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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第25回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2016年12月~2017年6月

主要国のテレビ国際展開の現状と課題

閉会にあたって

迫水 理男
一般財団法人放送番組国際交流センター専務理事

JAMCOオンラインシンポジウムの第25回は「主要国のテレビ国際展開の現状と課題」と題するもので、政治情勢や経済状況が異なる国々が海外に向けて映像の発信をどう位置付けているか、海外との映像による交流の現状がどうなっているか、その課題は何か、当事者たちを中心に情報性の高い論考が展開されている。

議論の中でイギリスやトルコなど各国の当事者が国際展開の基本理念、歴史、戦略などの基本的な情報に加え、抱える課題などについても率直な議論を展開した。

テレビ文化の歴史と発展を国際発信・展開という視点で見てみたい。

まず、日本を見てみよう。戦後の高度経済成長の中でテレビの発達が日本人の生活に少なからず影響を与えた。日本の家庭にテレビが普及していくと同じくして入ってきたのは海外の映像ソフト、特にアメリカ・ハリウッド製のテレビ番組であった。これにより、アメリカ人の電化製品に囲まれた生活、食事、ファッション、車社会の現実を見て、多くの日本の人々は自分たちの未来が豊かさと希望に満ちたものにと夢みたのである。いわばアメリカの優れた「ソフトパワー」の見本がそこにあった。

テレビの歴史の中で国際展開が進んだ背景には海外との衛星中継の発達があると思われる。1963年11月、記念すべき最初の日米の衛星中継のニュースが衝撃的なケネディ大統領暗殺の一報であった事は良く知られている。これは映像が世界を駆け巡る象徴的な出来事であった。更にアポロ11号の月からの生中継など世界はアメリカからの映像の洗礼を絶えまなく受けた。その後、ベトナム戦争など新たな矛盾があるなかでもまだ我々は未来に対して楽観的で、1970年の大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」のような基本的にはポジティヴな未来のイメージにつながったのである。

1980年代以降、海外発信の価値を人々が認識し、衛星など技術の進歩も相まって、映像が国境を越え、映像の持つ力が時代を動かすようになった。天安門事件、ベルリンの壁崩壊など第二次世界大戦後の世界の枠組みを大きく変える歴史的事件が世界に発信され、それが更に歴史の変動に結びついていった。

今日、国際発信はニュースや文化だけでなく各国の主張や存在をアピールする場として重要になっている。欧米だけでなく中国、韓国、トルコなどもドラマやエンターテインメントを積極的に発信し、自分たちの主張や文化、伝統、生活様式を番組を通して海外に発信し、同時に番組販売等を通じて外貨も稼ごうという経済合理性に基づいた行動をとっている。それだけではない。今や個人もSNSやYouTubeなどを使って自由に世界に向けて発信する時代だ。いわば世界中が「発信」というキーワードで捉えられる時代といえる。

いま世界はテロや戦争などに加えて地球温暖化の脅威などこれまで人類が経験したことのない様々な危機に見舞われている。そうした中で今改めて各国の放送による国際展開や国際発信の果たす役割は何かを考えると、単に自分たちの主張や利益のためだけではなく究極的には異文化理解や国際交流を促進し、人類の平和と和解に役立つ存在であるべきだと考える。今後も引き続き、テレビの国際展開についての議論を続けることを期待したい。

最後にこのシンポジウムを閉会するに当たり、シンポジウムで中心となって構成や折衝に当たっていただいたNHK放送文化研究所の田中孝宜氏、山田賢一氏をはじめ、ご参加いただいた報告者、討議者、当サイトをご覧いただいた皆様に篤く御礼申し上げます。

迫水 理男

一般財団法人放送番組国際交流センター専務理事

東京外国語大学スペイン語学科卒業 NHK国際放送局編成部長、NHKインターナショナル理事を経て現職

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