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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第17回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2008年2月1日~2月29日

非英語国のテレビ国際放送

[討議(2)] 韓国における国際放送の現状と課題 -アリラン放送を例に-

金 正勲
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 准教授

要約

本稿では、韓国の国際放送であるアリラン放送を取り上げ、その設立目的と経緯、法的地位、資金調達、番組編成を中心に検討することにする。1996年設立以降、今日までアリラン放送が歩んできた道のりは必ずしも順調なものではなかった。そこには内外的に様々な障害要因が存在し、現時点においてもそれに対する十分な対応策がとられていないのが実情である。中でも、曖昧な法的地位、不安定な財源調達構造、そして低下する番組競争力の3つが至急な解決を要する問題であることがわかった。

まず、法的地位の場合、国際放送開始直後の1997年にアジア金融危機に襲われ、明確な法的地位を確立することが出来ず、曖昧なままの法的な位置づけになってしまった。またアリラン放送を管轄する政府機関も複数存在し、その管轄権の線引きも明確ではない。その結果、度々複数の政府機関によるアリラン放送へのアドホックで恣意的ともいえる重複的な規制介入が見られる。そういう意味では、アリラン放送は設立当初からそのアイデンティティにおける危機を経験してきたと言える。

アリラン放送のこうした曖昧な法的地位は、財源調達にも少なからずの影響を与え、今日の不安定な財源調達構造を生んだといえる。アリラン放送の場合、発足当時から政府による支援金がその収入の大きな部分を占めてきたが、財団という組織形態をしているアリラン放送については、政府支援金の法的根拠が明確ではなく、今後も継続して支援金を確保出来るかという面で不確実性や不安が蔓延った状態が続いている状況である。

最後に、アリラン放送の番組競争力が強くないという点はその制作編成体制に起因するところが大きい。アリラン放送の場合、自社内制作比率が低く、外部からの番組購買や外注制作に依存する比率が高い。しかし、番組調達と言っても韓国内で圧倒的な番組競争力をもつ地上波放送局からの番組調達にはかなり苦しんでいるのが実情である。例えば、韓国3大地上波放送局でもあるKBSやSBSはアリラン放送への番組提供を一切行っていない。地上波放送局の中で唯一番組提供をしているMBCの場合ですら、初めて放送されてから7年以上経過していない番組は提供していない。
このような状況の中、アリラン放送が高い番組の質を維持するのは難しく、結果的に番組競争力も強くない。 これらの問題については至急な解決が求められる。そのためには、まずアリラン放送の法的地位を明確化することによって、安定的な財源調達体制を構築し、また良質の番組の制作・調達・編成を実施することが急務であり、それによってのみ当初目指していた国家ブランドイメージ向上という国際放送の政策目標を達成出来ると思われる。

1.加速される国際放送

近年、世界各国の国際放送への取組が加速している。その背後にある要因として代表的なのが「グローバル化」であり、「情報のデジタル化」や「ネットワークのIP化」である。モノ、人、カネが国境を越え、自由に移動することになったことを指すグローバル化が国際放送を加速させる要因になっているということについては追加的説明が特に必要ないと思われるので、ここでは主に「情報のデジタル化」や「ネットワークのIP化」と国際放送の関係について述べることにする。

「情報のデジタル化」とは全ての情報が0と1の数字の組合せに置き換えられるということを意味する。アナログ時代においては情報やコンテンツはその属性によって相互互換性が低かったが、デジタル時代になってくると映画であれ、放送番組であれ、音楽であれ、そのコンテンツの属性に関係なく0と1のデジタル情報になるため、相互互換性が確保されることになる。コンテンツが融合するのである。「情報のデジタル化」に加え、「ネットワークのIP化」はネットワーク同士の互換性を高め、ネットワークの融合・シームレス化をもたらす。IP(Internet Protocol)化以前の既存のネットワークは伝送プロトコルが相互に異なっていたためにデータを伝送し合うことが出来なかった。しかし、IP基盤のインターネットが広く普及されることになったことで、デジタルされた情報はさらにパーケットに再構成され、IP基盤のネットワーク上を自由に行き来できるようになった。特に、近年はADSLや光ファイバーといった大容量のデータ伝送を可能にするブロードバンド化の進展を受け、放送番組のような今までのナローバンドネットワークでは伝送に時間がかかった映像コンテンツも簡単に伝送出来るようになった。
さらに、携帯電話に代表されるモバイル化が進むことによって、いつでもどこにいても誰でも放送コンテンツを視聴することが可能になった。国際放送にとってなぜデジタル化やIP化が重要かというと、それが国境を問わない形で機能しているからである。伝統的にラジオやテレビのようなマスメディアにおいては、国家ベースの免許制を通じて政府が希少な周波数を特定のプレイヤーに割当ててきたために、主に国内カバレッジが前提とされてきた。そこに国境を越える性質の強い衛星放送が登場し、また最近ではYouTubeなどの登場によって、放送における国際化が急速に進展することになった。

このような「放送の国際化」は、ある意味今まで国内市場において競争すればよかった放送事業者がこれからは国境を越えて競争する「全面競争時代」に突入したことを意味するものでもある。国境を越えた放送の展開の背後にある戦略的目的としては、国家ブランドイメージの向上、文化的な交流の促進、海外市場の開拓、そしてソフトパワーの増進等が挙げられる。

例えば、韓国の場合、1990年代後半から本格的にみられた「韓流ブーム」を受け、日本、台湾、中国など東アジア諸国を中心に放送コンテンツの輸出を急速に伸ばしている。重要なのはこうした放送コンテンツの輸出は波及効果が大きいという点である。つまり、直接的なコンテンツ販売による収入も増加するがそれに加え、輸出先の国における韓国の国家イメージが急速に改善し、家電製品の販売などコンテンツとは直接関係のない部門の産業競争力までもが改善されたという例を見ても放送コンテンツの波及効果の大きさが確認出来る。もう一点重要なのは、コンテンツ輸出による波及効果の恩恵を放送事業者が全て享受出来るわけではないので、放送事業者に全面的に任せた場合、波及効果を完全に実現することは理論的には難しいという点である。
そうした市場の不完全性を補完するために韓国政府は、放送コンテンツの輸出を全面的にバックアップする振興政策を推進してきたのである。このように国際放送を政策的に推進している背後には、それが放送産業を超える経済的、文化的、政治的な価値を生むという考えがあることがわかる。

2.変容する国際放送

伝統的に国際放送は、地理的な視点で定義されていた。つまり、国内を超えた放送コンテンツの配信を国際放送と捉えていたのである。しかし、衛星やインターネットによる海外へのコンテンツ配信が一般的になっている中で、単に国内で放送された番組に字幕をつけ又はダービングをし、海外に向けて放送することは国際放送として分類されない傾向が強くなっている。
今では国内の外国人や海外の視聴者向けに言語面、番組内容面でカストマイズされた番組を制作・放送することが国際放送の必要条件となっているように思われる。こうした国際放送は、20世紀初期においては主に政治的プロパガンダの道具として使われていたが、冷戦終了後においては自国の文化的、政治的、経済的価値を広める役割を果たすようになった。

整理すると、地理的な面で国内を超えた海外への番組配信を行うこと、対象視聴者という面で自国民ではなく国内在住の外国人や海外の視聴者を対象にすること、最後に国内放送とは差別化される言語や番組内容による制作・編成であること、が満たす時に国際放送と呼ぶことが出来る。これらの条件を満たしている国際放送には、米国のCNN、VOA、英国のBBC、フランスのRFI、TV5、France 24、カタールのアルジャジラ等が代表的である。本稿の主な分析対象である韓国のアリラン国際放送もその部類に入る。

3.アリラン国際放送の設立経緯と設立目的

それではアリラン国際放送の設立背景と現況についてみてみることにする【放送委員会、2007】。アリラン国際放送の設立の契機となったのは1995年7月、韓国公報庁によって発表された「先進放送5カ年計画」の中で”放送の海外進出を通じた国家イメージ改善の次元で、現地の外国人及び韓国国民を対象に国際放送を積極的に推進する”という記述が契機となったと言われている【Song Jonggil,2007】。その後、1996年4月10日に民法第32条に基づき、非営利財団法人として国際放送交流財団が設立されることになる。

財団設立当時は、国際放送はラジオ放送のみが存在していたが、衛星放送技術が実用可能になったことを受け、韓国政府は国際のイメージ向上を通じた総体的な国家競争力強化に寄与し、国際放送を通じた国家広報の支援体系を構築・活用し、韓国国内在留の外国人に対する韓国理解を増進し、韓国での生活に早期に慣れることを目的にアリラン国際放送をスタートさせたことを決めた【AC Nielson Korea, 2006】

公報庁の「先進放送5カ年計画」によると、アリラン国際放送の主要事業と推進戦略は3段階に分かれている。まず、第1段階では、国内においてCATV基本チャンネルを通じた外国語放送事業を実施する。
次に、第2段階では、北米、欧州、アジアの3大圏域別に国際衛星放送網を構築し、海外放送用のコリアチャンネルを運営する。そして最後の第3段階では、放送番組の国際交流・協力事業及び放送コンテンツの国際競争力の向上のための各種の支援事業を遂行する、ことが規定されている【Song Jonggil,2007】。

このような政府の方針に沿って、アリラン放送は1997年2月3日に国内に居住している外国人や観光客を対象にした英語放送をCATVチャンネル50でスタートさせ、以降1998年10月に文化観光部から海外広報用の放送運営主体に指定された。財団設立当初は、官民連携型の事業体制で圏域別に民間事業者を選定し推進する予定であったが、1997年に韓国を強打した金融危機により国内の経済事情が悪化したことを受け、当初参加申請をしていた企業が続行をあきらめたことで、国際放送交流財団がアリラン放送を通じて、直接海外衛星放送事業を遂行する計画に修正され、現在に至っている【Choi SungBae, 2002】。

そこで1999年1月には衛星放送事業チームを新設し、1999年8月12日には韓国放送史上初めて、海外衛星放送を通じたアジア太平洋地域への国際放送を、2000年9月26日には欧州、アフリカ、北米地域にそのカバレッジを広める等、全世界を対象に放送を実施するようになった【高麗大学新聞放送研究所、2003】

アリラン放送の実施主体である国際放送交流財団はその設立目的を次のように表明している:”放送の国際交流協力事業を通じ、韓国に対する国際社会の正しい理解と国際的友好親善の増進に寄与する一方、放送コンテンツの質的向上のための事業を遂行することで、放送映像、広告産業の振興及び文化芸術の発展に貢献することを目的とする”とされている【国際放送交流財団定款第2条】このような目的を達成するために、財団は次の事業を中心に活動を展開している:

  • 国家イメージ改善及び国際社会の理解増進のための海外衛星放送事業
  • 在韓外国人の韓国理解増進及び内国民の世界化意識改善のための放送事業
  • 放送コンテンツ国際競争力向上のための事業支援
  • 海外メディアを通じた韓国放送コンテンツの放送支援事業

4.アリラン国際放送の運営状況

以下では、アリラン国際放送の運営状況について2007年放送委員会から発表された国際放送に関する報告書を中心に整理することにする【放送委員会、2007】。

アリラン放送は国内向けの放送と海外向けの放送チャンネルを運営している。海外向けの放送は2006年12月基準、2つの海外放送チャンネル、Arirang WorldとArirang Arabを運営している。前者は、1999年8月に開局され、使用言語は英語、中国語、スペイン語、韓国語とし、1日24時間放送を実施している。一方、後者のArirang Arabは2004年8月に開局され、使用言語はアラブ語、英語等とし、中東全域で1日24時間放送を実施している。

放送時間は、本放送が30%、再放送が70%で再放送比率が高い。次に、制作面では、自社内制作が38%、外注制作24%、国内購買37%と自体制作比率が低いことがわかる。

運営財源は、大きく放送発展基金のような補助金と自己資金で構成されている。2006年の総予算416億wonの内、支援補助金は245億wonで59%、自体資金は114億wonでとなっている。もし政府による支援補助金がなくなれば、実質的にアリラン放送の運営は不可能な構造になっている。

制作費の場合、2007年度の総制作費予算は148億wonである。制作費の圧倒的な部分は放送発展基金に依存している。これが意味しているものは、放送発展基金の増減によってアリラン側の予算が制限され、制作費を調整せざるを得ない状況であることがわかる。

5.アリラン放送が直面している問題点

10年以上、運営を継続してきたアリラン放送であるがそれを巡ってはその国際的な評価は必ずしも高いとは言えない状況である【放送委員会、2007】。それには組織効率性など内部的な要因もあるが、その法的地位が曖昧であること、財源調達構造が不安定であることといった外部的な要因もあり、結果的に番組競争力が十分に強くないことが指摘されている。以下ではこれらアリラン放送の成長を妨げる3つの要因について考察してみることにする。

5-1.曖昧な法的地位

実質的に国家広報放送の機能を遂行しているアリラン放送の法的地位が不明確で曖昧であることが、その設立当初から言われている。一般的に、アリラン放送が国際放送を遂行する事業及び財政的支援に関する法律的な根拠として、文化産業振興基本法第7条の「国際交流及び海外市場進出支援」に関する項目が挙げられる【放送委員会、2007】。
ここでアリラン放送は、文化産業の国際交流及び海外市場進出支援事業を政府から委託され推進する民法上の財団として規定されている。しかし、実質的に国家広報のための放送を遂行しているアリラン放送の運営に関する明確な原則や基準、そして具体的な目標が明示されておらず、予算支援に関する法的根拠も規定されていない。

こうした法的根拠の曖昧さによって適用される規制も一貫していない。またアリラン放送に対する規制管轄権を持っている政府機関が複数存在し、ある問題についてこれらの複数の政府機関が同時にそれも相反する指示を出す場面もあると言われる。現行何らかの管轄権を持っていると思われるところは、文化観光部、放送委員会、国政広報庁等である。
アリラン放送は文化観光部の傘下機関であるとされるが、その財源の殆どを占める補助金/基金は放送委員会から調達している。このように複数の政府機関が管轄権を持ち、さらに相互に明確な管轄権の線引きがない状況の中で、規制が重複したり、ランダムで恣意性の高い介入が行われたりする可能性が高い。その結果、アリラン放送にアイデンティティの混乱が発生しているように思われる。

5-2.不安定な財源調達構造

上記のアリラン放送の法的地位の曖昧さは、政府機関によるアリラン側への予算支援の根拠を曖昧にさせる要因になっている。実際、ここにきてアリラン放送は制作等運営に必要な十分な財源を確保出来ずにしており、従業員に対する報酬も同業他社と比べると相対的に劣悪な状況にあるという指摘もある【放送委員会、2007】。国家広報の役割を果たすという意味で、公益性追求というビジョンがあるだけに、財源確保のために商業性追求に走ることも出来ない状況にあることも指摘出来る。

5-3.番組競争力の低下

曖昧な法的地位やそれによる不安定な財源調達構造は、結果的に制作部門を萎縮させる原因となっている。現行のように政府の支援金の規模と連動した形で番組制作・編成が行われるため、支援金額が政治的な状況によって減少するとそれが直接的に制作費等のカットにつながる仕組みになっている。
こうした状況の中で政府の支援金のみに依存することは難しく、支援金以外の収益源を確保する必要性がある。そこで企業等からの協賛に力を入れるようになるが、協賛の場合、番組の制作・編成において協賛スポンサーを考慮しなければならない場面が不可避に生まれるようになる、公益性とのバランスをとるのが難しくなる。

番組の需給における非健全性も番組競争力を低下させる一因となっている。アリラン放送の場合、制作費が限られていることから自社内制作の比率が4割弱と高くない。そこで外注制作や番組購買に依存する必要性が高くなる。番組購買については、韓国内で圧倒的な人気がある地上波放送局放送の番組が断然魅力がある。
しかし、実際アリラン放送が地上波放送局から番組を調達するのは簡単なことではない。例えば、韓国最大手の地上波放送局であるKBSはKBS Worldを運営しているが、商業放送ではあるものの実質的にアリラン放送と代替関係にあるとされている。こうした競争関係を示す例として、KBSは2001年からアリラン放送に対し、自社制作コンテンツの供給を全面中断した。その他の地上波放送局の場合も番組を供給しないか(SBS)、又は供給したとしても一定期間が経過した番組しか供給していない(MBCの場合、7年以上経過の番組)。その結果、自社制作率が低いアリラン放送は再放送に依存せざるを得ず、コンテンツ競争力を失う悪循環に陥っている実情である。

以上、韓国の国際放送であるアリラン放送を取り上げ、その設立目的と経緯、法的地位、資金調達、番組編成を中心に検討してきた。10年以上実績を持つアリラン放送であるが、そこには成長を阻む様々な内的・外的な障害要因が存在し、現時点においてもそれに対する十分な対応策がとられていないことがわかった。中でも、曖昧な法的地位、不安定な財源調達構造、そして低下する番組競争力の3つが至急な解決を要する問題であることがわかった。これらの問題については至急な解決が求められる。
そのためには、まずアリラン放送の法的地位を明確化することによって、安定的な財源調達体制を構築し、また良質の番組の制作・調達・編成を実施することが急務であり、それによってのみ当初目指していた国家ブランドイメージ向上という国際放送の政策目標を達成出来ると思われる。

以上

金 正勲

慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 准教授

韓国生まれ。1999年から2002年まで米国インディアナ大学テレコミュニケーション学部アソーシエイトインストラクター。 知的財産研究所外国人招聘研究員、ドイツ連邦防衛大学標準化研究部門客員研究員、欧州共同体(EU)標準化教育プロジェクト・エキスパートパートナー、英国オックスフォード大学知的財産研究センター訪問研究員。 主な研究分野は、メディア融合論、創造経済、デジタルコンテンツ産業論、技術標準化と知的財産権等。総務省国際分野における郵政行政の在り方に関する懇談会委員。文化庁文化審議会著作権分科会専門委員。2004年から現職。

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