴うものではないと一般的に解釈されてきた。
しかし、政治的公平や真実報道に関して、批判を受けるようになった7。2007年には、民放の番組に実験データを改竄したものが含まれていたことが明らかになり、総務省は「放送の公共性と言論報道機関としての社会的責任にかんがみ、誠に遺憾」、再発防止の取り組みが「十分でなく、放送法違反の状態を再度生じることとなった場合には、法令に基づき厳正に対処する」と述べた8。 番組準則は、放送界全体に関係するものであり、すべての放送事業者の自覚と責任感が求められている。

3.放送メディアの現況

民放の社数は、2008年3月末時点で、地上放送では、テレビ単営93、ラジオ単営285、テレビ・ラジオ兼営34、文字放送専門2の計414社。衛星放送では、放送衛星利用の事業者が11、通信衛星利用の事業者が115ある。ケーブルテレビを利用して自主放送を行う事業者が503、通信回線を利用する放送事業者(有線役務利用放送)が19(IPマルチキャスト放送4を含む)ある9。
収入規模は、平成18年度末(2007年3月末)の時点で、地上放送事業者2兆6,157億円、衛星放送事業者3,525億円、ケーブル事業者4,050億円、NHK6,756億円の計4兆488億円である10。
4. NHKの組織・運営・サービス

経営委員会・監査委員会・理事会
NHKの経営は、その公共的性格から、国民に基盤を置き、民主的に運営される必要がある。このため、民間の有能な知識、経験を有する者で構成される合議制の議決機関・経営委員会が置かれている11。
経営委員は、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」、「その選任は、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない」(第16条)。国家公務員、政党役員、受信機製造・販売業者、放送事業者や新聞・通信社の役職員や1/10以上の議決権を持つ者は、経営委員になる資格がない(第16条3)。
経営委員会は12名の委員で組織され、委員の互選で委員長を選出する。任期は3年。
議決事項には、NHK経営の基本方針、NHKの業務の適正の確保のための体制整備、収支予算・事業計画・資金計画、放送局の設置計画・開設・休止・廃止、番組基準・放送番組編集の基本計画が含まれる(第14条)。経営委員は、個別の放送番組の編集その他の協会業務の執行はできない(第16条の二)。
経営委員会は、受信契約をしなければならない者の意見の聴取(第14条3)、議事録公表義務がある(第23条の二)。
経営委員は、放送法成立以来、非常勤だったが、NHKのガバナンス強化を目的の一つとする2008年の法改正で、それまでの監事制度を廃止し、経営委員の3名以上を監査委員とし、1名以上は常勤でなければならないとした(第23条の三)。また、監査は、外部の会計監査人による監査(第四十条の二)、会計検査院の検査(第四十一条)を受けなければならない。
コンプライアンス委員会が、経営委員会の監視・監督機能の強化、NHKにおけるコンプライアンスの徹底を図るため、経営委員会の諮問機関として設置されている。
NHKの重要業務の執行の審議機関として、理事会がある。理事会は、会長、副会長(1名)、7名以上10名以内の理事で構成される(第25条)。会長は経営委員会が任命し、副会長と理事は、経営委員会の同意を得て、会長が任命する(第27条)。会長と副会長の任期は3年、理事の任期は2年(第28条)。
理事会の下で、番組制作や報道を担当する放送総局、視聴者総局、技術局などがある

財政
NHK予算は、毎年、総務大臣に提出され、大臣は意見を付して国会に提出し、国会の承認を得なければならない。
平成19年度(2007年4月-2008年3月)の決算額は、事業収入6,557億円、事業支出6,182億円、事業収支差金は財政安定のための繰越金として積み立てられる。事業収入の約96%の6,312億円が受信料収入である12。
受信料は、NHKが放送の全国普及、豊かで良い放送番組の放送など、公共放送としての使命を果たすために必要な財源を広く国民視聴者から徴収するため、視聴の有無にかかわらず、NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者に負担を求めるもので、法的には、「国家機関ではない独特の法人として設けられたNHKに徴収権が認められたところの、その維持運営のための『受信料』という名の特殊な負担金」と解釈されている13。
受信料月額は、地上テレビのみの場合1,345円、衛星契約2,290円。

放送サービス
国内向け放送は、ラジオ3系統(中波2系統、FM1系統)、地上テレビ2系統(総合と教育)、衛星放送3系統(BS1、BS2、BShi) 地上テレビは、2003年12月からデジタルでも送信しており、2006年4月には携帯端末向けサービス(ワンセグ)も始まった。衛星放送(BS1,BS2)は、2000年からデジタルでも送信している。BShiはデジタルの衛星放送のみのチャンネルである。
「放送法」は、テレビ放送に関して、番組種目間の調和を保たなければならないと規定している(第3条の2)。NHKの2007年度の番組種目別放送時間数の比率(東京)をみると、総合テレビ(アナログ)は、報道48.9%、教育10.3%、教養23.8%、娯楽17.0%、教育テレビでは、教育80.1%、教養16.1%、報道3.8%、娯楽0%である14。
番組制作は、NHK局内の独自制作のほか、質の高い番組の安定的確保、外部専門能力の効率的活用のため、NHKの関連団体であるNHKエンタープライズなどへの制作委託、外部のプロダクションへの直接制作委託も行っている。このほか、海外から番組の購入、国際共同制作を進めている。
国際放送は、テレビ国際放送として「NHKワールドTV」、「NHKワールド・プレミアム」、ラジオでは「NHKワールド・ラジオ日本」(短波および衛星)のほか、インターネットによるニュース提供も行っている。
外国人向け映像国際放送の強化という政府方針を受けて15、2008年の放送法改正により、全世界に向けて英語でテレビ国際放送を行う子会社「株式会社日本国際放送」が2008年4月4日に設立された。同社は、NHKから業務委託を受けテレビ国際放送の番組制作を行うほか、世界各地で受信できるよう受信環境の整備、民間企業の協力を得て独自の番組を制作・放送する16。
放送を補完するため、インターネットを利用した情報提供が行われている。NHKのインターネット利用は、総務省の「日本放送協会のインターネット利用に関するガイドライン」を踏まえて、毎年、「放送番組補完インターネット利用計画」を策定し、全国・地域のニュース・気象情報、学校放送番組などの二次利用などに利用されている。
2008年の放送法改正により、放送済みの番組を通信回線を使って利用者のパソコンまたはテレビに直接に提供する「NHKオンデマンド」が、2008年12月に開始する。「NHKオンデマンド」は、「見逃し番組」サービスと「特選ライブラリー」サービスがあり、利用者は受信料とは別に料金を支払い、NHKも受信料会計とは別の会計で運営する。

5. NHKと視聴者

NHKが2008年6月に行った全国個人視聴率調査の結果によると、テレビ視聴時間は、週平均・1日あたり、3時間45分。うちNHKが59分、民放が2時間46分だった17。
   NHKは、2006年度から、放送や経営に関する事業運営の評価項目(約束)を公表し、視聴者の観点から評価する独立した委員会(約束評価委員会)を設けてきた。2007年度の「約束」の項目には、「信頼される質の高い放送を通じて、社会や文化の発展に尽くす」があり、個別項目として「様々な年齢層の期待に応える番組の充実」が含まれている。
2008年5月に公表された「平成19年度NHK”約束”評価報告書」は、「NHKの放送は、幅広い世代に視聴してもらえる番組編成・番組開発を旨としているが、実際の視聴は60代以上の層に集中している。NHKにとって中長期的な課題として視聴者層の拡大が重要」、「NHKのテレビ番組の視聴者層拡大における最大の課題は、引き続き男性20代・30代、男女40代にあると言える」と指摘した。女性20代・30代の満足度は前年度に比べれば上昇傾向がみられたが、男性20代・30代と同様、視聴者拡大が必要な年齢層である18。
経営委員会も、若者のNHK視聴を拡大する施策として、ワンセグ独自放送等による視聴機会増加の施策、子どもの頃から親しみを感じ、成長後も継続する施策、ニーズ把握のマーケティングやPR方法の検討を求めている19。
NHKの運営に対する視聴者意向の反映は、「放送法」に定められている国会における収支予算の審議、経営委員会による意見聴取、約束評価、番組審議会、視聴率調査や放送評価調査など公衆の要望を知るための世論調査のほかに、モニター、投書・電話、ふれあいミーティングの開催、営業活動、公開番組など、多くの回路が設けられている。「視聴者サービス報告書2008」によると、19年度に全国で寄せられた意見・問い合わせは664万1,414件。問い合わせが69%、意見・要望が26%、内容的には受信料関係48%、放送関係39%。受付方法では、電話70%、インターネット15%、だった20。

6. NHKの課題

NHKが直面している課題には、NHKと民放を含めて放送界全体が当面している課題とNHK固有の課題とに分けることができる。
前者には、地上テレビ放送のデジタル化や放送・通信の連携・融合に対応する法制作りへの対応が含まれる。また、後者には、NHKの衛星放送チャンネルの再編、受信料体系の検討、視聴者の理解の強化が含まれる。

地上テレビ放送のデジタル化
地上テレビ放送の送信のデジタル化は、2003年12月に始まり、2011年7月24日にアナログ放送を終了し、完全にデジタル化する。
デジタル化によって、高画質・高音質放送(HDTV)、データ放送、ワンセグ放送、双方向番組、電子番組ガイド(EPG)、マルチ編成(HDTV1チャンネルで2-3の標準画質番組を提供)、字幕放送の充実や話速変換などが可能になる。
送信面では、中継局の建設が進み、2008年3月末の時点で、約4,360万世帯(全世帯の約93%)で視聴できる状態になった21。
内閣府の消費動向調査によると、カラーテレビは、2008年3月末の時点で、99.7%の世帯に普及し22、2004年10月末の段階で、すでに1,000世帯あたり2,140台(1世帯に2.4台)が普及している23。
デジタル放送に対応する受信機台数は、2008年6月末の時点で、BS用が約3,804万台、地上放送用が約3,583万台である24。
総務省は、デジタル全面移行のための課題として、国民の理解の獲得(必要な情報の提供、悪徳商法対策、相談体制の拡充・強化)、受信機普及(簡易チューナーの開発・流通、使いやすい機器の普及促進、生活保護需給世帯への機器購入支援、高齢者・障害者への働きかけ・支援)、共聴施設の整備、中継局の整備、混信対策、ケーブルテレビや電気通信回線を利用した再送信、最大35万世帯と推定されるデジタル難視聴世帯のうち物理的・費用的に対策が困難な世帯に対する放送衛星の利用をあげている25。
2011年の地上テレビのデジタル化に伴って空く周波数帯を利用して、「携帯端末向けマルチメディア放送」の開始が検討中である。「マルチメディア放送」の形態として、映像・音響・データ、ストリーム型(リアルタイム型)とファイル型、全国・地方ブロック・コミュニティ向けサービスが考えられている。普及・発展のためには、魅力あるコンテンツの確保や置局を含む技術的対応が重要であり、この点に関連して、総務省の研究会は、「NHKが持つコンテンツや技術面等のノウハウを活用することが考えられる」、具体的には、地域ブロック放送では、コンテンツ流通促進、災害情報の確保、技術面の観点からNHKが関わること、全国向け放送では、外国人向けの良質なコンテンツの供給源となることが考えられるとしている26。

「放送法」に代わる法制への対応
政府は、通信と放送の融合・連携に対応した制度の在り方の検討を進めており、2010年の通常国会に法案提出を目指している27。
この目的は、「放送法」を含め、現在、放送、ケーブルテレビ、電気通信など、メディアごとの縦割りで9本ある放送・通信関係法制を「情報通信法」(仮称)に統合し、利用するメディアにとらわれず「技術中立」の立場で、横割り型で、コンテンツや伝送インフラなどの規律を設けることにある。
これまでの論議では、従来の「放送」は「メディア・サービス」の名称で分類されており、新たな法のなかで、「放送法」の目的である表現の自由の確保や番組準則など、民放も含めて、番組関係の規律をどのような形で継承・維持・発展するか、また、放送と通信の連携・融合の中でNHKの業務をいかに位置づけるかが課題となっている28。

NHK衛星放送チャンネルの再編
NHK固有の課題には、衛星放送チャンネルの再編がある。NHKのデジタル衛星放送は、BS1,BS2,BShiの3チャンネルで行っている。BS1とBS2は、アナログ衛星放送のサイマル放送と位置づけられ、デジタル技術の特性を生かしたハイビジョンなどの放送を実施する観点から独立したチャンネルとしてBS-hiが設けられてきた。NHKの衛星放送は、2011年のアナログ放送終了の時点で、「主たる放送の番組数が2番組を超えないことを前提に」見直すことになっていた。また、「NHKの8チャンネルは、電波の希少性、個々のチャンネルの役割等を勘案した場合、公共放送として放送するには、明らかに多すぎると考えられる」と指摘されている29。政府は、「NHKの保有チャンネル(8波)の削減に関して、難視聴解消のためのチャンネル以外の衛星放送を対象に、削減後のチャンネルがこれまで以上に有効活用されるよう、十分詰めた検討を行う」とする指針を示した30。
この問題を検討した総務省の研究会は、2008年6月3日、NHKがハイビジョン放送を2チャンネルで行うこと自体は、現時点では、ただちに合理性を欠くものではない。しかし、①2チャンネルは無条件に認められるものではなく、国民視聴者全体の利益になることをNHKが説得力のある形で説明する必要がある、②衛星付加受信料体系は、料額に相当する利益を享受しているかを検証する、④衛星放送による公共放送の役割・責務を果たす、⑤公共放送による衛星放送の位置づけ、役割を考慮する、⑥公共放送の役割・責務が不十分、あるいは他の手段で、より効率的に果たすことが可能になった場合には、保有チャンネルの見直す必要があると指摘した。さらに、NHKに対しては、チャンネル再編成を具体化するように求めた31。

受信料の公平負担
NHKの主たる財源の受信料は、法的には、税金でも対価でもない、「特殊な負担金」と解釈されてきた。しかし、情報やサービスに対する対価意識の増加、視聴しているにもかかわらず視聴を否定する「フリーライディング」、三波(地上波、BS波、CS波)共用受信機の所有者が衛星波の共同受信施設がある住環境への転居により衛星契約が求められる、転居先調査や訪問集金のコストがかかるなど、解決しなければならない課題も増えた。とくに、2004年の番組制作費不正支出問題など契機に支払い拒否や保留が増え、「3割の世帯が受信料を支払っていない」ことが明らかになった32。受信契約状況をみると、2007年3月末の時点で、契約対象総件数4,704万件(世帯と事業所を含む)のうち、支払件数3,320万件(70.6%)、未収(支払拒否・保留件数を含む)298万件(6.3%)、未契約件数1,086万件(23.1%)で、とくに2004年以降は未収が増えた33。2008年3月末の時点では、支払率の改善による増収がみられたが、2003年のピークの時点の回復に至っていない。
NHKは、2006年10月、民事手続による支払督促を開始した。また、2008年6月には、受信契約締結拒否者に対する民事手続きを開始した。
総務省の研究会は、受信料の公平負担に向けて、「受信料体系の不断の見直し」、「衛星受信料体系の在り方についての不断の見直し」を求めている34。  

公共放送の将来
「放送法」は、受信料を財源とする公共放送NHKの設置と業務内容を定め、また、放送を表現の自由の保障の観点から位置づけてきた。 「放送法」が成立した当時、放送はラジオのみだった。その後、テレビの登場、ケーブルテレビや衛星放送の実用化、電気通信回線を利用した放送(電気通信役務利用放送、IPマルチキャスト)など、多彩な伝達手段を使って、多くの事業者が、多様なサービスを提供してきた。アナログ放送終了の2011年以降には、地上のマルチメディア放送の開始やBSデジタル放送チャンネルの追加など、放送の多様化や多チャンネル化、チャンネル間やメディア間の競争がいっそう進展することが見込まれる。
「放送法」は、放送の定義として、「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」とし(第2条一)、公共放送NHKを設け、放送に関する多くの規律を定めてきた。この「放送法」が、放送に隣接するメディアを横断する「横割り型」の法制に組み換えられることが検討されている。このなかで、「放送法」に定められてきた放送の表現の自由に対する奉仕、番組準則や公共放送事業者NHKの組織・業務のあり方を再確認する必要がある。
NHKは、とくに2004年以降、番組制作費不正支出問題、政治との距離に関する疑念、インサイダー取引など、視聴者の信頼を損なう出来事に直面し、受信料の公平負担、視聴者の信頼回復、視聴者層の拡大など、視聴者とのかかわりに関して、多くの課題を抱えている。 新たな法制作りの論議において、公共放送として将来を見据えた的確な対応はもとより、チャンネル間やメディア間の競争のいっそうの進展のなかで、公共放送の存在意義や社会的役割について、視聴者の理解と支持を得ることが求められている。



  • 1. NHK編 「20世紀放送史」日本放送出版協会、2001年3月25日

  • 2. 荘宏、松田英一、村井修一「電波法、放送法、電波監理委員会設置法詳解」日信出版、昭和25年7月20日、p.288

  • 3. 片岡俊夫「新・放送概論」NHK出版、2001年12月10日、p.75

  • 4. 前出「電波法、放送法、電波監理委員会設置法詳解」,p.287

  • 5. 第7回国会衆議院電気通信委員会会議録第1号、昭和25年1月24日、p.20

  • 6. NHK「NHKの新生とデジタル時代の公共性の追求 平成18年度~20年度 NHK経営計画」平成18年1月、p.2

  • 7. 清水直樹「放送番組の規制の在り方」『調査と情報』、第597号、国立国会図書館、2007年10月25日

  • 8. 総務省「番組問題への対応」、平成19年3月30日

  • 9. 総務省編「情報通信白書 平成20年版」ぎょうせい、平成20年7月15日、p.151

  • 10. 同上、p.148

  • 11. 金澤薫「放送法逐条解説」 電気通信振興会、平成18年4月1日、p.111

  • 13. 総務省「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会最終報告書」、平成20年7月4日、p.5

  • 14. NHK「日本放送協会平成19年度業務報告書」、 p.78

  • 15. 外務省海外交流審議会「日本の発信力強化のための5つの提言」平成19年6月20日、 総務省情報通信審議会「『外国人向け映像による国際放送』の在り方とその推進方策」平成19年8月2日、外務省海外交流審議会答申「我が国の発信力強化のための施策と体制~『日本』の理解者とファンを増やすために」平成20年2月

  • 16. 日本放送協会第1066回経営委員会議事録、 平成20年4月8日

  • 17. NHK放送文化研究所 「平成20年6月全国個人視聴率調査の結果」

  • 18. NHK「平成19年度NHK”約束”評価報告書」、平成20年5月27日、p.13-14,p.25

  • 19. NHK経営委員会「中長期計画に資する重要検討事項のまとめ」、平成20年3月11日

  • 20. NHK 「視聴者サービス報告書2008」、 p.53

  • 21. 前出「情報通信白書 平成20年版」、p.191

  • 22. 内閣府、主要耐久消費財等の普及率(一般世帯)(平成20年3月末現在)

  • 23. 総務省統計局, 全国消費実態調査、 平成16年

  • 24. NHK「デジタル放送ニュース」、2008年7月3日

  • 25. 総務省「地上デジタル放送推進総合対策」平成20年7月24日

  • 26. 総務省「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会報告書」、2008年7月15日,p.30

  • 27. 「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」平成18年6月20日、「通信・放送分野の改革に関する工程プログラムについて」平成18年9月1日、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」平成18年7月7日

  • 28. 総務省「通信・放送の総合的法体系に関する研究会報告書」平成19年12月6日、総務省「通信・放送の総合的法体系について(中間論点整理)」平成20年6月13日

  • 29. 総務省「通信・放送の在り方に関する懇談会報告書」、2006年6月6日、p.9

  • 30. 前出「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」および「通信・放送分野の改革に関する工程プログラムについて」

  • 31. 総務省「NHKの衛星放送の保有チャンネル数の在り方に関する研究会最終報告書」、平成20年年6月3日

  • 32. デジタル時代のNHK懇談会、「公共放送NHKに何を望むか―再生と次代への展望」、平成18年6月19日、pp.7-9

  • 33. 総務省「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会 第一次報告書」、平成19年11月14日、p.3

  • 34. 総務省「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会最終報告書」、平成20年7月4日、p.31

村瀬 眞文

立教大学社会学部メディア社会学科 教授

1969年学習院大学法学部政治学科卒業。 1971年明治大学大学院法学研究科修士課程終了(法学修士)。 同年NHK放送文化研究所に勤務。同研究所主任研究員を経て2006年から現職。 [専攻] 放送論、コミュニケーション政策論。 [著作] 藤竹暁編「図説日本のマスメディア」日本放送出版協会(共同執筆)など。

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