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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第17回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2008年2月1日~2月29日

非英語国のテレビ国際放送

[討議(3)] 国際放送論考

音 好宏
上智大学文学部新聞学科 教授

<はじめに>

国際放送は、いま、世界的な変革の時期を迎えている。

日本においても、2007年末の放送法の改正により、映像国際放送の活性化を促す制度整備がなされた。いま、なぜ国際放送が議論を呼んでいるのか。ここでは、日本における国際放送をめぐる論議を手がかりにしながら、今後の国際放送のあり方について問題提起をしたい。 国境を越えるテレビ放送に注目が集まるようになったのは1980年代に入ってからである。まず、その背景にあったのは、衛星に代表される電気通信技術の急速な発達であった。衛星を使っての放送サービスは、その伝送コストが安いことから、次世代の放送サービスとして期待がされた。視聴者が直接受信をする衛星放送サービスを世界に先駆けて開始したのは、NHKである。1984年にNHKは、BS放送の試験放送を開始、1989年には本放送化をしている。国内の難視聴対策として始まったこのBS放送は、韓国、台湾など、周辺諸国からは、スピルオーバー(電波漏れ)に対する反発が生じたものの、その新たな放送サービスの可能性を内外に示すこととなった。

この時期、西ヨーロッパ諸国において、地上民放の開局など、多チャンネル化が進んでいたが、EU域内の統合が進められるなかで、国境を越えたテレビのあり方に関する制度整備も進められつつあった。特に国境が入り組んだヨーロッパ諸国においては、隣国のテレビ放送の電波が越境することは珍しいことではなかった。衛星を利用した放送サービスは、地上放送と連動する形でサービスが設計されていくことになる。

そのようななかで、1980年代末には、東ヨーロッパで社会主義体制が連鎖的に崩壊することになる。この東欧革命には、西ヨーロッパ諸国の放送が、国境を越えて東欧の住民にも視聴されたことが、東欧諸国の体制変革に影響を及ぼしたことが指摘されている。この時期の国際政治構造の変化は、国際放送のその後の進展にも少なからず影響を与えたと言える。1980年代末の冷戦構造の崩壊による国際政治バランスの変化は、発展途上国、旧社会主義国などにおける政治システムの民主化を促し、同時にメディアに対する規制緩和も進んでいった。そのようななかで、海外のテレビ放送の受信や番組流通に対しても、規制が緩められていったことで、先進諸国のみならず、新興国においても国際テレビ放送を開始するところが出てくる。

東アジアで言えば、1991年に香港の有力財閥の一つ李嘉信が率いる長江実業が始めた汎アジア向け衛星放送サービス「スターTV」(1993年にニューズ社が株を買収し、実質的な経営権を取得)や、1999年に韓国政府が放送を始めた衛星国際放送「アリランテレビ」等が、その例として挙げられよう。また、日本においても、1995年よりNHKが海外在住の邦人を主な対象に、テレビ国際放送を開始。1998年にはテレビ国際放送である「NHKワールドTV」と番組配信による「NHKワールド・プレミアム」の2本立てによる国際放送サービスの整備を行っていく。

このように1990年代には、その環境の変化のなかで多様な国際テレビ放送が登場し始めることとなる。ただし、世界的に見ると、BBCとCNNという2つの英語放送が、1990年代以降に世界的に進んだ多メディア・多チャンネル化の流れなかで、国際的なニュース専門チャンネルとして受け入れられ、その市場を世界に広げていった。CNNは、1991年の湾岸戦争において、西側メディアとして唯一バグダッド取材を許されたことをきっかけに、世界的なニュース専門チャンネルとしての地位を確立。他方、伝統的にその報道内容に信頼性のあるBBCのブランド力を生かして、その海外向けサービスである「BBCワールド」が積極的なセールスをしかけていく。

結局、この10年間で、実質的な国際語として機能しつつある英語による放送であり、かつ、国際的な取材網を持つ報道機関としてのニュースの質を売りものに、国際的なビジネス展開に長けたBBCとCNNが、国際放送として確固たる地位を確立したと言えよう。

このような状況を受け、近年、非英語圏の政府においても、英語による国際放送を強化する動きが活発になっている。それは取りも直さず、自国の意見や考えを世界に知ってもらい、国際世論において一定のプレゼンスを示すことが国際関係において極めて重要との認識が広まったためと言える。

例えば、フランス政府は、2006年12月から、英語によるニュース専門チャンネル「フランス24」の放送を開始した。当時のシラク大統領が同局の開局を強く推進したのは、2003年のイラク戦争の開始にあたって、国連などで展開したフランス政府の主張が、国際的なメディアがないために、国際世論を説得できなかったことを痛切に感じたからだとされる。

もちろん、1990年代に多様な映像国際放送が登場したときとは異なり、当時から見て、衛星技術、そして、インターネットの普及・高度化により、動画配信の技術も飛躍的に向上した。そのようなメディア環境の変化は、取りも直さず国際放送のあり方自体に対しても影響を与えていくことになる。具体的には、これまで多言語によって行われていた国際放送サービスの言語を絞り、その代替措置としてインターネットによる配信に転換する一方で、英語放送の強化を行うところが増えてきている。その端的な事例がNHKによる日本の国際放送であろう。

<日本における「国際放送」強化の論議>

前述のような海外の国際放送に対する動きもあり、日本国内でも、その国際放送のあり方に関する論議が活発となる。その具体的なきっかけとなったのは、2006年1月に、当時の竹中平蔵総務大臣の肝煎りで始まった「通信と放送のあり方に関する懇談会」である。同懇談会では、通信・放送制度の抜本的改革がその中心的な課題であったが、日本の国際的な情報発信力の強化、日本の映像コンテンツ産業の国際市場での競争力強化なども併せて論議がなされ、同年6月上旬に出された同懇談会の最終報告書で「国際放送の強化」が謳わるに至る。

これを受けて、総務省と与党との政策調整を踏まえてまとめられた「政府与党合意」では、国際放送に関して「新たに外国人向けの映像による国際放送を早期に開始する。その際、新たに子会社を設立し、民間の出資等を積極的に受け入れるとともに、必要な国費を投入する」とされた。

総務省では、この問題を情報通信審議会に諮問。同審議会の下に「映像国際放送の在り方に関する検討委員会」が設置され、映像国際放送の強化に関する検討が進められた。

総務省サイドにとって、NHKが行っている現行の国際放送の枠組みはあまり変えずに、「政府与党合意」が求めている外国人向け映像国際放送の発信力強化を図りたい。言い換えれば、法制度にはあまり手をつけずに、外国人向け映像国際放送の強化がなされたという格好をつけたいというのが、本音ではなかったか。

竹中懇の論議などを振り返って見ても、外国人向けの映像国際放送の強化を図る目的は、外国人の日本理解の促進にあることは間違いない。ただし、それは、新たに国際放送を行う組織体を作り、情報発信のチャンネルを整備しても、外国人がその国際放送に接してくれなければ、目的は達成されない。ただ、発信量が増えるだけなら、日本側の自己満足で終わりかねないのである。

<「命令放送」問題の浮上>

加えて問題を複雑化したのは、竹中大臣を引き継いだ菅義偉総務大臣が、当時の安倍政権が重要政治課題として掲げていた「北朝鮮による拉致問題」について、NHKラジオ国際放送において「命令放送」として、重点的に扱うよう指示したことによる。この菅大臣の姿勢に対しては、報道機関への政治介入を招く危険性があるとして、日本新聞協会などのメディア関連団体や市民団体などから批判が相次いだ。

菅大臣は、NHKの編集権を尊重するとしながらも、このNHKラジオ国際放送に対する命令書に北朝鮮拉致問題を扱うよう明記するとの方針を変えず、国際放送の実施命令の変更という形で、電波監理審議会に諮問。電波監理審議会は、国際放送の実施命令の変更について、その答申に「総務省においては、従前と同様、日本放送協会の編集の自由に配慮した制度の運用を行うことが適当である」との一文を付け加えたものの、実施命令の変更は「適当」との判断を下した。

それまでNHKラジオ国際放送に対する命令書には、「放送事項」として、(1)時事、(2)国の重要な政策、(3)国際問題に関する政府の見解、の3点が掲げられるだけであったが、これに加えて、「上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること」との一文が付け加えられた。

この一連のやり取りに対して、「NHKは報道機関として総務省に対して反発すべき」とか、「電波監理審議会は、この問題を時間をかけて審議すべき」と言った批判が出される一方で、「そもそも命令放送とは、なぜできたのか」、「国際放送に国費を出すべきなのか」などといった本質的な問いも多く見られた。NHKラジオ国際放送の「命令放送」という制度そのものがフォーカスされたことで、前後して抜本的な検討が始まった映像国際放送のあり方に関する論議にも、少なからず影響を与えることとなった。

具体的には、この「命令放送」問題が浮上したことで、前述の「映像国際放送の在り方に関する検討委員会」の論議においても、その中間取りまとめで、映像国際放送の制度設計にあたっては、「編集権の所在が明らかにされるとともに、番組編集の自由が適切に担保されるよう、具体的な制度設計がなされるべきである」とされた。

このような論議を経て、2007年12月の放送法改正によって、国際放送の制度整備が行われた。今回の改正では、NHKが行う国際放送を<外国人向け>と、<在外邦人向け>に分離した上で、<外国人向け>放送については、NHK子会社に委託することにより実施させるというもの。NHK子会社が、(1)NHKの放送について、番組制作・編成等の実務の委託を受ける、(2)それ以外の独自放送を行う、の2つのサービスを行うことになり、(1)の編集権はNHKに、(2)の編集権は子会社に帰属する。また財源は、国費に加えて受信料の投入、並びに、独自放送の部分では広告収入も可能となる。

また、先に触れたように、この国際放送をフォーカスすることになった「命令放送」制度については、「命令放送」を「要請放送」に変更。その要請内容は「邦人の生命、財産の保護、国の重要な政策にかかる事項」に限定。さらに政府がNHKに国際放送の要請を行う際には「放送番組の編集の自由に配慮しなければならない」との条文が付け加えられた。このような制度整備を受けて、2009年には新たな国際放送が開始されることになっている。

今回の国際放送強化の狙いである新たな外国人向け映像国際放送制度においては、民間からの出資やコンテンツ提供に道を拓くことになったが、実際のところ、民間企業にとって、この事業に参入することがどれだけビジネス・チャンスを得ることになるのか、その採算性も含め不透明な部分が多い。外国人向けの映像国際放送が成功するには、その発信力を高めることはもちろん、海外での受信環境が整備されるとともに、受信者側にとって、より魅力的な日本発の情報、日本製コンテンツが提供されなければ、日本発の情報を選択・接触してもらえないのである。その意味において、この外国人向け国際放送強化のための改革は、日本のコンテンツ政策、引いては文化産業政策と表裏一体の関係にある。

そうであればこそ、今回の新たな映像国際放送の立ち上げを論議するにあたって、改めて、日本の「ソフトパワー」とはどのようなものであるべきか、本質的な論議をするべきであろう。

諸外国を見回してみると、近年、自国の「ソフトパワー」の強化のために、戦略的な文化産業政策の展開が活発化している。特に近年の韓国ドラマにおける「韓流ブーム」や、中国・中央電視台(CCTV)の世界展開など、日本の近隣諸国においても、積極的なメディア戦略が図られている。東アジア地域において、一足先に近代化を成し遂げ、まがりなりにも「言論の自由」が担保されている日本に相応しい国際放送のあり方が、トータルな文化産業政策のなかでデザインされるべきであろう。

<日本に求められる国際放送とは>

そのようなことを含めて考えると、日本から発信される国際放送のあり方とはどのようなものであるべきだろうか。

日本国内で国際放送の強化をを求める声の背景には、単なる日本の発信力強化ということのみならず、国際関係におけるプレゼンスの強化といった政治的な意図を前面に押し出した発言も多い。また、中国、韓国など、近隣諸国の対外情報発信力の強化に対する警戒感を露わにする一部の声もあると聞く。

日本から発信する国際放送に求められるのは、日本政府の政策や意向を宣伝するのではなく、何と言っても、日本で起こったこと、そして日本国民の意見や考えを、ありのままに紹介することではなかろうか。

アジアにおいて、比較的早く近代化を成し遂げた日本は、その近代化の過程において「近代ジャーナリズム」の理念も早くに受容するに至った。加えて、20世紀に入って、周辺諸国に軍を進め、多くの民間人に被害をもたらしたという歴史の記憶は、いまだに周辺諸国との関係に影を残している。

とすれば、まがりなりにも民主政治を標榜しする法治国家であるならば、近代化を進めるアジア諸国にとって見本となるような民主的なメディア・サービスを国際放送で行っていくことが責務ではなかろうか。

日本から発信される国際放送では、報道機関として、日本の良いことも悪いことも、伝える姿勢を示し続けることが、日本のメディア、ひいては日本という国の民主主義の成熟度を示すことにつながると考えるのである。

音 好宏

上智大学文学部新聞学科 教授

1961年、札幌生まれ。上智大学大学院博士課程修了。 日本民間放送連盟研究所勤務、上智大学教授、コロンビア大学客員研究員などを経て、2007年より現職。専門はメディア論。 主な著書に『グローバルメディア革命』(リベルタ出版・1998年)、『放送メディアの現代的展開』(ニューメディア・2007年)、『放送を学ぶ人のために』(世界思想社・2005年)、『グローバル・コミュニケーション論』(世界思想社・2007年)などがある。

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