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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第26回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2017年12月~ 2018年6月

テレビのインターネットへの取組み―各国の事情と課題―

趣旨説明 ~変わる「テレビを見る」行為に対応迫られるテレビ局~

田中 孝宜
NHK放送文化研究所 副部長

 「一日にどのくらいテレビを見ていますか?」
 ごく普通のこの質問の意味があいまいになってきている。これまで「テレビを見る」という場合、家の中の居間などに設置されたテレビ受像機で、放送局が制作した番組を視聴することであると当たり前のようにとらえられた。しかし今は「テレビを見る」と言っても、外出先でタブレットを使ってオンデマンドで見る場合もあるだろう。逆にリビングのネット接続テレビで、YouTubeコンテンツを見る人もいるだろう。これらも「テレビを見る」と考える人が増えていると、テレビ視聴調査の担当者から聞いた。

 メディア環境が変わり、視聴者の「テレビを見る」という行為の定義がぼやける中で、テレビ局はどう対応してきたのだろうか。欧米の主要な公共放送局は、10年ほど前から放送番組のネット配信を行っている。放送番組のライブ視聴と見逃した番組のオンデマンド視聴ができるのが一般的で、利用者にもかなり浸透している。欧米の放送局がインターネットを使って積極的にコンテンツ展開を図れるのは、早くからインターネット時代の到来を想定し、そのための制度を整備してきたからである。1990年代の後半から2000年代にかけて、放送局がインターネットに展開するための法整備を進め、さらにテレビ受信機の設置を基準としてきた公共放送の受信料制度の改正にも取り組んできている。

 放送と通信が融合した欧米では、テレビ局以外にもさまざまなコンテンツ制作者によるマルチプラットフォームでの競争が激化している。かつて放送は限られた電波を扱う特別な存在であったが、マルチプラットフォーム上では、放送局のコンテンツも、そのほかのコンテンツも同じ土俵にある。放送局では、ネット時代に対応した制度面での改正に加えて、ネットサービスの高度化にも取り組んでいる。溢れるコンテンツに埋もれることなく、放送メディアはどう存在感を示していけるのか、また公共放送にとってはネット上でどう“公共性”を発揮できるのかも課題となっている。

 メディア環境の変化に対応を迫られているのは日本も同様である。放送とネットの同時送信、見逃し番組のオンデマンド視聴、ネット視聴に対する受信料のあり方など、海外の事例は日本にとって参考になるものと思われる。今回のJAMCOオンラインシンポジウムでは、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカの4か国について報告する。

 イギリスは、公共放送BBCと商業放送との二元体制を取っている。BBCは1997年に既存のホームページをBBC ONLINEに統一し、インターネットでの本格的なサービスを始めた。2007年ほぼすべてのBBCのテレビ・ラジオ番組をネット経由で視聴できるBBC iPlayerを始めた。BBCはメディア環境の変化を読み、時代の一歩先を見据えて取り組もうとしている。BBCを始めイギリスについては私自身が報告する。

 フランスでは、1993年にFrance3が世界の公共放送では最も早くインターネットでニュース映像の無料配信を始めた。また2005年には、フランステレビジョングループのVODサービスが始まった。フランステレビジョンでは2015年に、大手通信企業出身の社長が就任し、放送と通信の融合サービスを積極的に展開しようとしている。フランスについては、放送文化研究所でフランスのメディアの調査研究を担当している新田哲郎研究員が報告する。

 ドイツが特に注目されたのは受信料制度の大改革を実施したことである。テレビをネットで視聴する人が増加する中、テレビ受信機の設置をもとに徴収する受信料では公平負担が確保できないとして、受信機所有の有無にかかわらず、住居単位で一律の料金を徴収する放送負担金制度に変更し、2013年1月から施行した。ドイツの公共放送制度については、放送文化研究所でドイツのメディアの調査研究を担当している杉内有介研究員が報告する。

 アメリカの放送界は商業放送が中心に発展してきた。ヨーロッパと違って、公共放送は規模も小さく、受信料制度はない。財源は主に企業からの寄付と政府からの交付金である。そのアメリカの公共放送もネットサービスを充実させている。アメリカについては、放送文化研究所でアメリカのメディアの調査研究を担当している藤戸あや研究員が報告する。

 日本では放送法により「放送」と「通信」は区別されているが、両者の境界がほぼなくなった欧米の放送局のこれまでの経験は、日本のテレビにとって今後進むべき方向性を考える際に羅針盤として役に立つのではないだろうか。そうした思いから今年のJAMCOオンラインシンポジウムのテーマが設定された。このシンポジウムが、日本で放送を巡って現在進められている改革論議の参考になることを期待したい。

田中 孝宜

NHK放送文化研究所 副部長

上智大学外国語学部英語学科
英国リーズ大学 国際社会文化研究修士
名古屋大学大学院 国際開発学博士

1988年、日本放送協会入局。2017年より現職。
主な研究テーマは、災害報道、国際協力、公共放送の世界的潮流など。

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