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~ハワイ、米国、太平洋諸島でのオンライン学習~

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第29回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2021年1月~

教育支援のための放送や新しいメディアの可能性~コロナ危機の中で~

高等教育におけるCOVID-19の変容
~ハワイ、米国、太平洋諸島でのオンライン学習~

Bert Y. Kimura
ハワイ大学 名誉教授
米国ハワイ州ホノルル

要約


 現代において、米国の高等教育は、気象関連災害、地震、銃撃、全国規模の抗議運動、テロ、伝染病などの世界的蔓延といった、地域的、国家的事件の影響を受けたことはなかった。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、そのすべてを変えた。本稿では、ウイルスが地域や国の経済、医療従事者、家族の福祉に深刻な影響を与えていく中で、ハワイ州と米国の大学やカレッジが、教育の提供方法、ありようをいかに変革させていったかを論じている。筆者は、教育に起こった変化、そして今後登場する可能性のある教育と学習へのメリットについて述べる。

イントロダクション


 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを宣言してから5か月以上が経過した8月30日、ニューヨークタイムズ紙は、600万人以上のアメリカ人がコロナウイルスに感染したと報じた(ザ・ニューヨークタイムズ、2020a)。 6週間後の10月10日時点では、ジョン・ホプキンス大学コロナウイルス情報センターによって報告されたアメリカ国内のCOVID-19感染者数は7,709,628人、関連死が214,305人であった(ジョン・ホプキンス大学、2020年)。世界では、米国を筆頭に、インドで700万人、ブラジルで500万人と、3,700万人の感染者が報告されている。アメリカで、1人当たりの増加率が最大(図1)だったのは、南部および山岳州(フロリダ州、ジョージア州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州)であった。
 米国で感染者数の急増が見られたのは、戦没将兵記念日(the Memorial Day)(5月26日)と独立記念日(7月4日)の祝日後である。おそらく、人々が、湖、ビーチ、公園、テーマパークといったレクリエーション地に、マスクも着けず、ソーシャルディスタンスをとることもなく、集まってしまったからであろう。これを執筆している時点で、アメリカは、報告された感染者数の第3のピークに直面している。
 アメリカ人の生活(American life)は、世界のほぼすべての国同様に、変化してしまった。群衆が集まる場所やイベトが軒並み中止となった。何百万人もが無職となり、家のやりくりに苦労している。学校やカレッジは、今秋、対面授業の数を制限した。26,000件以上が、8月と9月に授業が開始した大学に関連して発生した(CONAHEC、日付なし)。  ニューヨークタイムズ編集委員会(The New York Times Editorial Board)(2020年)は、アメリカは、COVID-19感染拡大の封じ込めに失敗した連邦政府の指導力の欠如と無能さを引き続き経験している、と述べた。このことが、10万人以上のアメリカ人の不必要な死を招いてしまった可能性がある(Riodan、2020年)。

図1:米国の居住者10万人当たりのCOVID-19感染者数(州別または地域別)



出典:ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)
ユーザー:Ythlev



米国におけるCOVID-19の衝撃
(The Impact of COVID-19 in America)


米国経済(United States Economy)

 7月31日、世界経済フォーラム(the World Economic Forum)(Mutikani、2020年)は、パンデミック禍にある経済の変化を以下のように表現した:

  • COVID-19は、米国経済に大恐慌(the Great Depression)以来の最大級の衝撃をもたらした。

  • 国内総生産(GDP)は、年率32.9% に落ち込んだが、これは、1947年に記録が始まって以来、最も大幅な下落となった。

  • 7月11日に終わる週(7月の第二週)には、3,020万人のアメリカ人が、失業手当を受けていた。


 2020年6月8日、非営利の研究組織である全米経済研究所(the National Bureau of Economic Research)は、2020年2月に米国経済が景気後退に入ったことを公式に発表した(議会調査局、2020b)7月31日、米国商務省経済分析局(BEA)は、2020年第2四半期の経済は、GDPで測った場合、直前四半期と比べて、年率32.9%で縮小するとの試算を発表した。言い換えると、この下落が今後1年間続いた場合、米国経済は、第1四半期に比べて、3分の1程度縮小することになる。
 2020年第2四半期の落ち込みは、COVID-19が引き起こしたものだ。供給(生産)の現場で広範囲に混乱が生じ、需要(消費)が抑制された結果である。しかし、BEAは、COVID-19がGDPに与える影響の正確な数値については説明できない,と述べている。

米国の失業(United States Unemployment)

 米国議会調査局(2020c)は、2020年10月の最新レポート「COVID-19パンデミック時の失業率」の中で、次のように述べている:

  • 失業率は、1948年に初めてデータが収集されて以来観測されたことのない、他に類のない形で4月にピークを迎え(14.7%)、その後下がっていったが、9月の時点でも依然として高止まりしている(7.9%)。

  • 4月には,全国の失業率が、大恐慌(the Great Recession)の時より大きくなった。

  • 失業者が集中しているのは、サービス産業である。レジャー産業およびサービス業界の4月の失業率は39.3%に達するほどだった。9月には19.0%まで減少した。


 ブルッキングス研究所のレポートは、パンデミックが、とりわけ中小企業にダメージを与えていることを明らかにした。米国内企業の大半は中小企業であり、民間企業の労働者全体のほぼ半数を雇用している(Bauerその他、2020年)。
 7月には、230万人が恒久的なレイオフにより失業、この数字は、失業者の11.8%を占めていた。2020年2月までに、450万人が26週間以上にわたって失業し、ほぼ200万人が11カ月以上失業していることになるだろう。失業状態が長期にわたると、将来の収入低下につながり、家を所有することが困難になる。
 さらに、保育の現場での混乱から、多くの働く親たちが労働力から外れることを余儀なくされており、(大きな政策変更がなければ)、今後何年にもわたって労働市場にマイナスの影響が残るだろう。
 ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の最近の調査(Parkerほか、2020年)によると、感染拡大が始まって以降、4人に1人の成人が請求書の支払いができなくなり、3分の1が銀行口座の残高がなくなってしまったことが明らかとなった。約6人に1人(人口の17%)が友人や家族から借金をしたり、フードバンクから食料を受け取ったりしている。
 黒人、ヒスパニック系、低所得者、そして大学の学位を取得していない人たちが、経済的に最も大きな打撃を受けた。米国の低所得層の成人の半数近くが、パンデミックが始まって以来、請求書、家賃または住宅ローンの支払いに困窮した。
 ブルッキングス研究所のレポート(Bauerその他、2020年)によると、パンデミックに伴い、子どものいる家庭の中で、日常的に食料不安の状態にある家庭、食料が極めて不足した状態にある家庭の占める割合が増大した。家族が健康で活動的な生活を送るために十分な食料がなく、もっと多くの食料を得るための手段にも事欠く家庭の場合、食料不安(food insecurity)は起こる。食料確保が十分に保障(food security)されていないと言うことは飢餓と同じであり,食料消費に著しくそして恒常的な混乱があるかどうかの指標として示すことができる。
 有名なメイヨー・クリニックは、米国の人種的、民族的マイノリティが、コロナウイルスの影響を不平等な形で受けていると報告した(Marshall III、2020年)。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、アメリカ先住民またはアラスカ先住民は、白人と比べると、COVID-19で入院する可能性が5.3倍高いことを伝えた。
 黒人とヒスパニック系の人々の入院率は、非ヒスパニック系白人と比べて、約4.7倍だった。
 米国では、ヒスパニック系と黒人のほぼ25%がサービス業に従事しているのに対し、非ヒスパニック系白人の場合は16%である。多くは、医療業界で看護師や開業医として働いている。その他の人々は、エッセンシャルワーカーとして雇用されている。国内の少数民族や人種的マイノリティは、何らかの基礎疾患を抱えて生活しており、多世代住宅、混雑した環境、ニューヨーク市のような人口密度の高い地域に居住している可能性が高いと考えられる。そうした環境では、ソーシャル・ディスタンシングをとりづらく、感染が伝播してしまう可能性が大きくなる。

 太平洋諸島民(Pacific Islanders)

 8月14日の金曜日の時点で、ハワイで確認されたCOVID-19感染者の3分の1が、太平洋諸島の人たちである.彼らはマーシャル諸島人、サモア人、トンガ人、チューク人、その他の太平洋諸島の先住民であり,人口はハワイ州の4%に過ぎない.(Hofschneider、2020年)。
 現在の状況は予測できるものであった:ハワイにいる太平洋諸島の島民は、低賃金の仕事に就き、狭く混みあった家に住み、健康保険に加入しておらず、糖尿病やCOVID-19の悪化に関連したその他の病気を患う可能性が高い。

 太平洋島嶼国(Pacific Island Nations)

 対照的に、太平洋島嶼国は、ウイルス感染の可能性を警戒して、海外からの旅行者に対して直ちに国境を封鎖し、パンデミックの拡大に対応してきた。10月10日現在、世界保健機関(WHO)は、米領サモア、サモア、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、トンガ、バヌアツ、その他の太平洋島嶼国の感染者はゼロであると発表した(世界保健機関、日付なし)。
 筆者の米領サモア出身の同僚(R. Turituri,、W. Thompson、L. Laolagi、個人間コミュニケーション、2020年8月)からの報告によると、島嶼国は、パンデミックのごく初期であった3月に国境を封鎖している。到着者は、知事とCOVID-19対策本部の認証が必要だ。到着後、旅行者は、保健省(the Department of Health)が定めた14日間の検疫をおこなわなければならない。
 米領サモア政府は、コロナウイルスについて、積極的に国民に周知を図り(知事室、2020年)、授業の準備や進め方に関するガイドラインを策定し、教員研修を実施している。秋学期は、8月下旬に始まった。高校生は、月曜日∸水曜日(9年生と10年生)または火曜日∸木曜日(11年生と12年生)のスケジュールで、対面授業を受けている。オンライン授業は、学生が校内にいない場合、Zoom(ズーム)で行われる。金曜日には、学校職員が生徒の使用する教室や施設の清掃と消毒作業を行い、教員は授業のプランニングを行う。生徒は、自宅からのオンラインアクセスを利用できる。

 米国の高等教育(U.S. higher education)

 歴史的にみても、アメリカの高等教育が、異常気象、地震、銃撃、全国規模の抗議運動、テロ、伝染病などの世界的蔓延(SARS、エボラ出血熱、HIVなど)といった事象、事件によって、全国的に混乱したことはこれまでない。2020年のCOVID-19パンデミックは、それらすべてを変えた。
 高等教育の現場では、大学が速やかにオンライン学習に切り替えた。3月6日、主要大学の中で、ワシントン大学が最初に対面授業と試験を中止した。3月中旬までには、全国のカレッジがこれに続き、50州すべての1,100校を超えるカレッジと大学が対面授業を中止、またはオンライン限定講義へ切り替えた。一方、春の卒業式は中止または延期となった(Smalley、2020年)。
 高等教育機関は秋学期まで教育活動を継続することに尽力した.パンデミックには、多くの不確定要素がある。キャンパスの再開予定は、各大学によって大きく異なった。しかし、それらは次第に3つのカテゴリーに分類されるようになった:

  • ソーシャル・ディスタンシングを保ちながら実施する対面指導のプランニング

  • ハイブリッドモデルの構築またはキャンパス内の学生数の制限

  • オンライン限定指導への移行

ハワイ大学
(The University of Hawai’i)


 2020年3月12日、ハワイ大学総長ディビッド・ラスナー(Dr. David Lassner)は、春休み明け直後の3月23日から全ての授業をオンライン学習に移行することを宣言した(UHニュース、2020a)。対面コース(in-person courses)は、教員と学生が通常授業に戻れることを期待して、4月13日の月曜日に再開する予定であった。実際には、対面コースは再開しないまま、大学は、春学期をオンライン授業で終えた。
 大学は、COVID-19に関する情報を常に更新し、最新情報を研究キャンパス(ハワイ大学マノア校)、2つのバカロレア(学部生対象)キャンパス(ウエストオアフカレッジ、マウイカレッジ)、7つのコミュニティ(二年制)カレッジ(カピオラニ、リーワード、ホノルル、ウィンドワード、カウアイ、ヒロ、ハワイ∸パラマヌイ)を含む、全10キャンパスに適用している(UHニュース、2020d)。さらに、メインキャンパスのマノア校など、各キャンパスでは、教職員と学生のためのガイドラインを提供している(ハワイ大学マノア校、2020年)。
 7月、ラスナー総長は、予定されていた2020年秋学期授業の54%がオンラインで実施され、23% がハイブリッド方式、残りの23%が対面で実施されたと大学理事会(the Board of Regents)に報告した(2020年7月総長ハイライト・最新情報(2020年7月総長ハイライト・最新情報(President’s July 2020 highlights and updates))。すべての大学対抗スポーツ大会は、各競技リーグ所属の各大学学長・総長間の合意により、無期限の開催停止となった。
 しかし、8月に入り、COVID-19感染者が急増、総長は、8月10日に、アート、ダンス、テクニカルトレード(technical trades)など対面が必須でやむを得ない場合をのぞき、学生の体面授業活動を制限すると発表した(Lassner、2020年)。これらの授業は、新型コロナウイルスに対する健康と安全に関するガイドラインおよびベストプラクティスを厳守しながら、実施されることになる。大学職員は、在宅勤務を指示された(UHニュース、2020b)。
 以降、マウンテン・ウエスト・カンファレンス(アメリカンフットボール)は、11月から始まる大学対抗フットボール試合の試合数を減らした縮小スケジュールによる開催を予定している。
 先日、ハワイ大学は、2020年秋学期の入学者数について、主要研究キャンパスであるマノア校(UH-Manor)の入学者を3.1%増加する一方で、全体では3.2%減らすと発表した。しかし、コミュニティカレッジ全体の入学者数枠はわずかに減少しているが、十分なサービスを受けられない地域の入学者数を小幅ではあるが増加させた。
 全体では、ハワイ大学(UH)の入学者数は、過去最高レベルに近い入学者数を記録した2012年からの全体的落ち込みが最も小さかった2019年秋に比べると、0.8%の減少となった(UHニュース、2020e)。
 このニュースは、秋学期から再開したキャンパスの間で、コロナウイルスが蔓延していることから、ハワイ在住者がアメリカ本土の大学への入学または戻ることを控えているのではとの見方もあり、好意的に受け止められた。こうした入学者数をめぐる変化の原因については、現在さらに研究が進められている。

オンライン教育・学習(Online Teaching and Learning)

 ハワイ大学オンライン・イノベーションセンター (UHOIC)は、オンライン授業への移行期間支援のため、「緊急時遠隔教授(the Remote Instruction During an Emergency)」ウェブサイト(UH オンライン・イノベーションセンター、日付なし)を構築した。このウェブサイトには、「教員のための緊急時指導チェックリスト」が掲載されている。それぞれのキャンパスでは、教員に追加のリソースや研修機会についての注意喚起を行っている。教員は、「オンライン支援申請書(online request assistance form)」に記入することで、よりきめ細やかな支援を要請することができる。
 自分のコンピューターにアクセスできない学生は、キャンパス内の図書館やコンピューターラボにあるものを利用できる。ハワイ大学オンライン・イノベーションセンター (UHOIC)とハワイ大学情報技術サービス(UH Information Technology Services)は、キャンパスオフィスその他と連携し、特定ニーズのある学生や教員への支援を確保している。
 オンライン授業を行うための教員支援は、教育開発の専門家により、ICT(音声、ビデオ、Eメール)または直接面談を通して行われる。このようなサポートは、大学機構全体で利用できる。
 同様に、オンライン学習についてのインターネットリソースが、学生たちに提示された(ハワイ大学、日付なし)。この中には、コミュニケーション、学習ツール、インターネットアクセス、ヘルプを受けることに関連した情報やガイダンスも含まれていた。たとえば、学生たちに対して、オンラインコースに参加するのと同じくらい、あるいはそれ以上の時間がかかることを予想して、静かで、予定に組み入れた「良好で構造化された学習環境」を整えることが推奨された。コンピューターは、キャンパス内の図書館やコンピューターラボ(ソーシャル・ディスタンシングの案内が示されている)で学生が利用できるようになっていた。たとえば、カピオラニキャンパスでは、学生は、自宅での学習用に代替コンピューターを借りることができる。
 高等教育のEDUCAUSEやK-12教育者に焦点を当てた国際教育技術協会(the International Society for Technology in Education(ISTE))など、教育と学習に活動の主眼を置いた非営利の専門家教育協会は、会員向けに、オンライン授業への調整をするためのリソースを素早くまとめた。EDUCAUSEには、リソースウェブページ、COVID-19(EDUCAUSE、日付なし.)があり、一方、ISTEでは、ニュース配信機関EdSurge(日付なし)を通してリソースが入手可能となっている。

2020年秋学期のキャンパス再開
(Fall 2020 Campus Openings)


 2020年秋学期には、多くのキャンパスが閉鎖、またはキャンパス内の学生の行動を制限しなければならなかった。ニューヨークタイムズ紙は9月、数週間の開校後、米国の大学キャンパスは、コロナ禍初期の食肉加工場や老人ホーム同様に、数百人の新たな感染者が出るコロナウイルスのホットスポットと化したと報じた(Hubler & Hartocollis、2020年)。
 たとえば、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校は、ロックダウンを実施した。ネブラスカ・リンカーン大学では、いくつかの男子学生社交クラブや女子社交クラブのパーティーを同大学が中止したにもかかわらず、感染者は増加し続けた。ニューヨーク州立大学オネオンタ校は、2週間もたたないうちに、コロナウイルスが制御不能なほどにキャンパス内で猛威を振るい、500人以上が感染したため、学生を帰省させた。アラバマ大学は、キャンパスにいる学生の3%を毎週無作為に検査し、キャンパス内またはキャンパス外での集まりの禁止に違反した学生600人以上を処罰した。同大学は、33人の学生を停学処分にしている。
 10月8日時点で、ニューヨークタイムズ紙が、1,700を超えるアメリカのカレッジと大学を対象に調査を行ったところによると、178,000人以上の感染者が確認された(ニューヨークタイムズ、2020b)。
 ある大学の学長は、「おそらく、わたしたちがワクチンを手にするまでは、すべてはバーチャルにとどまらざるを得ないだろう」と言った。確かに、これは非常に困難で厄介な状況である。
 これとは対照的に、ハワイ大学ではウイルスの蔓延状況を注意深く見極め、政府の対策をチェックし、キャンパス管理者、学部長、スタッフ、教員と連携し、科学的情報とベストプラクティスにもとづいたガイドラインを策定したため、2020年4月2日以降の学生と職員の報告された感染者数は、大学全体でわずか40人だった。10月12日までの14日間に報告された症例は、7件に過ぎなかった。アメリカ本土にあるキャンパス居住型大学とは対照的に、ハワイ大学は、主として通学型であり、学生寮に居住する学生数は限られている。加えて、ハワイ大学には、1990年に始まったキャンパス間と教育センターを結ぶ双方向テレビによるeラーニングの長い歴史があった。
 ハワイ大学は、キャンパスやキャンパス外の施設に入る前に、健康チェックアプリ「Lumisight」(iOS、Android対応)を活用するようも義務付けている(ハワイ大学ニュース、2020c)。「Lumisight」は、個人が毎日自分の健康状態をチェックできる簡易で便利な方法である。

オンライン授業への移行(Transition to online classes)

 多くの大学や学校が、オンライン学習へと移行しているが、そこにはまだ重要な課題がいくつか残っている。オンライン学習ははたしてどれくらい成功しているのか、そして準備により多くの時間をかけられる場合、どのように改善していくことができるのか?
 オンライン教育へのこのような移行は予期せぬものであったが、幸いにも、大学生の間である程度の成功を収めた。最近実施された「長寿プロジェクト(the Longevity Project)」と「モーニングコンサルト(Morning Consult)」の世論調査によると、回答者の33%がオンラインによる大学の授業に「非常に満足している」と答えている。また、43%が「ある程度満足している」と回答した。このことから、数日で急いで整えたものにしては比較的肯定的に受け止められているといってよいだろう。オクラホマ大学教育学部教授、テリー・カレン(Terri Cullen)は、教員たちが「伝統的な時間枠の外で考えるようになってから」、オンライン学習のユニークな特徴を活用するようになった、と述べている(Stern、2020年)。
 一方、テクノロジーをうまく活用できなかったり,オンラインでの授業がうまくいかないために苦しんだ教員もいる。同様に、学生の中にも、オンラインに苦労したものがいる。「長寿プロジェクト(the Longevity Project)」世論調査の回答者のうち11%が、技術的な問題が最大の課題だったと答えた。一番多かったのは、「集中力を保って、課題に取り組むこと」という回答で全体の38%を占めた。

収入と入学者の減少(Loss of revenue and enrollment)

 アメリカ教育協議会(the American Council on Education)は、議会指導部あての書簡(Mitchell、2020年)の中で、大学やカレッジの収入の落ち込みを相殺するための追加財政支援を訴えた。学費を払うことのできない学生が多く、秋学期の入学者数は減少している。大学は、食堂や学生寮といった他のサービスからの恩恵を受けることができない。より高い学費を払う留学生の数は、多くの国が渡航を制限しているため、大きく減少している。コロナウイルス検査、接触追跡、検疫そして学習技術に関連した新たな負担も発生している。
 全米学生情報センター研究所(the National Student Clearinghouse Research Center)によると、初期の段階で、全米の大学入学者数が減っていることがわかる。9月10日に報告されたデータ(Schnell、2020年)によると、全体的にみて、中等教育後の入学者が昨年と比べて1.8%減少、コミュニティカレッジの入学者は8%という最大の落ち込みとなった。

アメリカ合衆国政府の支援(U.S. Government Support)

 CARES法(新型コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)は、知事緊急救済基金、小中学校緊急救済基金、高等教育緊急救済基金から成る310億ドルの教育安定化基金(Education Stabilization Fund)を設立した。知事緊急救済基金は、地方の教育機関、州内の学生にサービスを提供する高等教育機関、その他の関連団体に、国内法令の遵守、社会・情緒的サポート、教育関連の仕事の維持など、幅広い目的のために緊急資金を提供することができるよう、知事に対し30億ドルを供与している。高等教育緊急救済基金は、コロナウイルスに直接関連するさまざまなニーズに対応するために140億ドルを分配することを規定しており、遠隔学習へのコース調整、学費、食費、住居費、医療費、育児のための学生支援の付与などが含まれている(議会調査局、2020a)

教 訓
(Lesson Learned)


 COVID-19は、大学、その教職員そして学生に、大規模なオンライン学習の導入を促した。2020年春学期からの追加、さらに重要なことに、秋学期からの追加は、このピボット(転換)の成功を明らかにするだろう。
 予備的な兆候としては、これが可能であったこと、そしてさらに長期的に継続する可能性があるということだ。オンライン教育に携わっている人の中では、教員と学生の両方がこの教育方式に適応し、慣れていくにつれ、オンライン学習の授業は向上するという確信がある。オンライン教育の実践者たちもまた、オンライン学習の評価が高まると信じている。
 ハワイ大学コミュニティカレッジの副学長室(OVPCC、2020年)が、2020年の春学期末に教員と学生を対象とした調査を実施した。雇用されている教員全体の46%にあたる389人と学生総数の6%にあたる1,411人の学生がこの調査に回答した。
 回答をみると、COVID-19が引き起こした混乱が、学生と教員それぞれにさまざまな困難をもたらしたことがわかる。インターネットへのアクセスができることとと研究や学習をするための場所の確保が重要であることが、多くのキャンパスで共通して語られた。さらに、半数以上の学生と70%以上の教員が、来る秋学期に向けて自分たちの健康と安全性を心配していた。
 学生からは、よくデザインされたオンラインコースと教員との定期的なコミュニケーションがコース修了に役立った、とのコメントがあった。このようなコメントから見えてくるのは、教員が学生からの質問に迅速に回答することの必要性である。Zoom(ズーム)をはじめとした、ビデオ会議アプリを通して定期的にミーティングを開くことも非常に助けになるとの指摘もあった。2対1の割合で非同期だけのオンライン授業よりも好まれた.、言い換えると、(オンラインとオフラインを組み合わせた)ハイブリッドモデルのほうが学生の学習により効果があると言うことだ。
 教員からは、オンラインへ移行した春休み明けの授業では、学生の参加率が減少したとの報告があった。それでも、多くの教員(65%)は、学生たちが前の学期と同等もしくはそれ以上の成果を達成できたと報告している。
 この要約では、コミュニティカレッジの学生と教員の間で起こったCOVID-19に起因するオンライン学習への転換のすべてを語ることはできない。それでも、オンライン学習が学生にポジティブな成果をもたらす可能性があることを示しているのは確かだ。しかし、いずれにしても、ポジティブな成果をあげるには、適切なインターネットアクセス、適切なツール、学習リソースとあわせて、教員研修を行うことが重要である。
 過去20年間にわたって、研究者たちは、オンライン学習と教室(直接(in person) または対面(face-to-face))での学習との比較を行い、データを発表してきた。2013年のレビューで報告されたように、厳格なリサーチ手法をとった研究はごくわずかだった。しかし、そうした研究の成果から、学生が、オンラインまたはハイブリッドコースで受講した場合も、同じコースを直接または対面で受講した場合と同等の成績を収めていることが示された(Kurzweil、2015年)。
 現在の状況を考えると、COVID-19に直面する中、とりわけ、筆者が考えるのは、オンライン学習が、いかに従来の伝統的な教室学習と同等またはそれ以上に効果的な学びになるか、そのような成果を獲得するためにどのような教育戦略や学習ツールを使うことができるのか、議論することがより生産的であるということである。

革新の機会(Opportunity to innovate)

 筆者は、1995年から教員支援に携わり、オンライン学習クラス(online learning classes)を教えてきたが、このパンデミックが、学習のあり方を革新し、学生の参加を促すための戦略や学習支援ツールなど、効果的なオンライン学習をいか実践できるか、その方法を調査研究し、貴重なデータを収集する大きな機会を得ることができたと確信した。成果はすでに現れ始めている。1、2年のうちに、ベストプラクティスが、コロナ禍におけるオンライン学習から出現すると期待している。

未来を見据えて(Looking ahead)

 TCC2020@25オンラインカンファレンス(https://2020.tcconlineconference.org/)の参加者は、パンデミックがいかに彼らの仕事に影響を与えたか、パンデミックの終息後、オンライン教育・学習に何が起こるかについてのアンケートに回答して、以下のデータを提供した。主に高等教育機関の教育者を対象とし、この25年間毎年開催されているTCCオンラインカンファレンスでは、遠隔教育における教育技術や教育、学習そして創造性のための新しい技術の活用に重点が置かれた。25周年を記念して、スペイン、フィンランド、フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、エジプト、南米、ハワイ、日本そして韓国からの発表者を迎え、4月15日まるまる24時間を通して、「TCCの一日(One Day in the Life of TCC)」と題したグローバルな全体会議シリーズが行われた(TCCハワイ、2020年)。

図1:COVID-19 調査項目に対するTCC2020@25の回答



Strongly disagree:全くそうは思わない
Disagree:そうは思わない
No change:変化なし
Agree:そう思う
Strongly Agree:非常にそう思う

質問項目:
S1 オンライン授業がより普及する。
S2 オンライン授業がより世界的に広まる。
S3 オンライン授業の質が向上する。
S4 オンライン授業がより高い評価を獲得する。
S5 オンライン授業が自宅からよりアクセスしやすくなる。
S6 オンライン授業とオンライン学習への評価がさらに高まる。
S7 すべてが以前と同じになる。
S8 オンライン学習の新たな形が登場する。

 このオンライン会議は、COVID-19パンデミックの初期段階であった時期に開催され、これらの内容は、通常の会議評価アンケートとして参加者に提示された(図2)。アンケートの回答者110人の圧倒的多数が、新型コロナウイルスのパンデミックがオンライン教育・学習の本質を変容させる、との考えに同意した。オンライン授業がより一般的、世界的になり、質が向上し、評価が高まり、自宅からよりアクセスしやすくなり、尊敬を集め、新たな学びの形が現れるかもしれない。参加者たちは、教育も学習も、もうこれまでと同じではなくなる、と強調した(図2、S7)。トルコのアナドル大学のアイディン(Aydin)教授(Torigoe、2020年)と熊本大学の鈴木教授(2020年)は、全体会議での発表の中で、小学校と学会が、それぞれオンライン配信にいち早く移行した経緯について言及した。

 Web 2.0(ウェブ2.0)

 Web2.0または読み書き機能のあるウェブ(the read-write web)が、ティム・オライリー(Tim O’Reilly)(2005年)が提唱し、広く知られるようになって以来、アプリケーションは、箱入りではなくなった。一般的に価格も手頃なものになったため、たちまち多数のユーザーが利用するようになった。このように急速な技術変化は、ユーザーがスマートフォンを所有することでもたらされたものであり、結果として、オンラインアプリストアを通してアプリが普及していった。ワールドワイドウエブ(WWW)は、静的な(読み取り専用の)ものから、ダイナミックな(読み書き可能な)プラットフォームへとシフトし、利用可能な情報がリアルタイムで変化するようになった。

 モバイル機器(Mobile devices)

 2019年2月、ピュー・リサーチ・センター(the Pew Research center)は、50億人以上がモバイル機器を使用、その過半数がスマートフォンの使用者であると伝えた。調査を行った先進国18か国の76%が、スマートフォンを持っていた。スマートフォンを持っていないのは6%に過ぎなかった。携帯電話の保有率を見ると、韓国が100%であるのに対し、アメリカは94%、日本は92%である。新興国をみても、スマートフォンの利用者は少ないものの、携帯電話の保有率は、過半数を大きく超える78% となっている。
 アンドロイドおよびiOSスマートフォンプラットフォームの成功により、この数字が今後も増え続けるのは間違いない。筆者は、モバイル機器(スマートフォンおよびタブレット)の利用が世界的に拡大するにつれ、オンライン学習は、ウェブベースからシフトし、モバイル機器(mobile device form factors)とより互換性のあるものになっていくとみている。現在では,ほんの2,3年前と比べても、はるかに多くのアプリケーションが、モバイル機器での利用に適したものとなっている。

 学習ツール(Learning tools)

 教員たちはすでに、モバイル機器やウェブに対応した多様なアプリケーションを授業で活用している。Zoom(ズーム)やGoogle Meet(グーグルミート)は、無料または最小限のコストで、オンラン・ミーテイングやリアルタイム授業に利用できる。Canvas(キャンバス)、Big Blue Button、Moodle(ムードル)など、さまざまな学習管理システムがあり、教育者はそれらを使ってコンテンツを非同期的に配信することができる。Jamboard(ジャムボード)、Google Drive(グーグルドライブ)、Padlet(パドレット)といった協調ツールは、使い方はシンプルながら、複数のユーザーがひとつのドキュメントに取り組むための機能を提供してくれる。他にもある。Flip grid(フリップグリッド)やPadlet(パドレット)は、非同期的な学習を促進し、Socratic(ソクラティック)やMentimeterは、双方向のクラス・ミーティング(class meetings)、さらに同期的なオンラインイベントに役立つ。ジェーン・ハート(Jane Hart)(2020年)は、14年間にわたる教育者の年次調査にもとづいて、学習ツールを一覧表にした。

 デジタル・ディバイド(情報格差)(Digital divide)

 2018年、ピュー・リサーチ・センターが実施した調査によると、農村部の成人の24%が、高速インターネットへのアクセスが地域社会における主要な問題だと答えている(Parkerその他、2018年)。インターネットの費用が、多くの住民にとって手頃なものではないという回答もあった。2017年のレポートによると、アメリカの農村部でのインターネット接続率はかなり高いにもかかわらず、6千万人以上の都市部のアメリカ人が、ブロードバンド・インターネットへのアクセスができないか,アクセするだけの経済的余裕がないことが明らかになっている(Molla, 2017年)。
 公共政策研究で名高いNPO法人である、ブルッキングス研究所は、インターネットはもはや「あるといいもの」ではない、不可欠だ、と述べている。インターネットは、水道、ガス、電気につぐ4番目のライフラインなのだ。在宅で仕事をする、勉強をする、あるいは失業補償の申請をする、そのいずれであれ、インターネットがそうした活動を維持し、生かし続けてくれるのだ(Wheeler、2020年)。
 経済先進国と比較したときの新興国の違いを考えると、すべての人にインターネットへのアクセスを提供するための公益と企業などの私益の両方が必要である。アメリカでも、農村部やへき地では、学生が授業にオンラインでアクセスできない地域がある。一般的に、これは、政府機関が担うべき対策である。
 しかし、若干の進展もあった。ピュー発行のトラストマガジン(Trust Magazine)レポート(Winslow、2019年)「アメリカのデジタル・ディバイド(情報格差)」によると、農村部と都市部の州の政策立案者が、官民の連携や、過疎地域にブロードバンド・インターネットをもたらすために財団からの助成金を利用するなど、新しい方法を生み出しているという。メイン州の海岸沿い、インディアナ州の農村部、そしてノースカロライナ州では、小規模プロバイダーの台頭もみられる。
 専門家と2つの消費者擁護NPOが、最新の連邦通信報告書(Federal Communications Report)に対して、提示されたデータには欠陥があり、デジタル・ディバイドの問題に対処するための対策を講じなければならないと異議を唱えた(『コンシューマー・リポーツ(Consumer Reports)』、2020;Taglang、2020年)。残念ながら、この格差は依然として存在し、アメリカ政府は、いまだにこのデジタル・ディバイド(情報格差)を縮める対策を講じていない。

結論


 COVID-19パンデミックにより、2020年春、教育者たちはオンライン学習へと転換しなければならなくなった。 パンデミックは、あらゆるレベルで教育と学習(teaching and learning)を混乱させている。しかし、この転換への取組みが、管理者、教員、専門家、学生たちの協力と連携を得て成功を収めているという証拠が、徐々にではあるが現れ始めているのだ。筆者の見解では、これは、やがてオンライン学習のよりよい実践を生み出す壮大な実験である。オンライン学習は、世界中で発生し、場合によっては、学習の主要形態になるだろう。オンライン学習の評価は今後高まっていくであろうし、数年後には、当たり前のものになるかもしれない。オンライン(ユビキタス)での教育と学習のあり方、方法は大きく改善され、わたしたちの日常の一部、特徴となっていくだろう。

Bert Y. Kimura

ハワイ大学 名誉教授
米国ハワイ州ホノルル

ハワイと神戸を半年ずつ行き来している。ハワイ大学では教育工学の講座を持つ。関西大学ではICTを活用した新しい教育について指導をしている。

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