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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第30回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2022年2月~2022年3月

持続可能な世界を目指して~コロナ危機の中の挑戦~

読者からのコメント

青木 繁
TVプロデューサー

 2021年末から2022年にかけ、COVID-19の変種オミクロン株の出現で、再びパンデミックが各国で発生、感染の深刻な事態はおさまる気配がない。飯吉先生のご指摘のように「コロナ禍における日本の大学の授業は、残念ながら感染拡大状況によって、対面とオンライン・ハイブリッドの間を右往左往させられているだけのように見受けられる」が実情で、多くの大学では、対面の授業はいつ再開できるか見当がつかない状況にある。
 しかし、京都大学はこの危機的状況を打開する基本的なスキル、つまり、飯吉先生の言う「飛び道具」を既に手にしているように思えた。「飛び道具」とはICT の活用方法や、教育的イノベーションの実践の経験知である。十数年前から世界的な大学の遠隔教育ネットワークedXへの参加や、JMOOC /Gaccoでの日本人向け遠隔教育実践の経験は、ポストコロナ時代、日本や世界の高等教育の遠隔教育の改革を京都大学が担う可能性を感じた。
 京都大学の遠隔講座KyotoUXを覗くと、どれも教育コンテンツとしての完成度が高い。例えば、倫理学の講座では日本が得意なマンガを使っての授業を行うなど興味を引く工夫が読み取れる。また、統計学の講座は遺伝子解析に必要な統計学の分析手法を取り上げ最新の学問的成果を伝える興味深い内容である。さらに、シラバス、教育目標の明記、学習期間などは、適切に明記され、講座としての完成度の高さが理解できる。
 京都大学高等教育研究開発推進センターのHPには20名近くの教員・研究員紹介が紹介されている。センターは大学改革と研究機関としての機能を持ち、そして、教育コンテンツの企画制作、評価、改訂などの一連作業をこの人たちが担っている。コロナ禍における日本の大学の授業の多くは、一人の教員に遠隔授業の実施が全て任され、コンテンツの魅力度や、内容の評価には十分な配慮がなされていない現状と大きな違いがある。
 論文で興味深い点は「大学の社会的責任入門」の講座である。「大学は世界の経済・社会・文化・環境等の様々な課題に対して共に取り組み、解決策を提示する義務がある」という言葉には全く同意する。大学は教育機関として、社会人のリカレント教育や生涯教育をも受け持ち、また、SDGsなどでも積極的な関わりを持つことが期待される。日本の企業も最近は社会的責任(CRS)に積極的に取り組み始め、社会貢献活動や海外生産拠点の人権問題についてまでにも発言するようになった。京都大学の「大学の社会的責任」への取り組みに大いに期待したい。
 最後に、本論文では記述がなかった点について二つ述べたい。一つは、京都大学の制作した教育コンテンツはどのような教育効果が期待できるかという点である。これは長期的な研究が必要である。遠隔教育の有効性、この教育方法が得意とする分野など、今後、継続的追跡研究を行い、ぜひ明らかにしてほしい点である。もう一つは、コストについてである。一つのコンテンツの制作費は、例え高価であっても、利用できる学生数や期間が長くなれば効率的と考えられる。対面授業との費用の比較、教育効果の対比、言語のローカライズとコストの問題、専門制作スタッフの人件費など、多面的な視点からの分析をぜひ行って欲しい。 コロナ禍のために一挙に進んだ遠隔教育の利用をさらに今後も発展させるために、京都大学や飯吉先生の取り組みが今後大きく貢献することに期待したい。

青木 繁

TVプロデューサー

青木 繁(あおき しげる)
東京工業大学 博士課程
1950年生まれ。横浜国立大学、国際基督教大学大学院で教育学・視聴覚教育を専攻。その後、日本放送協会(NHK)に入局、教養番組部、生涯教育番組部、経済情報番組部、NHKアーカイブス、学校放送番組部などで、ディレクター、チーフプロデューサー、部長を担当。日本放送出版協会では、マルチメディア推進室でデジタル出版を、NHK編成局では、教育コンテンツの国際コンペ「日本賞」(Japan Prize)、アジア放送連合の国際共同制作「ABU未来への航海」、毎年秋に開かれる「教育フェア」の各事務局長を歴任。
現在は、東京工業大学環境・社会理工学院・人間科学系(Tokyo Institute of Technology, Department of Social and Human Science)の博士課程で宗教社会学を勉強中

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