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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第16回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2007年1月~3月

テレビで形成される外国のイメージ~中国、韓国、日本

[討議者(1)] 中国社会科学院・劉志明研究員報告へのコメント

高井 潔司
北海道大学国際広報メディア研究科 教授

中国の基本的なメディア環境

中国では、1980年代以降、経済改革・対外開放路線の導入によって、高度成長を実現する一方、計画経済から市場経済への転換を果たした。それに伴って、社会の多元化、多様化も進み、さらにグローバリゼーションの波にも乗って国際化も進展しつつある。メディアの状況も大きく変化し、テレビ業界でも、衛星放送や有線放送、さらにインターネットや携帯電話を利用したメディアミックスも進行している。

しかし、その一方で、共産党が指導する一党指導体制には全くの変化がなく、メディアは基本的に「党と人民の喉舌(宣伝機関)」として位置付けられ、党中央宣伝部がメディアを統括する体制(「党管媒体」)が続いている。市場経済の浸透に伴うメディアの変化も、この「党管媒体」の体制の枠内で進行している。

ただし新聞や雑誌などの発行においても、基本的はその体制の下に置かれているが、比較的小資本で経営できることなどから、様々な便法を用いて半ば民営新聞、雑誌も生まれている。従来の党や政府組織の機関紙に変わって、商業化した大衆紙が新聞業界の主流となっているまた市場経済化が進んだ中で生まれたインターネットは、大手プロバイダー自身が民間資本であり、その規制も比較的緩やかである。
しかし、大衆への影響力が大きいテレビ業界においては、ほとんどすべてのチャンネルが依然として、「中央、地方省・特別市、市、県」の4つのレベルの行政機関に所属し、基本的には外国資本や民間資本を排除し、党と政府の管理の下で運営されている。

党、政府の管理の下のテレビ報道

劉志明報告の冒頭にある「中国のテレビが、新聞やインターネットなど他のメディアと比べて、政府からの規制をより厳しく受けたため、日本に関する報道姿勢が比較的慎重的であって、センセーショナルな報道が少なく、反日デモに関しては、テレビがむしろ抑制的役割を果たした」との指摘は、まさに中国のテレビの置かれた政治環境から生じた結果である。
2005年春、中国各地で繰り広げられた「反日デモ」は、当時、中国の大衆紙やインターネットサイトで取り上げられた日本の国連安保理常任理事国入り反対署名、韓国との懸案事項である竹島の帰属問題、日本の歴史教科書の改訂問題などによって煽られたという経緯がある。商業化した大衆紙は、大衆の中にある反日的な対日イメージに媚びる形で、報道をエスカレートさせた。

これに対し、テレビは「反日デモ」を直接取り上げることはなかったし、大衆紙が行った日本に対するマイナスイメージの報道もテレビは全くといってよいほど行っていない。これは中国政府の立場を反映したものだろう。

小泉政権との間で様々な軋轢を抱えていた中国政府としては、敢えて大衆紙やその転載で成り立っているインターネット報道について規制せず、その反日的報道を黙認する一方、より政府の立場を反映したことになるテレビ業界に対してにらみを利かせていたものと見られる。テレビの国際報道は国営新華社通信の配信を基準にして実施されているから、政府の意向は、それを通して反映されるはずであり、テレビ局の側も十分、自己規制を働かせていたといえよう。

しかし、それはテレビ関係者が反日的ではないということを意味しない。彼らが得る情報の多くは大衆紙、インターネットを通じたものであろうから、テレビメディアが日本について報道や番組制作を行う「自由」を得た時、やはりその基調は「反日」になってしまう。
つまり、中国の限られた情報ルートで得られる情報は日本に対するマイナスイメージで構成されていて、それを繰り返し、様々なメディアで報じることによって、例えば「日本は歴史問題で反省していない」といったステレオタイプな日本イメージが形成されてしまう。

劉報告では2005年が「戦後60周年に当たる年だったので、中国のテレビが数多くの戦争映画・番組を放送し、戦争の知らない若い世代に、日本について「残虐」と「侵略」のイメージを植えつけ、結果として、人々の対日感情を一層悪化させたことが否定できない」と述べている。春の段階では比較的冷静な報道をしていたテレビが、「対日勝利」の記念日という対日関係での「放送の自由」を得ることで、対日マイナスイメージの強化に大いに力を発揮したわけである。

残念ながら、テレビの対日報道の量は極めて少ない。劉報告によると、「2006年1-8月の8ヶ月間、「新聞聯播」が放映した162本に達国際ニュースが合計1720本である。そのうち、アメリカに関するニュースが最も多く、し、国際報道の1割近くを占めている。次はロシアの124本で、日本は68本で、3番目である」という。これでは約4日に1回しか対日報道がないことになる。内容面でも「アニメ国際展示会、オーム真理教、新型ロボット、電車事故、地震予告システムなど」というわけだから、これでは大衆紙の煽る反日報道を修正する力にはならない。

大きい政治の力

実は、私は報告者の劉志明氏と、90年代半ば以降の日中関係の冷却化には両国のマスメディアの報道が大きく関わっているとの共通認識から、1999年以来、インターネット上に、「日中コミュニケーション研究会」(JCC)という両国の研究者、メディア関係者が参加するバーチャルな研究会を立ち上げ、両国の様々なメディアが直面している問題を取り上げてきた。そうした研究の積み重ねの中で、私が感じてきたのは、中国のメディアが党と政府によって管理されている限り、メディアの問題は多くの部分、中国政治のありように関わっており、また日中間の政治関係もそれに大きく関与しているという点だ。
つまり、メディアは両国間の摩擦の拡大、あるいは沈静化に大きな作用を果たしているが、そもそもの日中関係やあるいはメディアの統制のありように大きく左右されていて、メディアの問題だけ取り出して、その改善策を訴えても、その効果は限定されるということである。もちろんそうした結論自体、メディア研究の成果でもあって、決して研究自体が無意味であったというわけではない。ただ、この点で、ほとんど公的な説明、弁明もなく繰り返された小泉純一郎前首相の靖国神社参拝によって悪化した日中関係は、メディア研究だけではほとんど説得力のある提言はできず、無力感を感じたものである。

日中報道で、一つの転換点として期待される安倍-胡錦濤会談

こうした中で、2006年9月、就任した安倍晋三新首相は最初の外遊先に中国を選び、中国との関係改善に乗り出した。日中関係に改善の動きが出れば、当然、中国側の対日報道もマイナス報道から中立、プラス報道に転換することは疑いない。それは、劉報告が「日本報道のなかで、中国との交流に関す報道が10本程度で、全体15%を占め、アメリカやロシアと比べれば、その比率が最も低い。これは、首脳外交が中断した両国関係の厳しい現状を反映したものである」と述べていることからも容易に想像される。

その上で、さらに私がこの会談で注目したいのは、この会談で胡錦濤国家主席が「中国は日本が引き続き平和国家としての道を歩み、地域や国際社会における諸問題の処理にあたって、建設的な役割を果たすことを歓迎する」と述べた点である。この点は日本の新聞ではそれほど注目されて報じられていないが、中国の新聞ではきちんと記事の中に盛り込まれていた。その意味することは、従来、過去の侵略の歴史について、「謝罪が不十分である」「いや何度も謝罪の必要はない」との“神学論争”が続いてきたわけだが、今回の訪中によって「戦略的互恵関係」の構築という従来以上のレベルに関係が引き上げられ、双方が互いの国の国家建設のあり方を是認することを出発点とした。
ということは、今後のメディアの相手の国に関する報道、とりわけ政府が関与している中国メディアの対日報道については、積極的に日本の現状――平和国家建設に関する報道が改善されることを示唆する発言として注目できるのではないか。安倍訪中以降、かなり対日報道が改善されつつある印象である。日本側の報道にも、胡錦濤政権が国際社会との協調外交の一環として対日改善に乗り出したといった好意的な報道が増え、双方のイメージの改善につながっている。

対外宣伝から対外コミュニケーションへ

現在の中国は経済発展を政策の中心に置いており、グローバル化を一つのチャンスと見て、国際社会との協調を図ろうとしている。そのためには中国のイメージの改善が大きな課題である。イメージ改善には従来の発想は対外宣伝の強化であるが、最近では対外宣伝という言葉を使わず、対外コミュニケーションという考え方を採用するようになった。一方的に中国の良いイメージだけを売り込もうとしても、受け入れられるとは限らない。むしろ交流を深め、双方の情報量を増やして、イメージの改善を進めていかねばならないというわけである。そのためには、中国メディアが海外に進出するとともに、外国メディアを積極的に受け入れ、中国の現状を報じてもらう必要があろう。最近、北京オリンピックを前に、中国政府は、外国人記者が中国国内で取材を行う場合、事前に政府の関係部門に届け出ることを義務付けていた従来の規定を廃止した。これによってどこまで外国人記者にとって報道が自由になるかは不明だが、改善の第一歩を踏み出したと評価できよう。

もう一つの期待――中国のテレビ改革

最近、JCCが全面協力して、北京、広東、山東、四川、湖南、大連など中国のテレビ関係者を多数、日本の招待してシンポジウムを開催し、各地のテレビの現状や対日報道、日本に関する番組について報告してもらった。報告で目立ったのは、テレビ業界の市場化、競争の激化、娯楽化、国際化という現象であった。

中国では衛星放送や有線放送の普及で、多チャンネル化し、都市部では40-70チャンネルのテレビ放送の受信が可能になっている。しかし、一部外国人向けのホテル、外国人用住宅を除いて、一般の中国人家庭では、外国の放送の受信ができないシステムになっている。通常、中央テレビ局のチャンネルが10前後、当該省のテレビ局のチャンネルが10前後、当該市のチャンネルが10前後、その他は、他省・特別市のチャンネルが割り当てられている。その結果、競争の激化といっても、外国のテレビ局や他地域のテレビ局の参入を排除した弱小のテレビ局間の競争であって、報道や番組の質の問題が浮上してくる。良質なコンテンツの不足が各局の大きな悩みである。
その一方で、世界的なテレビ技術は中国にもどんどん流入しているため、各地のテレビ局は、将来の本格的な競争の激化、外国テレビ資本の参入に備え、海外テレビ局との国際交流を通じて、各局の競争力の向上に努めている。広東省や広西チワン族自治区など東南アジアに近い地域では東南アジアの国々のテレビ局との交流が盛んであるとの報告があった。

したがって、長期的には、中国のテレビ改革がどのようなテンポで展開するかによって、中国のテレビ界の国際化のテンポも変わってくることになるだろう。中国当局が、対外イメージの改善のために、どうテレビを国際化し、改革をすすめるか、という点に注目したい。

テレビ交流の重要性

劉報告においても、こうした中国外交の趨勢やテレビ業界の国際化を反映した日本のテレビ局との交流の拡大のデータやその意義についての論及が目立った。

「2006年にはいってから、CCTVの特集番組で日本問題が大きな焦点ではなくなることがわかる」

「「プロジェクトX」番組が中国で放送されることが、中国人の日本・日本人理解に有益な情報を提供した。それが実現した背景に、中国側の意向もあるが、経済広報センター(KKC)をはじめとする日本側が積極的に支援したことがある。21世紀に入ってから、話題になった日本のドラマがほとんどなかった。むしろ、韓国のドラマが絶大の人気を得て、いわゆる「韓流ブーム」が続いた。2006年に入ってから、この状況は少し変わった。3月18日に、フジテレビのドラマ「白い巨塔」がCCTVによって放送されはじめた」 「その成功を受けて、テレビ関係者から、今後さらに多くの日本ドラマを導入すると言われた。同じ時期に、湖南テレビが「おしん」を再編集・放送し、これも大きな成功を収めた」

劉報告に登場する日本経団連の経済広報センター(KKC)はJCC協力のシンポジウムも後援し、ここ数年間、冷え切っていた日中関係にあって、民間交流とりわけメディアの相互交流に協力し、「プロジェクトX」の中国放映にも貢献した。中国のテレビ業界がコンテンツ不足にある中、こうした良質の番組の提供は中国側にも好評を得ているようである。連続ドラマについても、一週間に1回の間隔で放送する日本と、連夜で放送する中国とで、その調整が難しいなど難点もあるが、協力の余地は今後ますます大きくなるといえよう。劉報告が「これから三回目の日本ドラマブームが起きると関係者が予測している」と言うのもうなづける。

結論

総じて言えば、中国の政治体制、メディア改革は、まだ経済改革のテンポに追いついておらず、国際報道と言う面では、「対外宣伝」という枠から抜け切れていない。メディアとりわけテレビにおいて、市場化、国際化も不十分なものとなっている。その結果、日本をはじめ諸外国に関する報道には様々な制約があり、歪んだものとなっている。それに対応して、諸外国の中国に対するイメージも歪んだものとなっている。それに伴い、中国の一層の市場経済化、グローバル化にとって支障も生じている。

しかし、平和的台頭、協調外交への転換が大きな課題となっている胡錦濤政権において、日中関係の改善をはじめ、その転換に向けて動き出しており、メディア改革もそれに合わせて促進していく必要が生じていると言えよう。

高井 潔司

北海道大学国際広報メディア研究科 教授

1948年生まれ。1972年東京外国語大学中国語科卒業。 同年、読売新聞社に入社し、その後テヘラン特派員、上海特派員、北京支局長、論説委員を歴任。1999年から北海道大学大学院、国際広報メディア研究科教授。 主な著書は、「中国ナショナリズムとメディア分析」編著、明石書店(2005年)、「現代中国を知る」編著、明石書店(2003年)、「中国報道の読み方」岩波アクティヴ新書(2002年)、「21世紀中国の読み方」 蒼蒼社(1999年)、「中国情報の読み方」 蒼蒼社(1996年)、「蘇る自由都市 上海」 読売新聞社(1993年)。

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