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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第16回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2007年1月~3月

テレビで形成される外国のイメージ~中国、韓国、日本

[討議者(2)] 韓国のテレビ番組と日韓関係

小針 進
静岡県立大学国際関係学部 助教授

はじめに

李錬教授の「韓国のテレビが形成する諸外国のイメージ」と題した報告(以下、「李錬報告」と略)は、研究の目的、方法、内容において的確な論理が展開され、示唆に富むものである。とくに、韓国と日、米、中、印、越の各2国間関係の事象に関して、自らの民族感情や特定の政治的立場から離れた分析がなされている報告であり、好感が持てる。また、調査期間として設定した2004年1月から06年6月は盧武鉉氏が大統領に就任して2年目以降の期間であるため、盧武鉉政権の外交が本格化した時期の対外関係とテレビ報道を眺めるうえで有益である。

討論者は韓国の地域研究を行っている者である。したがって、研究上の必要性から韓国の3大テレビ局(KBS、MBC、SBS)のニュースやドラマを、CS放送やインターネットを通じて、ほぼ毎日、日本でモニターしている。ここでは、李錬報告で指摘されたことを土台にして、討論者が考える韓国のテレビと韓国人の対外イメージに関するいくつかの問題点を指摘しながら、コメントしたい。討論者は日韓関係に関する研究が専門であるため、日韓関係に関する指摘が多くなることをまずおことわりしておく。

なぜ対外好感イメージの番組が少ないのか

李錬報告でわかったことは、外国イメージを形成する韓国のテレビ番組おいては、日・米・中3カ国に関するものだけで50%を超えており、しかも日・米・中のどの国に関するテレビ番組も好感イメージを帯びるものが50%を超えないという事実である。 朝鮮半島をとりまく国際環境や歴史的経緯を考えれば、この3カ国に関する番組がなぜ多いのかはあまり論じる必要はないだろう。ここで考察したいのは、なぜ好感イメージの番組が少ないのかである。

第一は、マスメディア論の「アジェンダ・セッティング」(agenda-setting)論や「沈黙の螺旋」(spiral of silence)理論が、韓国の外国に関するテレビ番組(とくに報道番組)の放映でもわかりやすく適用できる点があろう。

テレビをはじめとするマスメディアは、「当面の重要問題はこれだ」という「アジェンダ・セッティング」を強烈に行いえる媒体である。盧武鉉政権の発足以降、この3カ国との摩擦は少なくなかった。たとえば、李錬報告でも指摘されている近年の日・米・中に関する韓国テレビ番組は、在韓米軍兵士の犯罪、日本の竹島・独島に対する領有権主張、中国の東北工程という話題・議題(agenda)を設定(setting)することによって、「傲慢なふるまいをする米国」、「侵略根性がある日本」、「歴史歪曲をする中国」といった外国像を韓国国民に与えている。対外イメージの形成において、その波及効果は深刻なものがあるだろう。

また、マスメディアが取り上げた優勢と見られる意見が多数派になり、それから逸脱した意見は少数派としてますます沈黙するという「沈黙の螺旋」理論が、これらの外国に関するテレビ報道などでも適用しうる。たとえば、竹島・独島に関して、日本のテレビや新聞は「日本領であることが明白な竹島」と断定する用語がほとんどなく、「日韓両国が領有権を主張している竹島(韓国名:独島)」という文言で報じることが圧倒的である。メディアに出る専門家のコメントも意見が異なる立場(日本領だと考える人、韓国領だと考える人)をそれぞれ起用している。
ところが、韓国のテレビや新聞は「国際上も、歴史的にもわが国の領土であることが明白な独島」や「日本の独島妄言」という主観的な文言ではじまる報道ばかりで、「韓日両国が領有権を主張している独島(日本名:竹島)」という報じ方は皆無である。その結果、どういうことがもたらされたのか。05年春に竹島・独島問題が両国間で急浮上した際、韓国人のなかで「独島は日本領だ」と主張する人が現れないのは仕方ないにしても、「独島問題だけが対日関係のすべてではない。韓日関係は重要で、両国間には独島より大切な問題がある。この問題による対日強硬策は得策ではない」という、韓国人と個人的に話すと見られる少数意見がメディアからはかき消された。

第二に、マスメディアと国民世論の二者関係を考えた場合、国民世論に与えるマスメディアの効果よりも、通常は無視されるマスメディアに与える国民世論の効果が、韓国の外国に関する番組放映に見られるのではないかという点である。つまり、「受け手の支配的な意見と合致するように、内容を意識的に、計画的に、巧妙に処理することによって、その機能を果たす」(バーナード・ベレルソン「コミュニケーションと世論」W・シュラム編『マス・コミュニケーション-マス・メディアの総合的研究<新版>』学習院大学社会学研究室訳、東京創元社、1968年、298ページ)というマスコミニュケーション論の理論である。

たとえば、韓国のテレビ番組の日本報道を見てみよう。01年10月15日に小泉首相(当時)は韓国を訪問した。これは、歴史教科書問題、靖国神社参拝問題、漁業問題で緊張した両国関係を回復させることに主眼があり、日本側が強く求め続け、同年9月11日の米同時多発テロなど国際情勢の変化もあって、韓国側がこれを受け入れたものであった。
ソウルで植民地統治の象徴である西大門刑務所跡の記念館などを視察した小泉首相は、「日本の植民地支配によって韓国国民に多大な損害と苦痛を与えたことに心からの反省とおわびの気持ちで展示を見た」と韓国国民向けに明言した。ところが、この日の韓国のテレビニュースはこの文言をあまり報じず、「(日韓が)お互いに反省しつつ、二度と苦難の歴史を歩まないよう協力していこう」という発言の「お互いに反省」という部分をことさら大きく報道した。これは「受け手の支配的な意見(=「過去の歴史を反省しない日本」像)との合致」を狙ったものであろう。

実は、韓国の日本報道だけでなく、日本のテレビのワイドショーなどでの北朝鮮報道でも、「受け手の支配的な意見との合致」を狙ったものが多い。たとえば、大邱ユニバーシアード大会(03年8月)の際、ワイドショーはこれに参加した北朝鮮の女性応援団の様子を、「美女軍団が対南工作のために韓国入りした」という次元で詳報した。
韓国世論誘導のために女性応援団が大邱に来たのは事実であろうが、「すべてを謀略の対象にしている北朝鮮」像を抱いている多くの日本人の認識に迎合したものでもある。さらに、こうしたテレビ番組では放送局が自らの意志でこれを制作しておきながら、「本来はスポーツに焦点が当たらなければならないのに、美女軍団へ注目がいっている。北朝鮮はおかしい」と、本末転倒のコメントをする様子が多く見られた。
おそらく、李錬報告で指摘された韓国テレビの米国報道や中国報道でも同じような例があるのではないだろうか。

第三に、韓国のテレビは、韓国語を使い、基本的には自国民だけを対象にしたメディアだという点である(日本のテレビも、日本語を使い、日本人だけを対象にしている)。つまり、テレビで使用している言語(韓国語)は事実上、自国でのみ通じる言葉であり、そのメディアの有用性は限定されている。自国民しか読んだり、見たりしないという前提で作られた番組となるため、相手国に関する情報の事実確認が希薄であったり、偏狭なナショナリズムによる視点があったりする。

それだけに、「どうせ否定されないのだから報じてしまおう」という意識や、ナショナリズムを優先するあまり事実関係の確認がおろそかになる傾向が生じやすいのではないだろうか。あるいは、外国についての深い知識を持っていない勉強不足の記者らが情報源の言うがままに番組を制作して、放映する場合もあろう。

たとえば、李錬報告でもたびたび言及されていた日本の歴史教科書問題だが、韓国のテレビ記者たちがどれだけ深く日本の教科書を読んだうえで、これを「歪曲」だと言っているのか疑わしい報道が多い。主に批判の対象になっている扶桑社版にしても、私見では植民地支配に関する記述が他の教科書に比べて不足しているのは事実だが、「歪曲」と断定するには慎重さが必要だと思う。「植民地支配を美化、歪曲している」と断定するに足る検証報道が求められるが、それがなされないまま、「日本の歴史教科書歪曲が甚だしい」と安易に言及する韓国のテレビ局が多いのが実情である。また、日本は韓国のように歴史教科書が1種類だけの国定教科書のシステムではないが、日本の教科書検定システムをわかりやすく説明した番組を韓国のテレビで討論者は見たことがない。

もっとも、事実関係の確認をおろそかにしている報道は、日本の韓国報道でも見られることである。たとえば、03年8月放映のある在京民放の報道番組では、南北経済協力事業を推進した現代峨山の鄭夢憲会長の自殺を扱った特集のなかで、レポーターが「韓国では自殺があまり多くない」という言及を何度かしていた。
ところが、当時、韓国における各年度の自殺件数(韓国警察庁発表)は、2000年 11,794件、01年 12,277件、02年 13,055件であり、人口が約3倍の日本での年間自殺件数(2002年は31,042、警察庁発表)と比較した場合、むしろ多いぐらいである。「韓国では自殺が少ない」という正しくない前提のもとで、番組が作られていたとすれば問題であり、「自殺が少ない社会だから鄭夢憲会長の死は怪死だ」と短絡する可能性から、視聴者に対する影響は大きいといえる。この報道は、事実確認が足りない日本の韓国報道の一例といえる。

大衆文化接触と日韓関係

さて、李錬報告のなかで、韓国人にとって「日本」、「日本人」、「日本製」に対するイメージが異なると言うことが書かれていた。「日本」に対しては歴史認識に否定的であっても、「日本人」には礼儀、勤勉、親切、「日本製」には高品質というイメージを韓国人は持っているという意味だ。

韓国人の対日観はアンビバランス(両面感情)である。これは様々な調査で確認されている。李錬教授の調査と重なる時期で言えば、討論者は渡邉聡・静岡県立大学教授(社会心理学)、石井健一・筑波大学教授(メディア論)と共同で、04年9月、18~60歳のソウル市民803名を対象として、韓国の世論調査専門機関を通じた電話面接調査法で韓国人の対外意識に関する調査を実施した(小針進「韓国人の対外意識」小此木政夫編『韓国における市民意識の動態』(慶應義塾大学出版会、2005年、47-76頁)。このなかで、日本に対して「好感を持つ」は53.6%であり、対主要国中(対米55.5%、対中68.8%)では相対的に低かった。一方、韓国製の家電製品と比較して日本製を「信頼できる」とした人は80.7%にのぼった対米国製53%、対中国製4.1%)。日本製品に対しては、きわめて高い信頼性を寄せていることがわかる。

ところで、日本に対して「好感を持つ」が53.6%という数値は、対米や対中には及ばないものの、過半数を超えているのだから決して低いものではない。日韓間の政治・外交関係が急激に悪化したのは05年2月よりであり、この調査は04年9月に実施されたのでこうした結果が出ている。しかも、同年4月から8月末までNHKテレビで韓国ドラマ「冬のソナタ」(KBS制作)が放映され高視聴率をあげて、9月といえば日本社会は「ヨン様」こと主演のペ・ヨンジュン人気が最高潮に達していた時期であった。「韓流」が日本列島を席巻している模様はテレビをはじめとする韓国メディアも盛んに報道していた。こうしたことも、日本への「好感」につながったものと思われる。

李錬報告では、小泉政権が発足した01年以降、首脳会談が開催できないほどに日韓関係は悪化の一途をたどったと述べていたが、これは正確ではない。竹島・独島問題と靖国問題のために05年6月を最後に相互訪問による首脳会談が開かれなくなったのは事実だが、いわゆる日韓シャトル外交が始まったのは小泉首相と盧武鉉大統領期の04年からである。両国関係が急激に悪化したのは05年春以降だ。
01年夏に日本の歴史教科書問題で日韓関係はギクシャクしたが、02年の日韓共催ワールドカップサッカー大会(W杯)の成功、03年からの日本での韓流現象の始まり、04年の「冬ソナ」ブームと「ヨン様」人気で日本における韓国への好感度は史上最高の水準に達した時期であった。内閣府の「外交に関する世論調査」(http://www8.cao.go.jp/survey/h18/h18-gaiko/index.html)で「韓国に親しみを感じる」と答えた人の割合は、01年50.3%、02年54.2%、03年55%、04年56.7%、05年51.1%、06年48.5%と推移している。

日本に関する韓国のテレビ番組について、李錬報告にはW杯や韓流関係の言及がなかったが、これに関する好意的な報道があったと記憶している。たとえば、討論者の記録によれば、KBSテレビはW杯期間中の02年6月23日の「ニュース9」で、「韓国の4強進出を日本も喜んでいます。日本人たちは韓国が日本の分まで戦ってくれと言い、熱心に応援しております」とキャスターが紹介し、日本国民の韓国チーム応援の様子を東京特派員のレポートを大きな扱いで好意的に伝えた。また、04年11月25日にペ・ヨンジュンが来日した日とその翌日の韓国のテレビ各局は、「成田空港には1978年の開港以来最多となる3500人のファンが殺到した」と好意的に報じた。

そもそも、国境を越えた大衆文化への接触が与える対外イメージ形成への影響は大きい。ある国の大衆文化に接触している人のほうが、その国に対する親近感や興味が強いという結果は、討論者が行った様々な調査でも現れている。
04年に実施した先のソウル市民を対象にした調査でも、日本へ「好感を持つ」人の割合を日本のテレビドラマの視聴経験の有無別(「ある」36.7%、「ない」66.3%)に見ると、「視聴経験がある」人の場合が「好感を持つ」は60.3%で、「視聴経験がない」人の場合の「好感を持つ」(49.7%)よりも10ポイントも高い。

1998年以降、韓国では日本大衆文化の段階的開放を行われているが、日本のテレビドラマ番組は衛星・ケーブル放送での放映が認められているのみで、地上波ではバラエティー番組と共に未開放のままである。地上波での日本ドラマ番組の放映が開放されれば、「視聴経験がある」人は大幅に増えるであろう。それによって、好感イメージを帯びる日本に関するテレビ番組の割合と視聴者の日本に対するイメージが上昇するであろう。

最後に、李錬報告は「韓日放送文化研究委員会」の創設を提案している。放送がもたらす両国の相互イメージ改善と両国関係全般の発展のために有益であり、これに全面的に賛成する。国民の対外イメージに及ぼす放送の影響が大きいのであるから、相手国に関する誤報や不確かな情報提供は「罪」でもある。
両国関係を改善させようと汗を流している日韓両国の関係者の努力を水泡に帰してしまうことすらある。テレビが形成する対外イメージと、視聴者(国民)がそれによって持つ対外イメージは別個なものだが、この委員会では、誤報や作為的な番組放映と対外イメージの形成に関する検討を行ってもよいだろう。

あわせて討論者は、相互のソフト・パワーを両国国民に示す場として、日韓の公共放送が共同運営する文化・教養専門テレビチャンネルを作ることを提案したい。歴史的に戦火を交えたこともあるドイツとフランスには、公共放送機関が共同運営するARTE(アルテ)という文化・教養専門テレビチャンネルがある。
これはドイツ各州政府とフランス政府とが締結した1990年の条約によって91年に設立され、両国の映画、ドキュメンタリー、討論などを両国向けに放映している。これを倣ったらどうだろうか。なお、韓国の大統領直属機関・東北亜時代委員会では、日韓中3カ国による共同チャンネルを構想中と伝えられるが、社会体制が同じ日韓2カ国から始めるほうが出発しやすいと考える。  (了)

小針 進

静岡県立大学国際関係学部 助教授

東京外国語大学朝鮮語科卒業、韓国・西江大学校大学院修士課程修了。ソウル大学校大学院博士課程中退。 特殊法人国際観光振興会東京本部職員、同ソウル事務所次長、外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務などを経て、静岡県立大学国際関係学部助教授。著書に『韓国人は、こう考えている』(新潮新書)、『韓国と韓国人』(平凡社新書)、『世紀末韓国を読み解く』(東洋経済新報社)、『韓国ウォッチング』(時事通信社)など。

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